Red Hat、Windowsのコアフォントと置き換え可能なフリーのフォントをリリース
Liberationフォントはすでにダウンロード可能になっている。Liberationフォントは、文書をフリーなオペレーティングシステムとWindowsとで共有する際に、フォントの違いが原因でユーザがやむなく文書を整形し直すことがないように、Windowsコアフォントとフォントメトリックス的に同等になる(つまり各文字の占める横幅の長さが、対応するWindowsのフォントと等しい)ように設計されている。
Red Hatはかなり以前より、オペレーティングシステム間での相互運用性を実現するための高品質なフォントに関心を寄せていた。Red Hat次席法務顧問兼秘書役のMark Webbink氏によると、1990年代後期のRed HatディストリビューションにはArial/Courier New/Times Roman書体が含まれていたが、Microsoft社の著作権の侵害にあたるとしてサードパーティに訴えられたのだという。そしてその後、その争議については示談が成立し、2004年にRed HatはWindowsコアフォントとフォントメトリックス的に同等なAgfa Monotype社のプロプライエタリなフォントであるAlbany/Cumberland/Thorndale(各フォント名の頭文字は、それぞれが置き換える各Windowsコアフォントの頭文字に対応している)という3種類のフォントのライセンスの取得を発表した。これらのフォントはRed Hatの商用パッケージのExtras CDに含められて配布されたが、Webbink氏によると「フリーでもオープンでもなく、Red Hatにとって歯がゆい思いがするものだった」という。
デザイナー
Albany/Cumberland/Thorndaleのリリースの後、Agfa Monotype社でRed Hatとの一件を担当していた何人かのデザイナーと経営者が独立し、Ascender社というフォントデザイン会社を設立した。Ascender社のスタッフには大手企業向けにフォントの設計を行なってきた長年の経験があり、Microsoftコアフォントの他にも、Microsoftのオンライン向けフォントとして最も有名なVerdanaフォントや、Courier Newとフォントメトリックス的に同等になるよう設計されたAndale Monoプロジェクトといった作品がある。
Red HatはAscender社のスタッフとともに働いた経験があったため、Times Romanとフォントメトリックス的に同等になるように設計されたLinux Libertineのような既存のフリーフォントを利用するのではなく、再びAscenderチームと一緒にフリーな代替フォントを設計することにした。Red Hatは作業の開始前にLiberationフォントのための技術的な仕様は指示したものの、それ以外の細部の多くはAscender社のスタッフに委ねたという。
Webbink氏によると「メトリックス的な観点から問題がなければ、Ascenderチームにデザイン的な観点での自由を与えてしまっても大丈夫だと考えた」とのことだ。
Ascender社副社長のSteve Kuhlman氏によると、同社はそれ以前にはフリーなフォントを扱った経験はなかったという。またKuhlman氏によるとAscender社はLiberationフォントについても、デザイン的な観点を第一として取り組んだとのことだ。そしてKuhlman氏が「Ascender社をまさに代表するデザイナー」と呼ぶSteve Matteson氏が同フォントの制作に昨年着手した。さらにKuhlman氏は、LiberationフォントはWindowsコアフォントと同じ幅になるよう設計されてはいるものの「完全な類似品ではなく、デザイン的にははっきりした違いがある」とも述べた。
Webbink氏はLiberationフォントの制作に必要となった経費について正確な数字は明らかにしなかったが、「膨大な費用がかかった……が、正直に言ってRed Hatは得られた結果にかなり満足している。Liberationフォントは非常に魅力的なフォント集だと思う」と述べた。
フォントの現状
Liberationフォントにはバージョン番号は付いていないが、Webbink氏によると同フォントの制作はまだ完了したわけではないという。とりわけ、フォントのヒンティングが8ポイントから40ポイントまでのサイズについてしか行なわれていないということがある。つまり8ポイントよりも小さいサイズや40ポイントを越える大きなサイズのLiberationフォントでは、読みやすさ、間隔の取り具合い、色、字体の一貫性などに関して問題がある可能性がある。しかしWebbink氏は「今年の末までには」フォントのヒンティングが完了するはずだとしている。
Liberationフォント(クリックで拡大) |
また別の現時点での問題点として、Liberationフォントには西ヨーロッパ、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパの各言語の文字(ラテン文字、ギリシャ文字、キリル文字)しか含まれていないということがある。Webbink氏によるとRed Hatは、フリーのフォントのサポートが今なお貧弱であるインド諸言語、日本語、中国語の文字にも後々は対応したいと考えているとのことだ。
このような問題点があるとは言え、LiberationフォントにはWindowsコアフォントにまさる点として、単一のデザイン会社による作品であるという利点がある。Liberationフォントのセリフ/サンセリフ/等幅の各書体はそれぞれ異なるものだが、別のデザイン会社によってそれぞれが独立して設計されたArial/Courier New/Times New Romanの文字と見比べてみると、文字がより似通っていることが見本を見てもらえば分かるだろう。このような統一感があるため、一つの文書内で3つの書体が併用されたときにLiberationフォントではより美しい印象を与えることができるはずだ。また少なくとも最初の時点では、あまりにもあちこちで頻繁に使われているArial/Courier New/Times New Romanの組合わせと比較して、より目新しさがあるという利点もあるだろう。
Liberationフォントに対するユーザからの反応についてWebbink氏は「非常に好意的」と表現した。また「Windowsユーザからもダウンロードしたいという要望が多数届いている」とも付け加えた。しかしその一方で印刷コミュニティの一部からは、完全なヒンティングが行なわれていないことについての期待外れの声もあるようだ。
おそらくもっとも否定的な反応は、情報アーキテクトのDan Klyn氏によるものだろう。Klyn氏は「ArialとVerdanaとの間に子供が生まれたら? Liberationという名前の非常に醜い子供になるだろう」と述べている。なお同氏が投稿している見本から推測すると、Klyn氏が不満である主な点は「グリフが角張り過ぎている」ということのようだ。
今後の計画
今後Ascender社がLiberationフォントのヒンティングを完了させたりサポート言語を増やしたりする間、Red Hatでは同フォントの普及に取り組むという。例えばWebbink氏によると「是非OpenOffice.orgで使用可能になっているのを見てみたい」とのことだ。また、ここ2、3年の間に登場したオープンフォントコミュニティ(翻訳記事)によって基本デザインが拡張されることになれば、さらに普及する可能性もあるかもしれない。
Liberationフォントは現在、いくつかの例外規定をともなうLGPL(GNU劣等一般公衆利用許諾契約書)でリリースされている。一つめの例外規定は、Liberationフォントを使用して作成した文書をLiberationフォントと同じ利用条件下に置く義務は特にないとするものだ。この例外規定が明記される必要があるのは、フォントの場合、ソフトウェアの一部にフォントが埋め込まれて使用されるためと、PDFなどフォントが文書内に埋め込まれる文書形式が存在するためという2つの理由からだ。またそれ以外には、改変したフォントに対してRed Hatの商標(「Liberation」という名称)を使用することを禁じる条項、無保証や責任の制限を明記する条項、法的な争議が起こった場合にはRed Hatの所在地である米ノースカロライナ州の司法によることとするという条項などが定められている。
Webbink氏によるとこのようなライセンスが採用された理由は、Ascender社が組み込みデバイスやプリンタメーカに対するフォントデザインの販売権の保持を希望したことと、そのためデュアルライセンスにするならばLGPLがオーソドックスな選択肢であるためだという。なお、オープンなフォントのデザイナーたちの間で最近ますます普及しつつあるOpen Font Licenseを採用しなかった理由を尋ねたところWebbink氏は、Open Font Licenseが現時点ではまだOSI認定ライセンスではないことが主な理由だと説明した。Webbink氏によるとOpen Font LicenseがOSIに認定されれば、「Ascender社とRed Hatとの契約上、問題がなければ」LiberationフォントがOpen Font Licenseへ移行する可能性もあるとのことだ。
コミュニティにフォントを寄与するということは資金的な問題だけでは済まず、Red Hatが今後も解決にいくらか時間のかかる細かい多くの問題に対処していかなければならないことは明らかだ。Webbink氏は「Red Hatはこのことを継続的な取り組みだと考えている」としている。
Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。