米国の特許制度は危機に瀕している――GoogleやIBMらが問題点を指摘――特許改革法に加え、審査プロセスの見直しなどを提言

 米国カリフォルニア州パロアルトで開催された「Stanford Summit 2007」(7月31日-8月2日)のパネル・ディスカッションに、Googleをはじめ、IBMやAppleの幹部らが参加し、米国の特許制度がゆがめられ、乱用されていることに懸念を表明した。

 「The Patent Crisis:Crossroads for the Business of Technology」というタイトルのとおり、このパネル・ディスカッションでは、米国の特許制度が抱える問題について議論された。具体的に挙げられた問題点は、特許侵害に対する賠償金の額がきわめて大きいこと、さほど重要でない発明にも特許が認められていること、十分な調査を経ていない質の低い特許が存在することなどだ。

 パネリストとして参加したAppleの主任特許弁護士、チップ・ルトン氏は、特許制度の現状をバブル市場になぞらえたうえで、過剰に膨れ上がった特許使用料を手にしようと多くの企業が特許の買い占めに走っていると指摘。裁判所に対しても、そうした行為を抑えることができていないと批判した。

 また、Googleの次席法律顧問で特許問題の責任者を務めるミッチェル・リー氏は、米国の特許制度が危機に瀕していると訴えた。IBMのバイスプレジデント兼次席法律顧問であるデビッド・カポス氏も、近年裁判所が認めた損害賠償には異様に高額なものが含まれているとして、賠償額のあり方を見直す必要性を強調した。

 特許訴訟が極端な方向に走った例としてしばしば引き合いに出されるのが、米国の知的財産保有会社NTPがカナダのリサーチ・イン・モーション(RIM)を相手取り起こした裁判だ。

 昨年和解が成立したこの訴訟では、ほとんどの米国ユーザーにBlackBerryサービスを提供できなくなるという危機に直面したRIMが、NTPに和解金6億1,250万ドルを支払っている。NTPの特許は無効であるとの予備的判断を特許局が何度も下しているにもかかわらず、裁判所はRIMがNTPの特許を侵害したと判断した。

 ITベンダーの多くは、こぞって各種の特許を買い集め、ライバル企業が特許訴訟を起こしたとき(あるいは訴訟になりそうなとき)に武器として使っている。フェンウィック&ウェストLLPの弁護士で知的財産が専門のデビッド・ヘイズ氏も、技術開発を行っている新興企業に同様の措置を講じるよう勧めていると語っている。

 Googleのリー氏は、他社が特許訴訟をちらつかせ、自社のライセンスを購入するよう求めてくる場合に備えるべきだと話す。「他社から要求があったとき、いきなり小切手を切るのはまずいやり方だ」(リー氏)

 米国議会で現在審議されている特許改革法案(Patent Reform Act of 2007)については、4人のパネリストは一様に高く評価している。この法案は、特許の取得を難しくすると同時に異議申し立てを容易にするというもので、この法案が成立すれば裁判所が特許の価値を判断する方法も変わると見られている。

 もっとも、この法律だけでは不十分だとパネリストたちは指摘する。

 Appleのルトン氏は、特許の出願件数があまりにも多く、審査時間を十分に確保できていない現状を改めるべきと語った。同氏によると、特許1件当たりの審査時間は平均で20時間以下だという。またフェンウィック&ウェストのヘイズ氏も、毎年およそ40万件の特許が出願されているため、1社が提出した1件の特許を審査するだけで3~5年はかかると説明する。

 これに対しIBMのカポス氏は、特許調査官を増やしても審査時間の短縮にはつながらないと語り、特許局はアプローチを変更し、審査を支援する新技術を導入すべきだと訴えた。Appleのルトン氏も、大半の特許が実際に使用されず、異議申し立てを受けることもないとして、ターゲットを絞り込んだ審査プロセスを導入するよう提案した。

 新興企業が直面するもう1つの問題は国際的な特許だ。フェンウィック&ウェストのヘイズ氏は、米国外で特許を買い取るための資金が限られている新興企業は、中国やインド、ヨーロッパの順に特許を探せばよいとアドバイスする。

 なかでも中国で特許を取得するのは有効だと、Googleのリー氏は強調する。「中国は法整備が遅れていると言われているが、同国の特許制度は急激に変化しつつあり、次第にヨーロッパの標準に近づいている」と同氏。中国で技術革新がさらに進めば、知的財産保護の機運も高まると同氏は見ている。

 ちなみに、Googleは中国の知的財産法の現状を身をもって学んだITベンダーの1社だ。同社は今年4月、中国のポータル・サイト「Sohu.com」が開発した中国語/人名辞書の一部を無断でコピーしたとして、同サイトから警告を受けた。Googleはコピーしたことを直ちに認め、不注意だったと謝罪している。

(スティーブン・ローソン/IDG News Service サンフランシスコ支局)

提供:Computerworld.jp