IRCの初心者向けガイド

 Linuxやオープンソースプロジェクトについての疑問は、どこで調べれば良いかさえ知っていれば、すぐに答えが得られることが多い。フォーラム、メーリングリスト、Google検索はいずれも疑問の解決に役立つが、本当にすぐにでも答えが知りたい場合にはIRC(Internet Relay Chat)が適している。まだ一度も使ったことがない人は、ぜひ本稿を読んでIRCの世界に足を踏み入れてほしい。

 もちろん、読者の方々はインスタントメッセージング(IM)について熟知していてAIM、MSN Messenger、Google TalkをはじめとするIMサービスは使ったことがあるだろう。IMサービスと比べてIRCが大きく異なるのは、1対1ではなく複数ユーザとのやりとりを想定していることと、参加可能なIRCネットワークが数多く存在することである。一方、IMサービスの大半は、AOLやMicrosoftといったサービス提供者の運用するネットワークでしか利用できない。複数ユーザでのチャット用に作られているIRCは、リアルタイムでユーザをサポートできるフォーラムを提供したいと考えるFOSSコミュニティにとって、理想的な通信手段だ。

IRCクライアントを選択する

 IRCの世界に踏み出そうと決めたら、IRCクライアントを選ぶ必要がある。それぞれに長所と短所があって一部のユーザには魅力的に思えてもほかの人には不都合な点もあるため、どんな場合にも推奨できる万能のIRCクライアントなどというものは存在しない。ここでは、定評のあるクライアントをいくつか紹介しよう。

 LinuxでIMサービスを利用している人なら、おそらくGaimについてはよくご存知だろう。AIM、MSN、Yahoo! Messenger、JabberなどGaimがサポートしているプロトコルでチャットを行うのに、このクライアントを使ったことがあるかもしれない。Gaimは、これらすべてのIMプロトコルの他、IRCにも対応している。すでにGaimを利用している場合は、設定を追加してIRCも利用できるようにするとよいだろう(編注:Gaimは今年4月に“Pidgin”に改名された)。

 KDEユーザであれば、Konversationを利用したいと思うかもしれない。こちらはIRC専用のクライアントだが、すべての機能が揃っていて一見の価値がある。もちろん、KonversationはLinuxのどんなデスクトップ環境でも動作するが、特にKDEデスクトップやKDEアプリケーション(Konquerorなど)との統合が上手く行われている。

 一方、GNOMEユーザであれば、GNOME用に作られたXChatのフロントエンドXChat-GNOMEから使ってみたいと考えるだろう。XChatは、Linux用やWindows用だけでなく、Mac用の移植版も存在するIRCアプリケーションである。

 ChatZillaというFirefox拡張機能を利用する手もある。これはFirefoxにIRCクライアント機能を追加するもので、以降ではこのChatZillaについて説明する (ChatZillaはMozillaのSeaMonkeyスイートにも含まれ、Netscapeブランドのブラウザでも利用できるが、最近はどちらもあまり見かけなくなった)。

 Firefoxの拡張機能であるため、ChatZillaにはクロスプラットフォームというメリットがある。自宅と職場でLinuxとWindowsを使い分けている人にはありがたい点だ。複数のマシンで同じクライアントを使えるだけでなく、マシン間でプロファイル同期化を行うGoogle Browser Sync(または同等のツール)を利用すれば各マシンでプロファイルを同期させることもできる。

IRCを使い始める

 ChatZillaを入手するには、Firefoxのアドオンサイトを訪れ、その画面内に表示されている「Install Now」をクリックする。メッセージに従ってFirefoxを再起動すると、メニューの「Tools」→「ChatZilla」を選択することでChatZillaを起動できるようになる。

 初めて起動したときには、いくつかの一般的なIRCネットワークへのリンクの他、ChatZillaのFAQIRCのヘルプWebサイトへのリンクが記された情報画面が読み込まれる。また、moznetのIRCネットワークや#chatzillaチャンネルにつながるChatZilla Support Channelへのリンクも表示される。

 早速、チャットに参加してみよう。ここでは、Kubuntuについての情報を得たい場合を考える。UbuntuのIRCチャンネルはFreenodeネットワークにあり、Kubuntuのヘルプチャンネルは#kubuntuであることが、Ubuntuのマニュアルに記載されている (チャンネル名は必ず”#”の文字で始まる)。

 Freenodeネットワークに接続するには、ChatZillaのテキストフィールドに「/server irc.freenode.net」と入力するか、Firefoxのアドレスバーにirc://irc.freenode.net/kubuntuと入力する。ChatZillaがFreenodeのサーバに接続すると、「irc.freenode.net」と記されたタブ内に大量のメッセージがスクロール表示されるはずだ。自分のニックネームに関するメッセージも表示される。このニックネームは、IRCで使うことになる名前で、他のユーザと重複しないように与えられている。

 簡単な質問をするためにIRCに入ったのなら、ニックネームについてそれほど気にしなくてよい。だが、IRCでの議論に何度も参加するつもりなら、あなたがログインしていないときに他のユーザに使われないように、ニックネームを登録しておく必要があるだろう。

 好きなニックネームを決めたら、ChatZillaのテキストフィールドに「/nick nickname 」という形で入力する。うまくいけばこれでニックネームが設定されるのだが、すでに使われている場合は「このニックネームは他の誰かによって登録されています」というメッセージが表示される。Freenodeのような利用者の多いネットワークでは、未使用のものが見つかるまでにいくつかのニックネームを試す必要があるかもしれない。

 未使用のニックネームが見つかったら、保護するために「/msg nickserv register password 」を実行する。こうしてパスワードを設定すると、IRCにログインするたびに本人認証のためにパスワードの入力が求められる。ただし、ニックネームは別のネットワークへは持ち越せないので、Freenodeでニックネームを登録したからといって別のIRCネットワークでも同じニックネームが使えるわけではない。

 ニックネーム設定の詳細については、FreenodeのFAQを参照してほしい。

 #Kubuntuチャンネルに参加するには、「/join #kubuntu」と入力する。すると、ChatZilla画面の左側には、チャンネル内にいるすべての利用者が表示される。利用者間のやりとりは、画面の右側に表示される。

一般的なIRCコマンド

 ChatZillaをはじめとするIRCクライアントでは、単語の前にスラッシュ(/)を付けてコマンドを実行する。

 最初に覚えておきたいコマンドが「/help」だ。実行すると、ChatZillaで使えるコマンドに関するヘルプ情報が表示される (このコマンドは他のIRCクライアントでも使える)。「/help」とだけ入力すると総合的なヘルプメッセージが表示され、「/help commandname 」と入力すれば特定のコマンドの使い方を知ることができる。

 では、利用可能なコマンドを知りたいときはどうすれよいだろうか。その場合は/commandsを実行すれば、利用できるコマンドすべての一覧が表示される。ただし、その結果はIRCクライアントごとに異なる。ChatZillaは機能の充実したクライアントの1つなので、他のクライアントにはChatZillaほど多くのコマンドがないかもしれない。

 IRC経由で特定の相手とチャットを行う場合は、「/query username message 」を使ってチャットを開始する。また、「/msg username message 」と実行すれば、チャット画面を開かずにメッセージを送信することもできる。なお、なかには個人的にチャットするのにふさわしくない相手もいるので、相手のことをよく知らない場合は無視するといいだろう。

 では、特定の利用者がIRCにログインしたことを知るにはどうすればよいだろうか。「/notify username 」を実行することで、ChatZillaにその利用者の動向に注意するように指示できる。こうしておけば、ChatZillaがその利用者のログオンとログオフを通知してくれる。

 ある利用者の素性を知りたい場合は、「/whois username 」コマンドを実行する。するとその人物に関する情報(もし登録されていれば実名など)や利用しているサーバを知ることができる。対象の利用者がIRCをログアウトしてしまった後でwhoisが実行できない場合のために、ChatZillaではwhowasコマンドもサポートしている。「/whowas maskedman」とすれば、whoisコマンドで取得できるのと同じ情報をサーバから得ることができる。

 IRCはもっと奥が深いものだが、これから使い始めるのであればここに示した情報で十分間に合うだろう。

コラム:IRCのエチケット

 IRCには独自のエチケットが存在し、チャットに参加する前に心得ておくべき大事な注意点がいくつかある。

 当然のことだが、親切に振る舞うことが大切だ。Ubuntuコミュニティの管理人Jono Bacon氏によると、利用者は「他の人の役に立つ存在であるべき」であり、「なかには的外れな質問をする人もいる」という現状にも適切に対処する必要があるという。「誰でも最初は初心者であり、恥ずかしい思いをしながら学んでいくものだ。助けになるような建設的な回答でない場合は、相手にしないで無視することだ」

 なお、常にIRCのチャットに目を光らせている人はあまりいない、ということも覚えておいてほしい。大半のユーザは他の仕事の合間にIRCクライアントの画面をチェックするので、あなたの質問がしばらく誰の目にも触れない可能性がある。すぐに応答がないからといって同じ質問やコメントを繰り返す必要はない。その質問を読んだけれども応答しなかっただけの人にとっては、迷惑な行為だ。

 そして、あなたの意見を求めている人の存在に気付いたら、そのメッセージを読んだことを知らせてあげよう。忙しい場合はその旨を知らせ、それでも「誰かから連絡があったときは、可能になった時点で応答するように」とBacon氏は話している。

 また、IRCチャンネルでの迷惑行為は慎むこと。例えば、多くの人は、あるチャンネルで誰かが参加または退出すると音を鳴らしたり何らかの通知を行うようにIRCクライアントを設定している。なかには、動作がないまま10分か15分するとマシンをスリープさせるように設定している人がいる。この場合、マシンのスリープ時には接続が切断されるが、IRCクライアントで自動接続を有効にしているとマシンの復帰時に再ログインが行われる。マシンの頻繁なスリープ/復帰によって20分おきにチャンネルに対する退出/参加を繰り返されると、多くの利用者は迷惑に感じるだろう。ただチャンネルにいるだけで積極的にチャットに参加しない人がそうした行為を行う場合は特にそうだ。

 最後に、トピックから外れた内容の書き込みは行わないこと。あるソフトウェアの使い方について質問するなら、そのプロジェクトの#project-develチャンネルに書き込みを行う前に、プロジェクトのWebサイトをチェックして適切な質問先を確認する必要があるだろう。ほとんどの場合、プロジェクトの-develチャンネルは(それがどんな名称であろうと)開発に関する質問や議論だけを対象としている。ソフトウェアの使用法に関する質問を-develに持ち込むのは、緊急連絡用の電話番号を使って駐車違反の通報をするようなものだ。運が良ければ誰かが親切に同じプロジェクトの-userチャンネルに案内してくれるが、そうでなければもっと冷たい反応が返ってくるだろう。

NewsForge.com 原文