IT企業における付加価値を持つリーダシップ能力の育成法

 ITスーパーバイザを務めるLynetteの働きぶりを見ると、正にエネルギッシュという表現がピタリと当てはまる。職務として課せられた本来の仕事はネットワーク管理なのであるが、何か特別なプロジェクトが発足すると真っ先に取り組むのはたいてい彼女であり、本業でもないのに頼まれれば率先してスタッフ用ガイダンスを開催するは、チーム全員が手本とすべき高い意欲を持って仕事を進めるは、といった具合だ。

 こうしたLynetteの仕事ぶりは、正に付加価値を持つリーダシップと呼ぶにふさわしく、実際彼女の属するチームはいい意味での刺激が与えられ、そのパフォーマンスや業績を常に高め続けている。そして、Lynetteのような付加価値を持つリーダシップを発揮している人間は、どんな組織にも何人かは存在するはずなのである。

 あなたの周囲を見回せば、リーダに求められる資質を常に発揮し続け、関わるすべての活動に付加価値を与えているという人材が、様々な現場において多数存在しているはずだ。これらの人々が職場のパフォーマンスや業績を高めている理由を知りたければ、最低でも以下に説明する4つの点におけるリーダシップのことを理解しなければならない。

周囲の人間の感化

 付加価値を持つリーダとは“静かなる革命家”と呼ぶべき存在である。こうした人々は、率先して自発的な行動をする人間であり、その情熱的な仕事ぶりを見せられることで周囲の人間は感化されていく。それでは、何が具体的にそれを可能にしているのだろうか?

  • 情熱を持って仕事を進めることで、職場に活気を与える。リーダとなる者には寡黙な人間もいれば口やかましい人間もいるが、共通しているのは「成せば成る」の格言を実践することにより、ポジティブシンキングの有効性を実証していることである。こうした人々は、傍観者を決め込むことで満足したりはしないものだ
  • 出しゃばることなく、自然な形で参加してくる。それは、作業に関わる人々の間を静かに立ち回り、適切な助言や情報を与え、様々なサポートをさりげなく提供するという形で行われる。チームワークとはこうした積極的な行為により育まれるものであり、それによって運命共同体という意識が生まれるのである
  • 周囲の人間が変化を受け入れられるよう、時には助言を与え、時にはおだて上げ、新たな機会への挑戦を促す。それはつまり、自分たちの未来には明るい展望が開けていると受け止めさせ、将来に対するビジョンを抱かせることに他ならない
  • 明確な目的を確立させ、その達成を目指させる。周囲の人間のやる気を引き出すコツは、堅実で達成可能な目標を設定させることであり、それには単純さと巧妙さのバランスの取れた手腕が必要になる

高い意識の形成

 付加価値を持つリーダとは、改善すべき問題点と達成すべき目標を意識させることで、思考の停滞を防止するものである。思考が停滞すると“引き金を引いてから狙いを定める”という本末転倒的な考え方がまかり通るようになり、ろくな検討をすることもなく未完成ないし不完全なソリューションが導入されたりするものだが、こうした措置はそのような事態の発生防止にも役立つ。それでは、何が具体的にそれを可能にしているのだろうか?

  • 目に映る事象の先を見据えた上で、可能な選択肢の中から最善のものを選び、慎重に練られた行動を起こす
  • 自身の抱く構想を明確化しておく。そして近視眼的な思考にとらわれて二の足を踏む人間に対しては、事態をより広い視野で捉えられるようにサポートする
  • 取りうる選択肢を見極める必要性を周囲の人間に理解させ、自己啓発を進める。これはつまり、様々な可能性を突き詰めて考えさせることである。その意味においてリーダとは、知識と探求心を伝える教育者だとも言える

チームワークと連帯意識の育成

 多くの場合、漫然とした意識で活動している組織のパフォーマンスや成果には、見るべき点が存在しないものである。無駄な作業の繰り返しや、評価に値しない仕事をダラダラと続けている背景には、往々にして政治的な垣根や縄張り意識といった要因が潜んでいる。そして付加価値を持つリーダとは、下記のような姿勢で動くことで、こうした状況とは好対照な環境を生み出すものである。

  • 何が最優先であるかを周囲の人間に理解させ、得られる成果の大きい活動に集中させる。目標が不明確で選択肢が多い状況では様々な問題が生じてくるものだが、取りうる選択肢を把握して、その検証と優先順位付けを行うことは、そうした状況の発生防止に役立つ
  • 職場の連帯意識を育成し、自分たちが共通の目標を持った運命共同体であることを自覚させることで、スタッフ同士の意識的なつながりを強める。セクショナリズムが横行すると群盲象を撫なず的な状態へと陥りがちになるが、各自が果たすべき役割が何であるかを自覚させることで、そうした事態の予防を図ることができる
  • 周囲の人々を連帯させ、協調した行動の取れる環境を整備する。実際、連帯意識があるだけでは、協調した行動が取れるものではない。チームとして活動させるためのスキルや指導力というものは、リーダ個人の働きでどうこうなるというものではなく、チームのメンバと一緒になって育成していくものである。また情報やリソースを共有し、相互に信頼し合うことを可能にするにも、共通の目標は必要となる

革新性とパフォーマンス

 付加価値を持つリーダシップを発揮する人間のすべてが、画期的な進歩をもたらすスター選手タイプの人間というものではない。むしろこうしたリーダとしての能力を有す者は、一歩一歩着実な前進を行うごくありきたりな人々の間に多く見いだすことができる。そのような人々は、常に着実な成功の積み重ねを進めていくものであり、先の群盲象を撫なずの例を引き合いに出せば、巨大な象の肉片を一口ずつかじっていくタイプとでも言えばいいだろう。それでは、何が具体的にそれを可能にしているのだろうか?

  • 何事についても、自分の現状に満足せず、組織の構造、業務のプロセス、得られる成果について、その継続的な改善と向上を常に考え続ける。もっとも、このように小さくても着実な改善を計画的に進める手腕を身に付けた人間は、往々にして、試行錯誤でしか物事を進められない不器用者と見なされがちなのである
  • 創造力の発揮に必要となる時間や技能やリソースについて、周囲の人々に協力を求める。深い洞察力に基づいた判断、あるいは独創性や創造性に溢れた発想、あるいは困難に挑戦しようとする意欲を持った人間が周囲にいれば、その力を活用するのである
  • 決断力を発揮し、必要な場面において“もしもの可能性”に躊躇せず、それを実行に変える。それは、冷静に状況を見極め、必要な人材を確保し、計画の立案を進めておき、そうした準備が終われば、派手な演出をするでもなく、速やかに実行に移すということに他ならない。行動に伴う様々なリスクを冷徹に評価した上で、組織の有すリソースの最適な配分を決定し、周囲の人間をその気にさせるのである
  • 自分を含めた周囲の人間に対し、意欲を引き出させるタスク設定を定めさせ、職場の士気を高める。そのためには、意欲を高めるためのモデル兼コーチとして働く必要がある。その結果、社内および社外のカスタマに対してより高い品質のサービスを提供できることが実証されることになる

付加価値を持つリーダシップ能力の育成法

 IT関連のスーパーバイザを務めている人間といっても、こうした付加価値を持つリーダとしての資質のすべてを備えている者はそれ程多くはない。とは言うものの、組織の中に人材を求めれば、そうした資質のいくつかを有している人間をたいていは見つけ出せるものである。

 いずれにせよこうした資質は、組織という器の中でこそ育まれるものである。付加価値を持つリーダシップとは、いわば組織を利する様々な能力の集合体のことであるが、それは学習によって身につけられる能力でもあるのだ。そこで提示するのが、以下の3つの戦略である。

 1つ目は、組織内部に人材を求めること。それほど目立たないが故に見落としているだけであって、付加価値を持つリーダに値する人間を既に身内の中に抱えている、という可能性は非常に高い。必要なのは、そうした資質を持つ者を見いだして、その擁護者となり、彼らの努力を評価して、更なる成功を達成するために必要なサポートを与えることである。

 2つ目は、新規雇用、昇進、論功行賞を行う際には、それを付加価値を持つリーダシップを持つ人材を発掘する機会だと捉えること。

 3つ目は、社内の訓練プログラムの中に、付加価値を持つリーダシップの育成モジュールを組み込むこと。付加価値を持つリーダシップという資質の多くは、適切なトレーニングを組織の方針として施すことで育成できるものである。

 こうしたリーダシップを育成し、最終的なIT企業としての利益に反映させるには、組織自体が明確な意識を持って、付加価値を持つリーダシップを生かすことを考えなければならない。

Ken Myersは組織行動論の博士号を所有し、米海軍およびノースウェスト航空にて組織運営のキャリアを積み重ねた後、現在はオンライン大学Touro University Internationalにて経営情報学のCore Professorを務める。Sonya Cox中佐は、米海軍の情報専門家であり、南方統合常備部隊司令部(マイアミ)の情報主任への就任が予定されている。

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