確実な進化を感じさせる「Ubuntu 9.04」
世界的に現在もっともポピュラーなLinuxディストリビューションといえば、Debian GNU/Linuxをベースに誰もが使用可能なデスクトップOSを目指して開発されているUbuntuであることに間違いない。DistroWatchのページヒットランキングでも、2005年以降は常にNo.1の座をキープしている。もともとデスクトップ用途でスタートしたディストリビューションだが、最近のバージョンでは、サーバ用途に特化したサーバ版も公開されている。2009年4月23日に、その最新版であるUbuntu 9.04(コード名「Jaunty Jackalope」)がリリースされた。オフィシャルサイトでは、デスクトップ版(Ubuntu Desktop Edition)、サーバ版(Ubuntu Desktop Edition)が1枚のCDイメージ(32ビット版および64ビット版)とし公開されているほか、今回はネットブック用のNetbook Remix版も同時公開された。なお、デスクトップ版に関しては、Ubuntu Japanese Teamによって日本語環境を強化した「9.04 Desktop 日本語 Remix CD」(32ビット版)がダウンロード可能だ。
ext4も設定可能なGUIインストーラ
デスクトップ版の場合、インストールメディアはライブCDとしても利用できるのでインストール前に試すことができる。使い勝手に定評あるGUIインストーラによりインストールは簡単だ。基本的なインストール手順はこれまでと変わらないが、グラフィックなどは一部変更されている(図1、図2)。
図1:8.10のインストーラ | 図2:9.04のインストーラ |
また、9.04では次世代ファイルシステムとして期待されているext4がサポートされた。ただし、デフォルトはこれまでと同じくext3である。ext4を使用するには手動でパーティションを設定する必要がある(図3)。
新しいイベント通知システム「NotifyOSD」
デスクトップ版では標準のデスクトップ環境であるGNOMEが2.24から2.26に、OpenOfficeは2.4から3.0.1に更新されている。Ubuntu 8.10と比較して、見た目的にはメニュー項目など若干の相違はあるものの大きな違いはない(図4、図5)。
図4:8.10のデスクトップ | 図5:9.04のデスクトップ |
9.04でユーザーにもっとも恩恵のあるのは、起動時間の短縮だろう。筆者の環境ではGRUBメニューからログイン画面が表示されるまでの時間は、8.10で35秒だったのが、9.04では26秒とかなりの短縮になった。
また、9.04では、ハードウエアやアプリケーションからの情報をフローティングウインドウに表示する、イベント通知システムが刷新された。その開発フレームワークには、MacユーザーにはおなじみのGrowlに似た機能を提供するNotifyOSDが採用され、これまで以上にシンプルで一貫性のあるメッセージを表示可能になっている。表示されるフローティングウインドウのデザインも黒を貴重にしたものに変更された(図6)。対応アプリケーションも今後増えていくことだろう。ただし、実際使ってみた感想としては、メッセージの表示される時間が短いように感じた。数秒で消えてしまうので気がつかないことも少なくない。そのあたりをカスタマイズするための設定ツールも欲しいところだ。
図6:ネットワークインターフェースからの通知(左)とPidgin(インスタントメッセンジャー)からの通知(右) |
パッケージ管理ツールの強化
Synapticパッケージマネージャには、新たに選択したパッケージのスクリーンショットを表示する機能が加わった。現時点では、スクリーンショットが用意されているアプリケーションはそれほど多くないが、GUIアプリケーションの選択基準として役立つだろう。
また、不要なパッケージをシステムから削除する「不要パッケージの管理ツール」(computer-janitor)が搭載された。たとえば、Synapticパッケージマネージャやapt-getコマンドを使用して、あるパッケージ(パッケージA)をインストールすると、そのパッケージに依存するパッケージも自動的にインストールされる。その後、パッケージAを削除した場合、それが依存していたパッケージは削除されずに取り残される。そのようなときに、不要パッケージの管理ツールを使用すれば、他のパッケージから必要とされていないパッケージを削除できるわけだ。
クラウドコンピューティングへの道を歩き出したサーバ版
サーバ版の方は、サーバ用途に特化したエディションで、インストーラを含めてGUIはいっさい搭載されていない。今回のバージョンアップのもっとも大きな注目点は、米Amazon.comが提供するクラウドサービス「Amazon EC2」とAPI互換性のある「Eucalyptus」が試験的にサポートされた点だろう。これにより、自宅などでもクラウドコンピューティング環境を試すことが可能になる。
デスクトップ版と異なり、デフォルトのパーティションにはLVMが使用され、フォーマットはext3となる。利用するサーバ環境はインストール時に選択可能だ。たとえば、「LAMP Server」を選択すれば、Apache、MySQL、PHP/Perl/PythonといったWebアプリケーションサーバ構築用のパッケージがインストールされる。なお、デスクトップ版と同じく、初期状態ではrootのパスワードは設定されておらず、管理作業は基本的にsudo経由となる。
NetBookのサポート強化
9.04では、デスクトップ版、サーバ版に次ぐ第3のエディションとして、ネットブックなどのULCPC(Ultra Low-cost PC)専用のNetbook Remix版が同時公開された。デスクトップ版でもサスペンド、レジュームといった電源管理の改善などが行われているが、Netbook Remix版ではそれらに加えて、ネットブックの特性に合わせた味付けがなされている。
まず、Netbook Remix版は光学ドライブのない環境でもインストールできるように、USBメモリイメージとして公開されている。USBメモリのインストールメディアは、Linuxのほか、WindowsやMac OS Xでも作成可能だ(インストールガイド)。
下にNetbook Remix版の画面を示す(図10)。標準のデスクトップには、シンプルなアプリケーション・ランチャーといった趣の「Ubuntu Netbook Lancher」が採用され比較的解像度の低いディスプレイにおいても、高い操作性を確保している。
このほかNetbook Remix版には、タブレットPC向けにソフトウェアキーボードの「CellWriter」も装備されている。ネットブックを買ったものの付属のOSがどうもしっくりこないという方は、このNetbook Remix版を試してみるのもよいだろう。