1,000円を切る低価格で登場、「さくらのVPS」をチェック――徹底ベンチマーク編

 さくらインターネットが9月1日よりスタートさせたVPSサービス「さくらのVPS」は、月額980円という低価格設定ながら、国内外の他社VPSにも負けないスペックが魅力だ。本記事ではさくらのVPSサービスの詳細を紹介するとともに、実際の環境を使用してのベンチマークでその実力をチェックする。

 9月1日より、さくらインターネットがVPSサービス「さくらのVPS」正式版の提供を開始した。メモリ512MB、HDD20GBという環境を月額980円で提供するという、価格設定が魅力的なサービスである。しかし、VPSはその設定やサーバー構成、そして1台のサーバーに収容されるユーザー数などの条件によって性能が大きく変わるため、単純なスペックだけではその性能は比較しにくい。そこで本記事では、実際にさくらのVPSを利用し、各種ベンチマークツールを使用して実際のサーバー性能を確認、その実力をチェックしていく。

「さくらのVPS」サービス概要

 まずはさくらのVPSサービスの概要をチェックしておこう。

低価格ながら十分なスペックの環境を提供

 さくらのVPSは仮想化方式としてKVMを採用したVPSサービスである。提供されるVPS環境のスペックは表1のとおりだ。料金は月額980円だが、1年分をまとめて支払うと月額約898.3円と、さらに低価格で利用できる。

表1 提供されるVPS環境
構成要素 スペック
メモリ 512MB
HDD 20GB
ネットワーク 100Mbps(バックボーンは1Gbps)
データ転送量 無制限
OS CentOS 5(x86_64)
付与されるIPアドレス 1(グローバルIPアドレス)
価格(月額) 980円(年間一括払いの場合10,780円/年)

 なお、初期費用は不要で、また2週間の無料お試し期間も用意されている。とりあえず試してみたいというユーザーにはうれしいところだ。ただし、無料お試し期間中は外向き(下り)の通信速度が2Mbpsに制限されるとのことなので、試用する際は注意してほしい。

VPSの起動/停止/再起動やコンソールアクセスが行える「VPSコントロールパネル」を用意

 さくらのVPSでは、「VPSコントロールパネル」と呼ばれるリモート管理機能が用意されている(図1)。これはWebブラウザ経由でサーバーの起動/停止/再起動といった操作やVPS利用状況の確認、そしてコンソールへのアクセスが行えるというものだ。たとえばカーネルの設定を変更してブートできなくなったり、運用中にカーネルパニックが発生してシステムがフリーズした場合などでも、ここから簡単にシステムを再起動できる。

図1 提供される「VPSコントロールパネル」
図1 提供される「VPSコントロールパネル」

 VPSコントロールパネルの「リソース情報」ではCPU、ネットワークトラフィック、ディスクI/Oの利用状況が時系列のグラフで表示され、サーバーにどれだけ負荷がかかっているかを簡易的ではあるがチェックできる(図2)。

図2 VPSコントロールパネルの「リソース情報」表示
図2 VPSコントロールパネルの「リソース情報」表示

 また、「リモートコンソール」ではWebブラウザ上でVPSのコンソールを確認したり、ログインしての操作が行える(図3)。リモートコンソールではVPSの仮想シリアルポート経由でコンソールにアクセスしているため、VPSのネットワークが有効になっていない場合でも利用できる。起動時にカーネルから出力されるメッセージを確認したり、設定ミスなどでネットワーク経由ではサーバーにアクセスできなくなった場合の復旧に便利だ。

図3 VPSコントロールパネルの「リモートコンソール」
図3 VPSコントロールパネルの「リモートコンソール」

 そのほか、VPSのOSを再インストールする「OS再インストール」機能もある(図4)。VPSを強制的に停止してストレージを初期化し、OSを再インストールして環境をリセットするものだ。VPS内のデータはすべて失われてしまうが、設定ミスなどでOSが完全に立ち上がらない状況になった場合などに役立つ。

図4 VPSコントロールパネルの「OS再インストール」
図4 VPSコントロールパネルの「OS再インストール」

制限の少ない利用規約

 さくらのVPSでは利用規約がかなり制限の緩いものになっているのも特徴の1つだ。他社VPSサービスでは営利目的で第三者にサーバーを利用させることが禁じられていることが多いが、さくらのVPSではこれらについても制限はない。リソースの制限があるため大規模な再販などは難しいとは思われるが、たとえばWebアプリケーションを構築してそれを有償で提供したり、有料の会員制サイトなどを構築することも可能だ。

VPSサービスとそのほかのレンタルサーバーサービス

 レンタルサーバーサービスには、今回紹介しているVPSサービスだけでなく「共有サーバー」と呼ばれているものや「占有サーバー」と呼ばれているタイプのものがある。

 共有サーバーは1台のサーバーを複数のユーザーで利用するタイプのレンタルサーバーとなる。ユーザーにはroot権限が提供されず、そのためソフトウェアのインストールに制限があるほか、負荷が高いプログラムやメモリを多く消費するプログラムの実行が制限されている場合が多い。さらに同じサーバーを利用しているほかのユーザーが負荷の高いプログラムを実行していたり、ネットワークトラフィックやディスクI/Oといったリソースを多く利用していると、自分が実行するプログラムの処理が遅くなってしまうこともある。料金は比較的安価で、さくらインターネットの場合「さくらのレンタルサーバ」がこのタイプのサービスとなる。

 一方、占有サーバーはサーバーを1台単位でレンタルするもので、ユーザーはレンタルされたサーバーのすべてのリソースを占有することが可能だ。そのため自由度も高く、ユーザーはサーバーのroot権限を持ち、ソフトウェアを自由にインストールして利用できる。CPUや大容量のストレージ、メモリ、I/Oなどを占有できるため負荷の高いプログラムを実行できるというメリットもある。ただし、料金はほかのタイプと比較して高価である。さくらインターネットで提供されているサービスの場合、「専用サーバ」がこのタイプになる。

 そして今回紹介しているVPS(Virtual Private Server)サービスだが、こちらは共有サーバーと占有サーバーの中間とも言えるサービスで、仮想化技術を用いて1台のサーバー上に複数の「仮想サーバー」を作成し、その仮想サーバー単位でサーバーをレンタルするというものになる。1台のサーバーを複数のユーザーで利用する、という点は共有サーバーと同じであるが、ユーザーは1つの仮想環境を占有でき、管理者権限も提供される。そのため、自由にソフトウェアをインストールして利用でき、サービスによってはCPU占有率や利用できるメモリ容量も保証される。また、料金も占有サーバーと比べると安価である。ただし、1台のサーバーで複数の仮想サーバーを動作させるため、同じサーバーに収容されているほかの仮想サーバー次第で性能が変動するというデメリットがある。

 なお、占有サーバーやVPSは自由度が高いという特徴があるが、それは裏を返せばサーバー構築やセキュリティ設定などをすべてユーザーの手で行わなければならない、ということでもある。そのため、ただ単にCGIを動かしたい、ブログを開設したい、というだけなら共有サーバー型のレンタルサーバーを利用したほうが良いだろう。

表A 各レンタルサーバーの一般的な特徴
特徴 占有サーバー 共有サーバー VPS
価格 高価 安価 安価
自由度 高い 低い 高い
性能 高い 低い 状況によって変動
Xen/KVM/Virtuozzo/OpenVZそれぞれの長所/短所

 現在VPSサービスで利用されている仮想化技術としては「Xen」や「KVM」、「Virtuozzo」、「OpenVZ」などがある。どれも1台のサーバー上に複数の仮想サーバーを作成する、という点では似ているが、その実現方法は異なり、それぞれ長所/短所がある。

実績が豊富なXen

 Xenはケンブリッジ大学の研究プロジェクトとして開発された仮想化技術で、GPLのオープンソースソフトウェアとして公開されている。仮想環境を管理するための専用システム(「ハイパーバイザ」と呼ばれる)上で仮想マシンを実行するのが特徴で、ハードウェアを完全にはエミュレートしない「準仮想化」と、ハードウェアについてもエミュレートする「完全仮想化」の両方に対応している。VPSの場合準仮想化方式で利用されることが多い。この場合、仮想環境上で利用できるOSはLinuxなど対応OSに限られるものの、仮想化のオーバーヘッドが小さいためより高いパフォーマンスを発揮できる。

 Xenが公開された2003年当時にすでにはVMwareやVirtuozzoといった商用の仮想化ソフトウェアは存在していたものの、Xenはフリーかつ実用的ということですぐに注目を集めることとなった。そのため商用サービスでの利用実績も多く、VPSでも比較的多く利用されている。

歴史は浅いもののこれからが期待されるKVM

 KVMはLinuxカーネルに含まれる仮想化技術で、インテルCPUが備える「VT-x」などの仮想化支援機能を利用して仮想化を実現しているのが特徴だ。アーキテクチャとしてはXenと似ているが、Linuxカーネル自身にハイパーバイザ機能を組み込む形になっているのが異なる点となる。KVMは完全仮想化に対応する仮想化技術であるが、仮想環境にインストールしたOS上に専用のドライバやカーネルモジュールをインストールすることでパフォーマンスを向上させることが可能だ。

 KVMの歴史はXenと比べると浅いためまだ採用実績は少ないが、Linuxカーネルに組み込まれているということもあって開発ペースが早く、性能も優れていると言われている。

カーネルを共有して使用するVirtuozzo/OpenVZ

 Virtuozzoは米SWSoft(現Parallels)が開発した仮想化技術で、そのオープンソース版がOpenVZとなる。VirtuozzoやOpenVZはXenやKVMとは根本的に異なり、1つのカーネルを仮想環境間で共有して利用するのが特徴である。仮想環境間でカーネル空間を共有するため、XenやKVMと比べて1台のサーバーでより多くの仮想環境を実行できるというメリットがあるが、いっぽうで仮想サーバー側からはカーネルの変更ができない、仮想サーバーごとのスワップが利用できないなどのデメリットがある。なお、OpenVZはLinux専用であるが、商用のVirtuozzoについてはWindowsにも対応している。VirtuozzoやOpenVZは1台のサーバーにより多くの仮想環境を集約できるため、低価格のVPSサービスで多く採用されているようだ。

 なお、XenやKVMを利用したVPSサービスの場合、ユーザー側でカーネルを入れ替えたり、独自のカーネルモジュールを導入する、といったことが可能だ。また、ストレージに関しても比較的制限が緩いことが多く、自由にパーティションを切り分けたり、フォーマットを行える。いっぽうVirtuozzoもしくはOpenVZを利用したVPSの場合、これらの操作は行えない点に注意が必要だ。