最初はAoEのMODとして開発が始まった、オープンソースのリアルタイムストラテジゲーム「0 A.D.」――SourceForgeが選ぶ今月のプロジェクト

 米SourceForgeでは毎月1つのプロジェクトを投票で選び、「Project of the Month(今月のプロジェクト)」の栄冠を与えている。2012年6月に選ばれたプロジェクトは、文明の進歩をテーマにしたリアルタイムストラテジ(RTS)ゲーム「0 A.D.」だ。以下では、開発者らへインタビューの模様をお伝えする。

 今回のインタビュー相手は、0 A.D. ProjectのKieran Pilkington氏とErik Johansson氏、Aviv Sharon氏だ。0 A.D.には公式Webサイトもある。

 ――今回紹介する0 A.D.は、文明を構築するリアルタイムストラテジゲームだ。お話を聞かせてもらえることになって、とても感謝している。

 Erik: こちらこそ、ありがとう。

 ――まず触れておきたいのが、今回のインタビューが非常に素晴らしい点の1つとして、17のタイムゾーンにもまたがって、こうして電話でインタビューができる、という点だ。これはつまり、世界のどこに居てもこういったプロジェクトに参加できるというオープンソースソフトウェアの素晴らしさを証明しているんだ。さて、皆さんはこのゲームに関わってどれくらいになるんだい? 何に触発されてこのプロジェクトを立ち上げることになったの?

0 A.D.

 Erik: 実際に作業が始まったのは2003年か2004年頃なんだけど、構想はもう少し前からあったんだ。そのきっかけは、彼ら(開発者ら)がAge of Empire I(注:マイクロソフトがリリースしている著名RTSゲームの第1作目、通称AoE)の文明をAge of Empire II: The Age of Kings(注:AoEの2作目。AoEとはプレイできる年代が異なる)のエンジンに移植しようと決めたことだ。でもその野望はそれだけにとどまらず、自分たちで独自のゲームエンジンを作ることを決め、そしてその3年後、こうしてその成果がここにあるって訳さ。

 Aviv:AoE IIのMOD(注:ゲームの拡張パック)として開発が始まったんだけど、最終的にはスタンドアロンのゲームになってしまったんだよ。だから、開発の多くの時間はクローズドソースの、プロプライエタリなゲームのために費やされたんだ。ただ、その間も常にその成果物は無料でリリースされていた。そして2009年夏、僕らはオープンソースにすること決め、それからは後ろを振り向かないようにしたんだ。

 ――このプロジェクトに関わっている開発者はどれくらいいるの?

 Erik: それは答えるのが最も難しい質問だ。あえて言うなら、ある程度活発に活動している開発者は5から20人くらいというところだ。だけど、何人かはアドバイザー的な存在で参加した古くからのメンバーだったり、また新たに参加した開発者の中にはオフィシャルチームメンバーにならずにコントリビュートしてくれている人もいる。正確な人数を答えるのは難しいけど、総じて大体20人前後といったところだね。ただ、年を追うごとに増えているよ。少なくとも……。

 Aviv: 数百。簡単に数えても、数百はいる。

 ――おお、それは凄いな。新たに参加したい人を受け入れる余地はまだあるの? 新規に参加する人はどういったことに関われる?

0 A.D.

 Aviv:いい質問だ。僕らは常時、0 A.D.がより完成された状態に昇華するよう、新たな貢献者の参加を求めているんだ。低レベルのコードからAI、ランダムマップスクリプト、そしてより高レベルのプログラミングに至るまで、プログラミング全分野において新たなプログラマを常に探しているんだ。グラフィックアーティストも探している。2Dやテクスチャ、ユーザーインターフェイス、3Dモデリングやアニメーションができる人もだ。また、開発の管理の面で手助けをしてくれる人や、ドキュメントを作ってくれる人、サウンド関連での管理、そのほか多くの作業について門戸を開いている。だから、いつもWebサイトの掲示板で宣伝しているし、そこへのリンクも歓迎している。

 ほとんどのポジションで、僕らは応募者に対して簡単なフォームへの記入をお願いしている。だけど参加の基準はかなりオープンで、またプログラマーは申し込みなしで、いつでも歓迎している。

  Erik: プログラマーはまずは、コミュニティーのメンバーとしてコードにパッチを当てるところから出発するんだ。もし持続していい仕事をしているようであれば我々の目に留まり、我々の方から開発チームに参加するよう声をかけることになる。だけど、コミュニティメンバーと開発チームとの違いはSVNリポジトリへのアクセス権が得られるくらいで、プログラミングの部分については基本的にオープンになっている。

 ――このゲームはどの程度、史実に忠実なの?

 Erik: かなり史実に忠実だよ。だけど、一方でゲームがより楽しくプレイできるようにもしている。だから強いて言うなら、この2つが相容れないようなことがあれば、楽しさを優先させるね。

 Aviv: 僕らは、古代の世界ではユニットや建物がどのように見えていただろうかという観点から、全ユニット、全建物の復元を行うんだ。それぞれの文明の特徴に基づいて、各文明の技術を決めている。ユニットや建物につける名前も、その文明特有の言語を用いている。古代ギリシャやラテン、カルタゴ、ケルトなどの文明を、当時のありのままに構築することを試みているんだ。そうすることで、現実味のある歴史の深淵を感じることのできるゲームにできるし、もしかしたらプレーヤーに古代史について何か教えてあげられるかもしれない。

 ――プロジェクト内に歴史の専門家はいるの?

 Erik: いや。だけど、ここ数年にわたって、僕らはプロとアマチュアの両方の歴史研究家にレビューをしてもらっている。これは今後も続けられる。もし何か間違いが見つかったら、そこはもう一度見直すことになる。

 Kieran:これまでも、何人かがコミュニティに参加して、特定のユニットや建物の名前が間違っていたことを指摘してくれた。僕らは彼らからのフィードバックをゲームに活かしている。このプロセスは続いていくんだ。

 Aviv:以前、ゲームのメインメニュー画面にはスパルタの風景が描かれていたんだけど、そこに描かれていた盾は実はアテネのものであるとの指摘を受けて変更したこともある。

 ――あはは。それは凄いな。このゲームが網羅している世界はどこからどこまでなの?

0 A.D.

 Aviv:現在のところは6つの文明を網羅していて、そこにはアテネ、スパルタ、マケドニアといった古代ギリシャの3都市が含まれている。そのほかにはローマやカルタゴ、ケルト民族、イベリア半島の民族、ペルシャがある。それから現在、インド亜大陸のインダス川で発展した文明の起源であるインド・マウリア朝を加えている最中なんだ。実は、この文明のデザインはクラウドソーシングで行っているんだ。この新たに追加する文明の建物や技術をデザインするのに、コミュニティから歴史的情報を募っているんだ。

 ――ほかのオープンソースゲームコミュニティと交流したり、共同作業したりといったことはあるのかい?

 Aviv:僕らはインディーズゲーム界とオープンソースソフトウェア界の中間にいる存在なんだ。いずれの文化にも完全に属しきらない。確かにほかのプロジェクトへの接触も行っている。もしかしたら新たなコラボレーションの仕方を見つけられるかもしれない。僕らが思うに、僕らが開発したコードの大部分はほかのプロジェクトにも使えるはずなんだ。だけど現在のところ、僕らは0 A.D.の完成に向けて開発に集中している。0 A.D.向けのたくさんのコードを書き、たくさんの機能を実装している。さまざまなゲームに使える、一般的なソリューションの実装はその後だ。

 ――「完成に向けた開発」というのはどういう意味なんだい? 今後の予定は? やり残していることは?

 Kieran:現在はまだアルファ段階、つまり主要な機能のすべてが完成しているわけではないんだ。やるべきことはまだいくつか残っている。具体的には、門や文明ごとのテクノロジーツリー、そのほか細々としたものもある。主要な機能が全部実装されたら、ベータ段階に移行するはずだ。本質的な部分を洗練させたり、バグフィックスをしたり、ゲームプレイなどの面からゲームのバランスを調整したりする。多分、その段階まで行くのにそんなに時間はかからないだろう。それから、各リリース毎に、目標とする機能を設定している。また、現在残っているチケットの数が300くらいもあるんだ。これがより多くの開発者を必要としている理由の1つだね。参加して助けてくれる人をいつだって歓迎している。このゲームを早く完成させたいから。

 Aviv:ほかのオープンソースプロジェクトと違って、僕らにはゲームを完成させたいという考えがあるんだ。それだけじゃなくいて、いつまでに完成させたいというのもある。このプロジェクト開発をだらだらと永遠に続けていく気はなくて、いつか完成させたいと思っている。2013年にはその段階に達していることを願っている。

 ――あなたはこのプロジェクトにずっと関わっているけれど、これまでで最も驚かされたのは?

 Aviv: 最も驚かされたのはおそらく、数多くのさまざまなコミュニティから、0 A.D.に対する素晴らしい反応が得られたことだと思う。インディーズゲームやMODのファンからLinuxやフリー・オープンソースソフトウェアコミュニティに至るまで、あらゆる楽しいコメントをもらっているよ。たとえば、Empire EarthやRise of Nations(注:どちらも歴史や文明の進化をテーマにした商用RTSゲーム)に赤ちゃんがいて、その赤ちゃんが無料で登場したような感じ、とか。ファンから、面白くて心温まるコメントがたくさん送られてきている。僕らがこうしてプロジェクトを続けられているのも、勇気づけてくれる皆がいるからなんだ。皆に感謝しているよ。

 ――忙しい中、今回のインタビューに快く応じてくれて本当にありがとう。プロジェクトの成功を祈っています。

 Erik: どういたしまして。こちらこそ、ありがとう。