アートとオープンソースが出会うLibre Graphics Meeting

 Linuxに関する普通の会合とは違い、Libre Graphics Meeting(LGM)の参加者の半数は開発者、残り半数はアーチストだった。今月上旬Polytechnique Montréalで開かれたこの会議には、はるばるオーストラリアやヨーロッパからも講演者が招かれた。写実的なベクトル描画の作成手法から映画やオンラインマガジンの製作方法まで、講演者によってさまざまな内容のプレゼンテーションが3つの部屋に分かれて行われた。

 John BintzとMentalguyの両氏は、自分たちの漫画『A Moment of Clarity』と『Last Bus』の制作にGIMPInkscapeをどのように使っているかを紹介した。紙と鉛筆で作業を始めて最終的には出版用のデジタルファイルを仕上げるまでの作業手順や、GIMPとInkscapeを簡単かつ効果的に使うためのヒントの説明があった。デジタル処理と従来法の双方によって、彼らの技法が通常の漫画製作でどのように活かされているかがわかって興味深かった。

 大部分がBlenderで作られた短編アニメーション映画『Elephants Dream』の監督Bassam Kurdali氏は、この映画の製作プロセスと利用したツールについて発表を行った。『Elephants Dream』の製作で非常に感銘を受けた点の1つが、Blender用のソースファイルがすべて入手可能で誰でも自分の作品でそれらを再利用できることだ。同じことがジャー・ジャー・ビンクス(Jar Jar Binks、『スターウォーズ』シリーズに登場するフルCGのキャラクタ)で行えることを想像してもらえれば、そのすばらしさがわかるだろう。『Elephants Dream』はどのプロジェクトにも共通する問題を抱えながらも、短編アニメーション映画の製作という目標を達成し、その途上でBlenderの多くの機能を向上させた。Kurdali氏は、近いうちに別のBlender Foundationプロジェクトが現れる可能性をほのめかした。アルゼンチンのManos Digitalesが、オープンソースツールだけを使った長編アニメーション映画を製作中だというのだ。オープンソースソフトウェアによってハリウッドの標準ツール群に伴うロックインから解放されるため、このプロジェクトではBlenderのCVSコミット権が技術監督に与えられている、と彼は語った。

 今回の会議でしばしば取り上げられたテーマが、コンテンツのライセンシング問題だった。これは、大量のコンテンツの使用と作成が行われるグラフィック・アプリケーションの本質的な問題であり、なかには非常に重要なものも含まれている。Open Font Licenseやクリエイティブ・コモンズ(Creative Commons)のようなライセンスは創造的活動と実用面での配慮のバランスを取ろうと試みているが、さまざまな新手のコンテンツの配布を望む人々やユーザにとってはあいまいな領域が依然として存在する。LGMでの議論を通じて、それまで関心のなかった人々にもこうした問題が提示された。

 LGMの参加者に対しては、InGIMPの最初の一般向けプレゼンテーションが行われた。InGIMPというのは、このツールを使って「実際の製作」を行うユーザからユーザビリティに関するデータを収集するために作られた測定機能付きのGIMPである。プライバシーとオープン性の双方に対するこだわりが強まるなか、収集データは誰からも参照できる公開Webサーバに置かれている。こうしたデータを集めているウォータールー大学(University of Waterloo)の研究グループは、席に着いて指示されたタスクを行うユーザのセッションで測定したユーザビリティデータを長期的な調査研究で利用することを計画している。ここから得られる利益の潜在的可能性は大きいが、データマイニングの問題はかなり根深く、今のところその効果は現れていない。このプロジェクトが援助を求めるために用いている手法でもう1つ独特なのが、送信されるユーザビリティデータの内容に基づいたアバターを作成していることである。例えば、主として写真の編集を行っている場合は、アバターの姿がカメラを持ったものになる。また、普段からマッシュアップを作成している場合は、フロア上にクリップアートの残骸が散りばめられる。このInGIMPをはじめとするそれぞれの分析ツールを利用することで、ユーザは自らのツールの使い方について知るとともに、収集済み全データとの全般的な比較を行うことができる。研究者たちは、アバターを中心としてコミュニティが形成されることを期待し、こうしたデータ分析がコミュニティ各員によるGIMPの使い方の向上に役立つと考えている。

 LGMは私が参加したオープンソースの会議のなかで最も女性の参加者が多かったが、女性の発表者は1人も見かけなかった。オープンソースに関して性差別が存在するとは思わないが、女性の参加比率が驚くほど低いことを認めないわけにはいかない。LGMでの女性参加者の多さは好ましい兆候ではあるものの、コミュニティはもっとさまざまなレベルで参加を促す必要があるだろう。個人的には、この問題についてぜひブレインストーミングを行いたいところだ。女性発表者だけが話せる時間枠があっても良いだろう。

 LGMのような会議で大事なことの1つとして、開発者たちが互いに顔を突き合わせて話ができるという点が挙げられる。すべてのメーリングリストに目を通す時間のある人などいないだろうし、解法が既によく知られた問題を解決したいという人もいないだろう。オープンソースの世界ですべてを学び直す時間的な余裕はなくても、たまに顔を合わせてビールを一杯やるくらいの時間はあるわけだ。

 この会議の計画と実行をすばらしい形で行ってくれたLouis Desjardins氏をはじめとする運営委員会のメンバー、そして会議を支援してくれた多数のスポンサーに改めて感謝したい。

Ted Gould氏はInkscapeプロジェクトの共同創設者であり、LGMではSVGに関するプレゼンテーションを行った。

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