まだ完成度の低いオープンソースのビデオ編集ツール

 年に1、2回、私はFOSSのビデオ編集ツールを調査する。ビデオ制作に携わるアマチュアの上級者やそれほど稼ぎの多くないプロ(ちなみに私もこの部類に入る)が日常的に使えるレベルのものが出ていないかを確かめるためだ。FOSSのビデオ編集ツールの実用性をある程度高めた注目すべき進歩がいくつか見受けられたものの、厳しい納期で質の優れたビデオ制作を求められる人々がFOSSのデスクトップビデオ編集を真剣に検討できるようになるには、まだ時間がかかりそうだ。

 ビデオ制作を取り上げた雑誌やサイト ― 私のお気に入りは『 Creative Cow 』だが ― には、皆さんは馴染みがないかもしれないが、「ワークフロー」(workflow)という言葉がよく出てくる。

 放送業界の関係者からよく「企業の御用聞き作品(industrial)」と蔑まれる企業向けビデオの制作は、コスト競争の激しいビジネスであり、制作のスピード(効率的なワークフロー)が成功と破綻とを分ける。その点は「11時のフィルム(film at eleven)」(もともとは小説のタイトルだが、この業界内では夜のニュース番組の開始時刻までに何としても放映用の映像を用意しなければならないことを意味する)という決まり文句のある放送業界も同じで、やはりワークフローが重要である。

 「『早い、安い、うまい』からどれか1つを捨てろ」という言葉を聞いたことがないだろうか。これは、まさにビデオ編集にぴったりの言葉だ。コストの低さも魅力的だが、クオリティとスピードは絶対に外せない。現在入手できるプロレベルのビデオ編集プログラムでは、Windows用ならSony Vegas 7(価格は400ドル強)、Mac OS X用ならFinal Cut Express HD(300ドル弱)が最も安価である。

 プロプライエタリ対フリーという議論はさておき、最近のオープンソースの代替ソフトではなく、こうした高度に発展した商用プログラムのどちらかを利用している現役のビデオ制作者は、その効率に優れたワークフロー機能のおかげで1日か2日で購入費のもとをとることができる。

一般的な3分間のビデオ作品向けワークフロー

 以下に、私が実行している、ビデオ撮影から作品完成までのプロセスを示す。

  1. ビデオカメラから映像をキャプチャする
  2. キャプチャした映像をクリップに分割する(自動処理)
  3. 作品に採用するクリップ、さらにセクションを選択する(クリップの全編ではなく一部のセクションを使用)
  4. おおよその順序でタイムラインにクリップを配置する
  5. BGMと効果音を選択する
  6. 最終的な順序でビデオ/オーディオ素材を配置する。この時点では、映像と音声を別々に扱うことが多い。つまり、単純に話者の声と映像を一緒に使用するとは限らず、話者が言及している人物や場所、または物の映像に置き換えることがある
  7. タイムライン上に設定した音のレベルを(フェードも含めて)確認し、高音域のノイズや好ましくない生活騒音を削除する
  8. 必要に応じて映像の色を補正する
  9. 映像クリップに対して長さの調整、サウンドトラックとの時間合わせ、移行部の挿入を行う
  10. 字幕を入れ、場合によっては効果音をさらに追加する
  11. 通しで最終チェックを行い、必要なら調整を加える
  12. 適切なファイル形式で出力する

 こうした作業の大半は、各クリップに変更を加えるときも、別ウィンドウを開かずにタイムライン上で直接行う。なお、ビデオエディタに付属のオーディオエディタには、イコライザや自動ゲインコントロールのほか、あるオーディオトラック上の全クリップを1つのユニットにグループ化したうえで必要に応じてトラックの音量を調整できる機能が最低限必要である。

 理想を言えばビデオ編集ソフトウェアには決してクラッシュしてほしくないが、クラッシュが起こった場合に確実に動作するファイルリカバリ機能も必要だろう。

 また、編集およびレンダリング処理のすべてを通じて、フレームあるいはピクセルでさえ失いたくはない。プロとしてビデオを扱う人々は、高価なビデオカメラやマイク ― さまざまな条件下でクリアな映像と音声を提供してくれるもの ― を購入することで、そのクリアさを残し、より一層高めることまで考えるのだ。

すべてFOSSで対処可能だが…

 今やLinuxでFireWireが十分に使えるようになり、これによってFOSSのビデオ編集におけるユーザビリティは大いに向上した。私が試した範囲では、2006年末にリリースされたUbuntu 6.10が、何の問題もなくFireWire PCMCIAカードを検出した最初のLinuxディストリビューションだった (モバイルやリモートで作業をすることが多いため、私はビデオ編集の大部分をノートPCで行っている)。KinoとCinelerraは、2つのapt-getコマンド、あるいはSynapticでのクリック数回でUbuntuにインストールできる。

 KinoはFireWireポートを介して見事なビデオキャプチャ機能を発揮する。Cinelerraでは、VegasやFinal Cut並みに3~10分の時間をかける気があれば、大半のビデオ編集作業が行える。

 また、サウンドトラックの完成後に映像と再同期させ、映像または音声をほんのわずかでも変更するたびにまた再同期を行う時間的余裕があるなら、Audacityを利用して手の込んだサウンドトラックを作成することもできる。

 ただし、Cinelerraに高い評価を与えることはできない。Sony Vegas、Final Cut、Avidをはじめとするハイエンドなビデオ編集パッケージに慣れた人には、Cinelerraがひどく使いにくく感じられるだろう。もちろん、本当に優れたビデオ編集ソフトウェアに慣れてしまえば、プロプライエタリなコンシューマレベルのビデオ編集ソフトウェアのほとんどにも満足できなくなるはずである。それが、性能面でMagix Movie Edit Pro(Windows専用)よりもずっと劣っているのに価格はその3倍もするMainActor(Linux、Windows用)であればなおさらだ。

 あいにくJahshakaは使ったことがなく、GStreamerをベースにしたPiTiViはUbuntuアーカイブからダウンロードしたものの、これまで何かの役に立つどころかうまく起動できた試しがない。

 Kinoがそこそこ使えるクリップエディタへと進化したのは、最近のことだ。単独のビデオクリップから先頭や末尾の部分をトリミングするだけなら、Kinoで十分に間に合う。ただし、私はまだKinoを使って映像に字幕を追加するのに成功したことがないので(クラッシュの問題)、使える出力フォーマットは限られている。Kinoは実用的なプロレベルのビデオエディタではないし、それを狙ったものでもない。しかし、少なくとも使えるレベルにはあり、今後に期待が持てそうだ。現在の開発ペースなら、あと1、2年すれば、ほとんどiMovieやWindows Movie Maker並みになるだろう。

お金をかけるのも稼ぐのも自由

 Richard M. Stallman氏によると、プロプライエタリなソフトウェアの利用が正当化できるのは相当するフリーソフトウェアが利用できない場合だという。ビデオ編集の分野にはまさにこれがあてはまり、その状況は今後しばらく続くのではないか、と私は思っている。ビデオ編集は、非常に複雑なコンピュータ処理なのだ。

 私にとって初めての「ビデオ」編集はフィルムとカッターナイフによるものだったので、高度なプロプライエタリ・ソフトウェアにより、プロレベルの映像作品を仕上げるのがこれほど簡単になったこと、とりわけ、高性能なワークステーションではなく安価なデスクトップコンピュータ上でできるようになったことに驚いている。こうした驚異的な進化に飽き足らず、自らのビデオ編集ソフトウェアをフリーソフトウェアに置き換えようというのは欲張り過ぎのようにも思える。

 私は、ビデオ編集ソフトウェアにお金を注ぎ込むのを厭わない。自分のビデオ作品の多くは楽しみと気晴らしのために作ったものだが、ソフトウェアやビデオカメラのほか、質の高い映像を作るのに必要な器具を十分に買い揃えられるくらいにはビデオ制作で稼ぎを得ている。私の場合、業務用のビデオ作品を厳しい納期で仕上げることが多いため、「趣味」のビデオの大半はほかの作業の合間に作ることになる。その結果、編集スピード(ワークフロー)の点から、金銭的に手が届く最も優れた編集ツールを購入せざるを得ないのだ。

 先ほど、私のビデオ編集の「作業リスト」をご覧いただいたが、こうした作業のすべてが迅速かつ効果的に行えるオープンソースのビデオ編集ツールが登場する日を楽しみにしている。そのときには、私のビデオ編集作業はすべてフリーソフトウェアで実行できるのだ、と誇らしげに言えることだろう。

 だが、現在に目を向けると、今週末に撮影の仕事が控えている。残念ながら、業務用レベルのビデオ編集が可能なフリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアがこの週末までに登場することはなさそうだ。

NewsForge.com 原文