メーカーにリサイクルの責任を負わせるコンピュータ回収キャンペーンCTBC

 もし使用済み製品の廃棄処理の責任がメーカーにあったとすると、どうなるだろうか? 全米に広がる環境グループ連合のCTBC(コンピュータ回収キャンペーン;Computer Take Back Campaign)は、もしそうだとしたらその結果として、全国的なリサイクルネットワークが生まれたり、メーカーが後で対処する必要をなくそうとするため、鉛、水銀、臭素化難燃剤などの有害物質が製品に含まれなくなったりすることになるだろうと期待している。CTBCはこの案を2002年以来推進してきたが、これまではそれほどの成果は上がっていなかった。しかし今年ついに広く受け入れられる見込みが出てきたようだ。

 CTBCの全国的な主催団体の1つであるテキサス環境キャンペーンのRobin Schneider氏は、廃棄処理の責任を企業が負うという考え方が従来の北米的な企業責任についての見解とは相容れないということを認識している。しかし、EUではEU諸国に対して回収法を制定するように求める一連の指令がすでに出ており、同キャンペーンの考え方もそのことにヒントを得ている。

 そのような指令には、EU諸国に対して回収法の制定を命じる欧州議会の2002/96/EC指令、他に選択肢が存在する限り製造においていくつかの有害物質の使用を禁じるRoHS指令(家電・電子機器における特定有害物質の使用の制限に関する指令)、使用の安全性が証明されるまでその物質の使用を認めないというREACH(化学物質の登録、評価、認可及び制限)規制などがある。

 このような考え方は北米企業の考え方とはまったく異なっている。Schneider氏が顔をしかめて言うように「米国ではまだ、どの化学物質も有罪判決が下されるまでは無罪であるという認識」になっている。しかしCTBCやグリーンピースといった団体の努力の結果、現在そのような認識はゆっくりと変化している。

 Schneider氏によるとCTBCは2000年頃、当時ヨーロッパで策定中だった回収法案を弱体化させようとする米国政府の取り組みに反対するために組織化された環境保護団体が元となって誕生した。

 CTBCは2002年に本格的に始動した。CTBCの主旨は、回収法案の州議会の通過を後押しすることだ。そのほかにも、バーゼル条約を無視した電子機器廃棄物の発展途上国への投棄(翻訳記事)に反対することもしている。また刑務所を利用したリサイクルプログラムにも反対している。その理由は、受刑者や看守が有害廃棄物にさらされることになるためと、刑務所が常に通常よりも低賃金で仕事を請け負うことが可能であるために経済的に自立したリサイクルの発展が損なわれることになるためだ。

 なお、基本的にCTBCはリサイクルの前にハードウェアを再使用することも支持しているが、Schneider氏によると再使用については最近まであまり重視していなかったとのことだ。

 またSchneider氏は、「CTBCは米国の政策にだけ焦点を当てている。しかしメーカーがさまざまな司法管轄区のための製造ラインをわざわざ個別に用意するということはありそうになりため、われわれが行っているキャンペーンは結果として米国以外の国々における状況の改善にもつながっている」としている。

DellとAppleのサクセス・ストーリー

 的を絞ってキャンペーンを効果的にするために、CTBCは一企業に狙いを定めて取り組むことにした。CTBCが選んだのはDellだ。Dellの本社はテキサス州ラウンドロックにあるため、この取り組みの大部分は、草の根キャンペーンにおいてすでにかなりの実績を持っていたテキサス環境キャンペーンによって取りまとめられた。なおその頃同時に、グリーンピースもDellの海外事業を非難していた。

 やがてDellには、(Schneider氏の言葉を借りると)「どのみちヨーロッパでは近々行わざるを得なくなるリサイクルを米国でも行う」ことを創設者のMichael Dell氏に求める文書やメールが殺到するようになった。抗議者たちは、株主総会に出席し始めた。またMichael Dell氏がCESに出席して基調講演を行ったときには、消費者が料金を負担する任意のリサイクルプログラムでDellが囚人労働を利用していることに抗議するために、囚人服に身を包んだCTBCの抗議者たちが現われた。Dell氏がテキサス大学オースティン校の卒業式で講演したときには、横断幕を掲げた飛行機が頭上を飛んだ。Dell氏の妻までもその標的となって、彼女が秋の新作ファッションの下見をしていたときにはショップに抗議者が現われた。

 Schneider氏は今思うとMichael Dell氏はCTBCの主張に対して特にオープンだったという。その理由の1つとしては、Dell氏の娘が熱心な環境保護主義者であるらしいということがある。また別の理由はSchneider氏によると「Dell氏がどのような業績を残したいと考えているのかもその理由だと思う。電気電子機器の廃棄物が発展途上国で最終的にどのような状態になっているのかや、人々にどれほどの害を与えているのかを示す映像を何人かのDell氏の部下がDell氏に見せたと聞いている。自分の名前が付いた企業を抱えている人は、このようなスキャンダルからの攻撃を特に受けやすいのだ」とのことだ。

 Schneider氏によるとそのようなこともありDellは、「最初は広報上の問題のように取り扱っていたものの、まもなく積極的に協力をしてくれるようになった」という。Dellは、リサイクル問題だけでなくDell内部の政策や慣行も扱う、ビジネスの持続可能性を担当するディレクタを雇った。今ではDellのウェブサイトにはDell Earthというページが設けられていて、Dellの環境保護活動を宣伝している。またグリーンピースの評価によると、今やDellは現在操業中のメーカーの中でも最も環境にやさしいハードウェアメーカーの1つとなっている。改善の余地はあるとはいえ、Schneider氏はCTBCの取り組みの結果が「Dellの経営方針に大きな変化をもたらした」としている。

 さらに新しいケースとして、CTBCはAppleにも同様の関心を持つように仕向けることができた。ただしAppleの場合には、前副大統領Al Gore氏が取締役会にいたことがCTBCにとっては有利に働いた。Schneider氏によると「Gore氏本人やGore氏の部下と話し合う機会があった。このことは間違いなく、CTBCが(Appleのケースにおいて)これまでに成功を収めることができた理由の1つだと考えている」とのことだ。

 CTBCの取り組みの標的になって以来Appleは、Appleのコンピュータを購入する際にユーザがどのメーカーのコンピュータでもアップルにリサイクルしてもらうことができるという回収プログラムを導入した。Schneider氏は、この回収プログラムでコンピュータを回収してもらおうとすると必要以上に複雑で不便な点もあるとしながらも「しかし2004年にCTBCがAppleに対する取り組みを始めたときと比べると間違いなく大きな進展だ」としている。

2007年:回収の年となるか?

AppleやDellの成功例からある程度の今後の成功は予測できていたが、Schneider氏は2007年になってからの急速なCTBCの勝利には驚いたと告白した。8月には、Sonyが独自の回収プログラムを発表した。Schneider氏は、この回収プログラムを最大限に活かすためにはSonyのリサイクル拠点の数がまだ少なすぎると指摘するが、「それでもSonyは責任感のあるやり方で適切な回収を行うことを明確に検討していて、CTBCもそのことに関してSonyと話し合いをしている」と述べた。

 他のメーカーはまだこのような形では反応していないものの、CTBCの主要な反対勢力の1つで、リサイクル費用をメーカーではなく国と消費者に負担させることを主張するElectronic Manufacturers Coalition for Responsible Recycling(責任あるリサイクルのための電気電子機器メーカー連合)のメンバーが最近減ってきているとSchneider氏は指摘した。なおこの連合から最近脱退したメンバーにはSony、LG、Samsungがある。

 Schneider氏によると「(ヨーロッパなどの)一部の国々ではコンピュータの回収を支持している企業が米国では反対するというような方針では、企業の印象が悪い」とのことだ。

 さらに重要なこととして、これまでのメイン州、メリーランド州、ワシントン州に加えて、2007年には米国の5つの州(オレゴン州、ミネソタ州、テキサス州、ノースカロライナ州、コネチカット州)で回収法案が通過した。なおカリフォルニア州でも州が主催するリサイクルプログラムがあるが、このプログラムはユーザが支払う料金がベースとなっている。また、さらに多くの州でもCTBCを広めるために、北東部や中西部の州で行われている取り組みを取りまとめる試みが現在進行中だ。

 Schneider氏は「われわれ自身、驚いている。今年中に1つか2つの州で法案が通過することを望んでいたが、5つの州での通過を見ることができた。われわれが考えていたよりも急速に、良い方向に風向きが変わってきたようだ。米国がEUの標準に達するまでにまだ長い時間がかかるとしても、これまでの5年間一所懸命に頑張ってきた結果、CTBCはこれまでになく順調に進んでいる」と述べた。

IT Manager’s Journal 原文