オープンソース・コミュニティが欧州の特許制度協議でロビー活動を展開

 欧州の特許制度の将来について協議するプロセスでは、企業から最も多くの意見が寄せられたが、その次に多かったのがオープンソース開発者からの意見だという。これは、欧州委員会が7月5日に明らかにしたもの。

 欧州委員会が今年初めから進めている特許制度の協議プロセスでは、ITベンダーを含む企業から全体の40%に相当する2,515件の意見書が寄せられている。一方、オープンソース・コミュニティからの意見も24%に上っているという。

 しかし、企業が個別に意見を寄せているのに対し、オープンソース開発者からの意見は、ほとんどがソフトウェア特許に反対する活動の中でインターネット上に公開された文書そのものであり、しかもその大半は、1人の人物が書いたものであるという。その人物とは、昨年審議が進められたソフトウェア特許に関する法案を葬ることに成功したキャンペーン・グループ「nosoftwarepatents.com」の創立者、フロリアン・ミュラー氏である。

 ミュラー氏は、最近の電話インタビューで、「私がインターネットで公開した回答を複数の企業や個人が提出した」と述べている。

 同氏は、昨年末にいったんロビー活動から身を退いたが、コミュニティ全体をカバーする単一の特許制度(いわゆるコミュニティ特許制度)が制定される動きに反対するために復帰したという。

 現在、特許を取得するには、ドイツのミュンヘンにある欧州特許局に申請を出さなければならないうえ、その発明を利用する欧州連合(EU)加盟国でも特許登録手続きを行う必要がある。そのため、米国の制度に比べて4倍の費用が必要になるなど、制度改革がEUにとって最優先課題になっている。

 今年初め、欧州委員会やEU、規制部門の幹部は、欧州の政治家たちにとって30年来の懸案であったコミュニティ特許制度を策定するための合意形成に向け、最終的な努力を行っていることを明らかにした。

 欧州委員会は、業界、業界団体、学術機関、特許弁理士などとの協議を開始しており、この協議で明らかになった論点が、来週ベルギーのブリュッセルで行われる聴聞会に先立って公開されている。来週の聴聞会では、プロセスが決定されることになっており、その後、欧州委員会が、コミュニティ特許を推進するか、そのプロジェクトを棚上げにするかを判断する予定だ。

 欧州委員会によると、産業界は、おおむねコミュニティ特許の考え方を支持しているという。しかし、ビジネス・ソフトウェア・アライアンス(BSA)など一部の有力な業界団体は、消極的な姿勢を示している。

 こうした団体は、昨年ソフトウェア特許指示(正式には、コンピュータ実装発明についての指示と呼ばれている)のロビー活動に失敗したのと同じ轍を踏むのではないかと心配している。この指示が承認されれば、EUでも米国スタイルの特許制度が導入されるはずだった。米国では、欧州に比べてはるかに広範囲の技術に特許が適用されている。

 マイクロソフトなど世界の巨大テクノロジー企業の声を代弁するBSAで欧州政策を専門に担当しているフランシスコ・ミンゴランス氏は、「コミュニティ特許について議論を始めるのは、パンドラの箱を開けるようなものだ」と懸念を表明している。

 「コンピュータ実装発明法案が大失敗に終わったのを見て、多くの企業が、コミュニティ特許に関する議論でも同じことがより大規模に再現するのではないかと心配している」(同氏)

 オープンソース側のロビイストであるミュラー氏は、「コミュニティ特許は、政治的に存在意義を失っている。長期的なビジョンとしては残るかも知れないが、短期的には、大企業も、われわれも、さらにはドイツなどの主要国も、その必要性を感じていない」と指摘している。

(ポール・メラー/IDG News Service ブリュッセル支局)

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提供:Computerworld.jp