Gaim改めPidginのバージョン2.0がようやくリリース

 2005年12月から待たされ続けた、Gaimユーザ待望のリリースがようやく公開された。今回のリリースは、7回のベータリリースと数次におよぶインタフェースの改修を経て、さらには名称をPidgin 2.0と変えたあげくの成果である。ただし、せっかくGaim 1.5系列に改良を加えたリリースだというのに、インスタントメッセージでの音声チャットに対応したネットワークを未だサポートしていない点は残念だと言わざるを得ないだろう。
UIだけでなくアプリケーションも制御   UIと

 Pidgin 2.0のダウンロードサイトからは、Fedora CoreとWindows用のバイナリファイルおよびソースコードが入手できる。このように特定プラットフォーム用のパッケージのみが用意されている理由については、Pidgin WebサイトにPidgin開発者による説明が掲載されている。

 私の場合、Pidginのインストール先をUbuntu 7.04(Feisty Fawn)にしたかったので、まずはソースコードのtarボールを入手し、sudo apt-get build-dep gaimを用いて依存関係上の問題が無いかを確認してから、通常の手順に従い./configure ; make ; make installコマンドを実行した。この操作によるPidginのコンパイルは正常に完了している。

Buddy List画面(クリックで拡大)

 Pidginを起動する前には開発元からの注意に従って、Gaim当時のプレファレンスおよびログの格納ディレクトリ(~/.gaim)をバックアップしておいた。もっとも今回インストールしたPidginでは、旧バージョンの設定を問題なくインポートできている。また過去に行ったチャットのデータとログのコピー先は~/.purpleという新しいディレクトリに変更されるが、これはPidginの中核を成すlibpurpleライブラリに因んだ名称だとのことだ。

 Pidginには若干の外観的な変更が施されている。全体的にはGaim 2.0ベータ系列の外観を踏襲しているのだが、新規のアイコンおよびスマイリー記号のセットが追加された他、Pidgin本体のアイコンも改められている。新たなアイコンは、マンガ風の吹き出しが付いたパープルカラーの鳥というデザインだ。もっともこのアイコンはPidgin実行時のシステムトレイでは使われておらず、ここには吹き出しと交信ステータスを示すアイコンが表示されるようになっている。Pidginのインタフェースの場合、交信可能な状態(Available)ではグリーンのボタンと吹き出しが表示されるが、交信者の不在時(Away)には時計をあしらったとおぼしきアイコンと吹き出しが表示されるのだ。このアイコンセットはかなり洗練されたデザインであり、これに比べると旧バージョンの表示はあか抜けていない感じがしないでもない。

 Pidginで使えるプロトコルについてだが、同プロジェクトのWebサイトでは、AIM、Bonjour、Gadu-Gadu、Groupwise、ICQ、IRC、MSN、QQ、SILC、SIMPLE、Sametime、XMPP(Jabber)、Yahoo!、Zephyrという14種類をサポートしていると説明されている。このようにPidginでは、若干のマイナーなプロトコルも含めて、主要なIM/チャット用プロトコルのほぼすべてに対応しており、有名どころでサポートされていないのはMySpaceのIMクライアントくらいである。ただしMySpaceIMに関しても、Google Summer of Code(SoC)プロジェクトにおいてPidginでの実装が試みられる予定であるから、そのうちに使用可能となるかもしれない。

 私としてもPidginでサポートされているすべてのサービスのアカウントを有している訳ではないので、今回はJabber、AIM、Yahoo!、IRCのみを試してみた。その結果、テキスト方式のチャットに関しては、テストしたすべてのサービスを正常に使用できることを確認している。ただし残念ながら、音声およびビデオ方式のチャットについてのPidginの対応状況はかなり遅れていることを認めざるを得ない。私の場合、知人の多くがマイクやWebカメラを装備して、Yahoo! MessengerやGoogle Talkなど音声およびビデオ式のチャットに対応したIMサービスを使用している。ところがPidginではこれらのサービスに関してテキスト式チャットしかサポートしていないため、Pidginを使う限り文字による交信を強制されることになる(あるいはWindowsやMac OS X付属のクライアントを使う手もあるが、できれば遠慮したいところである)。

急いては事をし損じるのか?

Pidgin 2.0のソースコードに付属していたNEWSファイルによると、Gaim開発陣がバージョン2.0ブランチに着手してから実際にソフトウェアがリリースされるまでは、972日もの時間が費やされている(丸3年に数カ月足りない期間)。

 同様の不備は、Pidginのヘルプファイルについても当てはまる。Help -> Online Documentationメニューにアクセスすると、本来表示されるべきWebページが存在しておらず(本稿の執筆時における状態)、アクセス不可能を示す404メッセージが表示されるだけなのである。PidginのGUIインタフェースにはインライン形式のドキュメント類は装備されていないので、オンライン経由でのアクセスができなければ後はお手上げである。ただしGUIおよびテキストモードのクライアントに関してはmanページが用意されている。

 以前にGaimバージョン2.0についてのレビュー記事を書いた際には、ステータス選択用ツールの操作法が過度に複雑である点に触れておいた。その当時からこのツールの操作性はほとんど変化しておらず、未だ好きになれないでいる。

 そもそもPidginでは、複数のサービスに同時にサインインした場合に、すべてのアカウントを同じステータス(Away、Available、Do not disturbなど)に揃えておくことも、ステータスメッセージをカスタム設定してアカウントごとに異なるステータスを付けておくこともできるようになっている。ところがこの機能、全アカウントのステータスを揃えておきたい場合は特に問題ないのだが、アカウントの1つだけをAwayにして残りすべてをAvailableにしたいといった場合、かなりの手間をかけないとそうした設定ができないのだ。

Pidginのステータスカスタム用のダイアログ(クリックで拡大)

 私が常用しているアカウントは、IRC、Jabber(Google TalkおよびJabber.org)、AIM、Yahoo!である。このうち、IRCについては標準で通信可能にしているが、Google Talk、Jabber.org、AIMについては、通信したい相手に応じて設定を変えるようにしている。ところが先に見たPidginのステータスシステムでは、こうした使い分けが上手く行えないのである。この件に関しては、どこかに誰か親切な開発者がいて、アカウント別ステータス管理を簡単にこなせるプラグインを作成してくれるものと期待するしかない。

 Pidginでは、前回終了時におけるステータスを再現させることも、起動時に特定のステータスを適用させることも可能であり、その設定はPidginのプレファレンスを介して行う。

Finch

 バージョン2.0のオフィシャルリリース時におけるPidginプロジェクトは、同プロジェクトの中核を成すlibpurpleライブラリ、Pidgin用のGUIクライアント、Gaim-textから名称変更されたFinchテキストモードクライアントという、3つのコンポーネントに分けられている。

 Finchクライアントは、GUI形式ではなくテキストウィンドウでのチャットを行いたい場合に便利だが、GTK+クライアントに比べると特別優れた機能を備えている訳でもない。もっともFinchに関しては、Google Summer of Codeプロジェクトの成果として、ショートカットキーの整備、イベントサウンド機能の付加、Buddy List(仲間リスト)用オプションの追加、ログイン機能の改善などが施されるはずである。

 Finchの使い方については、PidginサイトのUsing FinchページおよびFinchのmanページを参照して頂きたい。

プラグイン

 Pidgin 2.0には機能拡張用のプラグインが多数同梱されている。これによりカスタマイズできるのは、IMでの使用フォーマットの変更、チャットルームの参加/離脱時メッセージの非表示化、着信IMに対する“Psychic”モードの適用などである。

 こうしたPidginの挙動や機能を変更するプラグインの付属数は20を越えている。Pidgin 2.0も正式にリリースされたことであるし、私の希望としてはPidginでもFirefoxのようなサードパーティ系の機能拡張開発を奨励してもらいたいところだが、それを実行するとなるとプラグインの配布方式を若干見直す必要があるのかもしれない。

 Pidgin wikiには利用可能なプラグインが一覧されているが、その中にはデフォルトでは同梱ないし有効化されていないプラグインも含まれている。ただしこうしたプラグインを有効化する際には、ユーザフレンドリとは言い難い操作を行わなければならない。ソースからソフトウェアのビルドとインストールをするという操作に抵抗を感じないユーザもいるだろうが、Pidginユーザの大半はコンパイル済みのソフトウェアを入手する形で使用しているだろうし、そうした人々にとって“プラグインを使いたければソースからビルドしろ”というのは敷居が高すぎるのでは無かろうか。

 Pidgin 2.0では、多少の洗練化は施されているものの、Ubuntu同梱版のGaim 2.0ベータ6やFedora Core 6同梱版のGaim 2.0ベータ5から大幅な変更が行われている訳でもない。Gaim 2.0の最新版ベータリリースが付属しているUbuntuその他のディストリビューションを使用しているユーザであれば、直ちにPidginへアップグレードすべき理由は見あたらないはずだ。ただしAOLとの商標問題が片づいた点を鑑みると、今後の開発は急速に進むのではないかと期待しているところである。

NewsForge.com 原文