米国上院に新たな特許法改正案が──「先願主義」を巡り賛否両論

 米国連邦上院議会に先週提出された米国特許法改正法案(Patent Reform Act of 2006)は、大手ITベンダーがその内容を賞賛する一方で、発明家や一部の科学技術者は、その内容は小企業や個人の発明家に打撃をもたらすおそれがあると反対の声を上げている。

 同法案の最大の論点は、最初に発明した人に特許権を付与する「先発明主義」から、最初に発明を出願した者に特許権を付与する「先願主義」へ、特許付与制度のあり方を変更する条項が盛り込まれているところにある。

 Professional Inventors Alliance(PIA)の代表を務めるロナルド・ライリー氏は、「特許付与制度が先願主義に変更されれば、特許出願手続きを踏む資金的な余裕のない多くの発明家に不利になる」と主張する。

 同氏によると、特許出願手続きに必要となる手数料や法定代理人のためにかかる費用は平均でも1万5,000ドルに上っており、「多くの大手技術ベンダーが、特許制度の改正によって、事実上何の罰も受けずに発明家の財産を奪えるようになると期待している」という。

 「この法案は、すばやく出願できる余裕のある者に有利に働き、発明家が不届きな行為を行う企業を訴えざるを得なくなった際に公正な補償を受けられなくなる。卓越した発明能力が米国の強みであるにもかかわらず、特許権保護を弱めるというのは、信じられない暴挙だ」(ライリー氏)

 今回の法案は、上院が1カ月間の休会に入る直前の8月3日、上院の知的財産権(IP)小委員会の委員長であるオリン・ハッチ上院議員(ユタ州選出・共和党)と、IP小委員会の民主党筆頭メンバーであるパトリック・レーヒー上院議員(バーモント州選出・民主党)によって提出された。

 先発明主義から先願主義への移行は、昨年8月に下院に提出されたラマー・スミス下院議員(テキサス州選出・共和党)による別の特許法改正法案「Patent Reform Act of 2005 (H.R. 2795)」にも盛り込まれている。

 Microsoftとソフトウェア業界団体のBusiness Software Alliance(BSA)は、今回のハッチ/レーヒー法案を賞賛している。

 改正法案には、先願主義条項以外にも、特許侵害に伴う補償額の決定方法を変更し、裁判官に特許技術とそれが使用されている製品全体の価値を比較検討することを義務づける条項のほか、特許異議申し立てのための制度として、再審査手続きを可能とする条項も含まれている。

 なお、ハッチ/レーヒー法案は、下院の改正法案とは異なり、特許を侵害していると裁判所で認定された企業に対する差し止め命令を制限していない。

 ボストンのブルームバーグ&サンスタイン法律事務所(複数の技術企業の代理人となっている)の特許実務担当部門責任者、ブルース・サンスタイン氏は、大多数の発明家にとって、先発明主義から先願主義への移行は大きなマイナスにはならないと力説する。当初の特許出願手数料は100ドルで済むほか、最初に発明したのがだれであるかを法廷で争うためには10万ドル以上の費用がかかるからだ。

 先願主義の制度では、「ほとんどの場合、日付をいくつかチェックするだけで紛争は処理できる。それが発明家にとって大きなマイナスになるとは思えない。制度の単純さはむしろプラスに働くはずだ」とサンスタイン氏は強調する。

 しかし、オープンソースのGNU-Darwin OS Projectの筆頭開発者であるマイケル L.ラブ氏は、改正法案での先願主義条項に疑問を表明している。「先願主義は、最初の発明者がわからない場合だけに適用すべきである」というのが同氏の見解だ。

 また同氏は、「こうした先願主義的な条項は、特許の趣旨を踏みにじり、愚弄するもののように感じる。どこにも属していない発明者が締め出される可能性があるだけでなく、特許が単なる書類上の宣言になり果て、先行技術についての検討もなされなくなる可能性がある」と述べている。

(グラント・グロス/IDG News Service ワシントン支局)

提供:Computerworld.jp