半導体ベンダー2社、特許改革法案に反対を表明――法案賛成派の大手ITベンダーらと激しく対立

 半導体ベンダーのTexas InstrumentsとAmberWave Systemsは6月27日、現在米国議会で議論されている特許改革法案に反対すると表明した。

 特許改革法案は、2005年6月に米国下院議会の知財小委員会によって提出された。その内容には、特許を出願した順番に特許権を認める「先願主義」への移行や、特許所有者の賠償請求算定方法の見直し条項、既存の特許に異議申し立てを行い、再審査手続きを可能にする条項などが盛り込まれている。

 特許改革法案を巡る議論は、「大手ITベンダー vs. 中小規模ITベンダー」という構図で見られることが多い。実際、Microsoft、Dell、IBM、Cisco Systemsらが加盟する非営利団体のBSA(ビジネス・ソフトウェア・アライアンス)は、議会に同改革法案の可決を求めている。

 一方、InterDigital CommunicationsやLSIといった中小規模のITベンダーは、同法案への懸念を表明している。

 Texas InstrumentsとAmberWave Systemsは、「特許改革法案の全条項に反対しているのではない」としたうえで、特許所有者の賠償請求算定方法の見直し条項と、既存の特許に異議申し立てができる条項は、「技術革新に水を差し、特許の価値を低下させる」と主張している。

 特許所有者の賠償請求算定方法の見直し条項には、特許に抵触する技術が特許を侵害している製品の一部にしか利用されていない場合に、特許所有者が製品販売者に対して請求できる賠償請求に制限を設ける項目が盛り込まれている。つまり、特許侵害の賠償額の算定は、その製品で利用されている特許技術の件数によって決まることになる。

 Texas Instrumentsで政府関係担当ディレクターを務めるエイミー・バーク氏は、この算定方法では賠償金額が低く抑えられると指摘したうえで、「特許の価値が低下し、特許侵害が横行する」と危惧する。

 一方、Cisco Systemsで政府関係担当ディレクターを務めるマット・タニエリアン氏は、「特許商標局(USPTO)は、問題のある特許でも安易に承認してしまう。それを“盾”に訴訟を起こされては、たまらない」と、現在の特許承認がうまく機能していないことを指摘する。

 タニエリアン氏によると、Cisco Systemsは、特許訴訟に対する“防衛費”として、年間4,500万ドルを費やしているという。現在も12件ほどの特許訴訟を係争中で、「(係争相手の)大半は、一度も製品を作ったり売ったりしたことのない企業だ」と憤る。

 BSAの弁護士、エメリー・サイモン氏は、現行制度に問題があると指摘する。同氏は、特許所有者が賠償金という名の“宝くじ”を当てたいために、むやみに訴訟を起こしているのが現状だと主張する。

 「特許を侵害している製品だったとしても、(特許侵害している部分は)製品全体から見ればごくわずかで、特許所有者が請求できる賠償額はもっと小額でよいはずだ。現行制度では賠償金が高額すぎる」(サイモン氏)

 AmberWave SystemsとTexas Instrumentsがもう1つ問題としているのは、既存の特許に異議申し立てを行い、再審査手続きを可能にする条項の「付与後異議申立制度(Post Grant Review)」である。

 付与後異議申立制度は、USPTOがすでに承認した特許に対し、異議申し立てを許可するものである。申し立ては、特許が承認されてから9カ月以内、または特許侵害があったと警告されてから6カ月以内に行うことができる。

 AmberWave Systemsらは、この異議申し立てが特許取得者に対してマイナスになると主張する。つまり、特許侵害をした側がUSPTOに異議申し立てをすることにより、既存の特許の有効性が疑問視され、結果として特許の価値が下がるというのだ。

 AmberWave Systemsの担当弁護士、クリストファー・ギャラハー氏は、「すでに承認された特許が疑問視されることは問題だ。これによってわれわれのような小規模ベンダーは、ベンチャー・キャピタルから資金を調達できなくなるなどの弊害が生じる」と語る。

 ギャラハー氏は、承認された特許に異議を申し立てる方法を考えるなら、議会はもっとUSPTOに予算を与えるべきだとしたうえで、「最善の方法は、最初に特許を承認する時点で、その特許を的確に判断できる仕組みを確立することだ」と主張する。

 一方、BSAのサイモン氏は、特許に異議を申し立てる方法はすでに存在しているとしたうえで、「(付与後異議申立制度は)反対派が主張するような特許の価値の低下にはつながらない」という見解を示している。

(グラント・グロス/IDG News Serviceワシントン支局)

米国議会
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提供:Computerworld.jp