Dyne:Bolic 2.4.2:ライブCD方式のマルチメディアスタジオ
今回のDyne:Bolicの外面は、昨年レビューしたバージョン1.4.1からほとんど代わっていない。アプリケーションメニュー表示順の変更、一部のアプリケーションの入れ換え、各アプリケーションの安定版へのアップグレードが行われている程度だ。大きな変更点は、2.xリリースが新しいdyne:IIコアをベースにしていることで、このコアはスクラッチから書き起こされている。この新たなコアにより、Dyne:Bolicのカスタマイズ版の作成が容易になっている。
Dyne:Bolicは、Linux From Scratchの手順を使って一から構築されている。このディストリビューションは、あらゆる面で開発者による調整が施されている。Dyne:Bolic 2.4.2は、カスタムのLinuxカーネル2.6.18上で動作し、デスクトップマネージャは最新のXfce 4.4だ。カスタムアプリケーションメニューでは、目的別にアプリケーションを探せる。例えば、ストリーミングビデオ用のアプリケーションを見つけ出すには、「Video」→「Stream」を選択すればよい。オーディオについても同様のサブメニューが用意されており、オーディオとビデオの両メニューともに再生、実行、記録/編集、ストリームという4つの主要機能に基づいて各アプリケーションがリストされている。
収録アプリケーション
Dyne:Bolicには、ビデオおよびオーディオ再生用にXine、XMMS、AmaroK、StreamTunerがパッケージングされている。平均的なディストリビューションには見られないものとして、オーディオ制作用のArdour、ポッドキャストのような録音素材を編集するためのAudacity、楽曲作成のHydrogen、リアルタイムビデオ編集のFreeJ、インターネットで配信するオーディオのミキシングやストリーミングのためのMuSEといった専門的なオーディオおよびビデオアプリケーションがある。
Dyne:Bolicには、USBまたはFireWireポートに接続されるTVチューナカードやカメラのようなデバイスの認識を可能にするドライバも含まれている。あいにくテストに使えるTVチューナカードは手元になかったが、マウス、デジタルカメラ、携帯電話などUSB経由のデバイス接続はうまくいった。ビデオデバイスからのビデオの転送が終わるとすぐに、Cinelerraを使った編集作業やAvidemuxを使ったDVDへの書き込み準備ができるようになる。
Dyne:Bolicには、イメージマニピュレータも用意されている。画像の作成および編集用としてビットマップ画像向けのGIMPとベクタグラフィック向けのInkscapeのほか、3Dオブジェクトのモデリングとゲーム開発用の強力なアプリケーションBlenderもバンドルされている。
これらの専門的なアプリケーションに加えて、Dyne:Bolicにはいくつかの汎用アプリケーションもパッケージングされている。Ted、Nedit、Nanoといったシンプルなテキストエディタのほか、ワープロのAbiWord、デスクトップパブリッシングのScribusもある。そのほか、WebブラウザFirefox、IRCクライアントX-Chat、インスタントメッセージングクライアントGaim、電子メールソフトThunderbirdとMutt、P2Pファイル共有ソフトのBitTorrent、KTorrent、Gnutella、Nicotineなども含まれている。
Dyne:Bolic 1.4.1とは異なり、この最新版にはゲームが1つも入っていない。その代わり、WebページエディタのNvu、さらに高度なものとしてGTK2インタフェース作成用のGladeやFLTKユーザインタフェース向けのFluidといったいくつかの開発用アプリケーションが存在する。
Dyne:Bolicの使用法
Dyne:Bolicは、ライブCDとしての利用を想定して作られているが、データをハードディスク上に保存することもできる。Dyne:Bolicを起動する途中で、FAT、NTFS、ext3などあらゆるタイプのハードディスクパーティションの検出とマウントが行われる。Dyne:BolicにはSambaやLinNeighborhoodも含まれているため、FATやNTFSのパーティションをネットワーク経由で簡単にマウントすることができる。
このディストリビューションは私のデスクトップマシンの1台にあるATI Radeonカードを検出したので、もしやと思って試してみたのだが、Xサーバはやはり1024×768の解像度でしか動作しなかった。有線のイーサネットカードは問題なく動作するが、私のノートPCのPCMCIA無線アダプタは、いったん抜いて挿し直さないとうまく動作しなかった。
きちんと動作するようになれば、Dyne:Bolicで作業環境と設定の保存を行うのは簡単だ。NESTという小さなアプリケーションがあるので、これを使えばパーティションとUSBメモリのどちらにでもワークスペースと設定を保存できる。また、Advanced Encryption Standard(AES)によるデータの暗号化も可能だ。
CDドライブを解放したければ、ライブCDから700MBのdyne/ディレクトリを他のパーティションにコピーすることで、このディストリビューションをPC内に「格納(dock)」できる。それでも、ブート処理を開始するにはこのCDが必要になる。ただし、ハードディスクのマウントが終わり次第その格納先(ドック)が検出されるため、そこでCDを取り出せばハードディスクからブートを続けられる。このドックを使えば、システムとアプリケーションの双方の読み込み時間が大幅に短縮される。
Dyne:Bolicで新しいアプリケーションを追加するには、いくつかの方法がある。Dyne:Bolicの開発者は、インストール作業を不要にするアプリケーションモジュールを用意してくれている。例えば、OpenOffice.orgをインストールするには、そのモジュールをダウンロードして/dyne/modulesディレクトリに置くだけでよい。OpenOffice.orgのほかにも、多数のゲーム、アプリケーション開発、無線のスケジューリングやブロードキャストアプリケーションSoma Suiteのものなど、数々のモジュールが存在する。モジュールが用意されていないアプリケーションが必要な場合は、RPMパッケージまたはDEBパッケージによるインストールが可能だ。
Dyne:Bolicには、目立った問題点が見当たらなかった。バージョン1.4.1に比べて不足を感じるのは、ゲーム機のXbox上でブートしてOpenMosixクラスタの一部として実行する機能が省かれたことくらいだ。付随するマニュアルには、Dyne:Bolicと収録アプリケーションの素晴らしい紹介があり、それぞれのWebサイトや興味深い記事へのリンクも記されている。
Dyne:Bolicは、自らもアーティストである人々(オーディオおよびビデオ用の収録ツールのいくつかはこのディストリビューションの主任開発者が手がけたもの)によってまとめられている点も大きな魅力だ。創造性を表現するアーティストにふさわしいアプリケーションが揃っており、それらのインストールや設定に煩わされることもない。Dyne:Bolicの開発者は、このディストリビューションをスクラッチから作り上げることで、ハードウェア要求を低く抑えている。実際、Dyne:Bolicは非常に無駄の少ない作りなので、CPUがCeleron 1.4GHzでメモリが256MBしかない私のノートPCのメインディストリビューションとして利用している。
これまでにポッドキャストの自作、ラジオ局の運営、映画の編集などをやってみたいと思ったことがある人にとっては、1枚のCDに収められたフリースタジオとしてDyne:Bolicが役立つだろう。