IRCネットワークfreenodeとOFTCは統合されるのか

 フリーおよびオープンソースソフトウェアプロジェクトで大いに利用されている2つのIRC(Internet Relay Chat)ネットワーク、freenodeとOpen and Free Technology Community(OFTC)が、スタッフの交換を通じて互いの運用を視察することにより、両者の間にある溝を埋めようとしている。こうした交流は、もともと1つのプロジェクトから生じた2つの組織に接点を与えるものであり、もっと密接な関係へと向かう兆しかもしれない。

 どちらのネットワークもOpenProjects.netに端を発している。Rob “lilo” Levin氏が創設したOpenProjects.netは、Peer-Directed Projects Center(PDPC)とfreenodeの前身組織である (ただし、もはやOpenProjects.netドメインにはPDPCやfreenodeとの系列関係はない)。また、OFTCもOpenProjects.netから分離した組織だが、その理由の少なくとも一部は、経営と資金繰りに関する思想的な違いにあった。

 OFTCのネットワーク運営委員会の長であるDavid Graham氏が「非常に苦々しく不愉快な離脱」と呼ぶこの分裂は、2001年に起こった。設立当初のOFTCのスタッフは、全員がもともとOpenProjects.netにいた者だった、とGraham氏は言う。

 OFTCは、特にフリーソフトウェアおよびオープンソースプロジェクトのためのネットワークを作り上げた。「以来5年間にわたって、2つのネットワークは別々に発展を遂げてきたが、どちらの組織にもOpenProjects.netからの分離独立のときから残っているスタッフはほとんどいない」(Graham氏)

 昨年、Levin氏は自転車の運転中に自動車事故に遭い、その怪我がもとでこの世を去った

 freenodeのスタッフ責任者でPDPCの役員でもあるChristel Dahlskjaer氏は、Levin氏が亡くなってからのfreenodeの動きについて「ユーザとスタッフの双方がfreenodeの将来の方向性に関する判断や変更に関与する、より包括的なアプローチへと移行しています」と話す。また、freenodeはそのコミュニティの特性に合わせて「もっと透過性の高いシステム」を目指している、とも彼女は言う。さらに、Levin氏については「彼の死後何か月かでfreenodeとその母体であるPDPCの双方で私たちが成し遂げたことを知れば、彼はきっと喜び、誇らしく思ってくれるはずです」と語る。

 Dahlskjaer氏によると、freenodeの利用者数は昨年10月以降で約8,000人増えたという。参考までに、Search IRCサイトの算定によれば、先週の平均利用者数はOFTCが3,751人freenodeが33,300人となっている。わずか半年で8,000人の利用者増加とは、かなりの成長だ。

 Dahlskjaer氏は、資金調達者であるLevin氏を失ったにもかかわらず、PDPCは「コミュニティからそれまで以上に強い支持」を得ているとも話す。「PDPCにはWikimedia Foundationのような組織だけでなく個人からも寄付が集まる傾向にあり、そのおかげでFOSSCONの準備など他の活動も可能になりました」

連携の内容

 6年間、別々に発展してきたfreenodeとOFTCは、今や手を携え、協調関係の行く末を見定めようとしている。

 Graham氏は、もしLevin氏がまだ現役だったとしたら、2つのネットワークが今のように協力し合うことはなかっただろう、と言う。しかし、彼はLevin氏について「常にフリーソフトウェアとオープンソースのコミュニティのことを真剣に考えていたカリスマ的指導者であり、我々は皆、その精神に従って仕事をしている」と語る。

 「今後の統合に向けた具体的なロードマップは存在しないが、どちらの側もそれを求めている」とGraham氏は話す。彼によれば、次に考えられるステップは、freenodeがOFTCの使っているIRCデーモン(ircd)を採用することだという。「現在freenodeが使っているのはhyperionだが、このircdは高度にカスタマイズされていて管理が難しい。さらに次のステップでは、freenodeがOFTCのircdの実装と展開を行うことになるだろう。OFTCのircdは、非常にロバストなircdであるHybridに若干の修正を加えたバージョンにあたる」

 そうなる可能性は非常に高いと見られている。というのも、Dahlskjaer氏は「私たちの現在のIRCデーモンは管理が難しく、現在直面しているようなネットワーク規模の拡大に対処できるようには作られていません」と認めているからだ。こうした動きに向けて、freenodeでは「ircdや各種サービスについていくつかの選択肢を調査しており、OFTCのHybridベースのircdとircd-ratboxコアをベースとしたIRCデーモンCharybdisには特に注目しています」と彼女は話す。

合併すべきか否か

 こうしたすべての動きが2つのネットワークの再統合の前触れに見えるのも無理はないが、その予想の正否はわからない。Graham氏によると、合併のアイデアは「提案されている」が、「合併の実行に関して確かなことはまだ何も決まっていない」という。

 これらのネットワークの合併を実行に移すとしたら、どんなことが必要になるのだろうか。Dahlskjaer氏は「解決すべき技術および運用面での違いが数多くあります」と語る。

 「私たちはよく似たサービスを提供していますが、freenodeが『単なるIRC』を超えたものを目指していることはよくご存知だと思います。私たちは、コミュニティの参加を強く意識しながら、オープンソースプロジェクトに対するインフラストラクチャの提供、各プロジェクトが活気に満ちたコミュニティを協調、一体化、権限委譲を助長する環境で作り上げる支援、といった活動を進めています。一方、OFTCは参加型のアプローチをあまりとらずにインフラストラクチャを提供しており、各プロジェクトはコミュニティ側の立場で活動しています」(Dahlskjaer氏)

 どちらのネットワークも、より大きな組織の一部にあたる。freenodeは、(501(c)3に基づく)非営利団体のPDPCに属している。Dahlskjaer氏によると、PDPCはFOSSコミュニティを対象とした「各種コミュニティサービスの提供に注力」しており、そこには9月にカリフォルニア州サンディエゴで予定されているFOSSCONも含まれる。

 また、PDPCは、FOSSCONに加えて「将来のプログラム案となる基盤の調査と構築も行おうとしています。その範囲には、コード助成プログラム、各種教育プログラム、ピアツーピア基盤との協調推進が含まれますが、これらに限定されてはいません」(Dahlskjaer氏)

 一方、OFTCの上位組織は、FOSS関連組織の法的庇護に助力し、メンバーによる運営という観点から無干渉主義的アプローチをとる非営利団体Software in the Public Interest(SPI、これも501(c)3)である。

 2つのネットワークには、技術および組織的な違いだけでなく、考慮すべき文化的な違いもある。Graham氏は、OFTCにはfreenodeよりも「ずっと不干渉主義的」な文化がある、と話す。「OFTCのスタッフは、ネットワーク自体の整合性や利便性が危険にさらされたり、チャンネルのスタッフからの要請がない限り、同組織のチャンネルの問題には干渉しない」

 「これに対し、freenodeにはチャンネル管理面でネットワークに広く関与するシステムがある。freenodeを利用しているプロジェクトは、単なる名前ではなく、自分たちのチャンネル用の名前空間のブロックを得ることができる。たとえば、NewsForgeがfreenode上でIRCチャンネルを開設したとすると、チャンネル名は##NewsForge(追加のハッシュに注意)になる。あるいは、公式チャンネルであることを示すハッシュが1つだけの#newsforgeを取得するためには、グループ連絡フォームで申請する必要がある。そのために、#newsforgeは別に確保されているわけだ。

 ユーザサポートの方法もまた、両ネットワークでは大きく異なる。OFTCは概して公開の#oftcチャンネルを使ってサポート処理を行っているが、freenodeは個人的にスタッフに連絡することをユーザに奨励している、とGraham氏は話す。どちらのやり方もうまく機能しているが、「まったく異なるアプローチだ」と彼は言う。

 「OFTCのやり方は、たとえスタッフでなくても周囲の人は誰でも助けになる、という単純な仮定に基づいている。一方、freenodeのサポートは、勤務中や勤務外のスタッフによって1対1で実施される」(Graham氏)

 こうした違いの理由は2つのネットワークの規模が大きく異なる点にある、とDahlskjaer氏は話す。OFTCは規模がより小さいために無干渉主義のアプローチを取っているわけで「彼らにとってはこれがうまくいくアプローチなのです」

 最終的に2つのネットワークは正式に統合されないかもしれないが、Graham氏は、どちらにせよ今回の提携は有益なものになるだろう、と語る。「両プロジェクトの内部および我々のもとに届く反響の声のなかでは、目標を共有する我々2つのプロジェクトが競合ではなく連携の道をとることが結局はオープンソースおよびフリーソフトウェアのコミュニティにとっての最大の利益になる、という確信がますます強まっている」

編注: David Graham氏はLinux.comの母体組織OSTGの編集請負人。

NewsForge.com 原文