初心者にも扱いやすくなった Debian GNU/Linux 5.0 (lenny)
メジャーなLinuxディストリビューションの中で、もっともマニアックな香りがするのがDebian GNU/Linuxではないだろうか。インストールが難しい、システム設定が複雑といったイメージからか、これまでは初心者に敬遠されていた感は否めない。そのDebian GNU/Linuxの最新安定版(stable)リリースであるバージョン 5.0(コードネーム「lenny」)が、2009年2月14日にリリースされた。カーネルを2.6.26とした今回のバージョンアップでは、それほど目新しい新機能は少ないが、安定性と使い勝手の向上に重点が置かれている。筆者が1週間ほど使った感想としては、かつての難解で質実剛健といったイメージは影を潜め、デスクトップOSとしての完成度も、人気のUbuntuと比較してもそれほど遜色ない感じだ。なお、セキュリティ的な面の強化点として、LinuxをセキュアOS化するSELinuxが標準でインストールされるようになった(ただし、デフォルトでは無効になっているので有効にするには設定が必要)。
膨大なパッケージ数
Debian 5で利用可能なパッケージ総数はなんと23,200個を超え、Debian 4(etch)の約18,000から5,000以上も増えている。そのため、バイナリパッケージをすべて含んだインストールメディアは、4~5枚のDVD、または28~32 枚のCDで提供される(枚数は対応アーキテクチャによる異なる)。さらに、今回のリリースでは新たに、すべてのパッケージを含むBlu-rayディスクのイメージも用意された。
膨大なパッケージからソフトウェアを選択できる点は他の追随を許さないDebianの特徴だが、実際に個々のユーザーが利用するのはその一部だけだ。そのため、インストール時に高速なインターネットが使える環境であれば、リポジトリから必要なパッケージだけを取得してインストールすることが可能な、”netinst”イメージ(約180MB)、もしくはより小さい”businesscard”イメージ(約40MB)を使用するとよいだろう。もちろん、これまで同様、Debianの既存ユーザーはインストーラを使わずにアップグレードすることができる。
グラフィカル・インストーラによる簡単インストール
かつてはインストールが難解といったイメージが強かったDebianだが、最近のバージョンではグラフィカル・インストーラの搭載により、驚くほど簡単にインストールが可能だ。このグラフィカル・インストーラはDebian 4から搭載された機能だが、Debian 4では「boot:」プロンプトに続いて「installgui」とキーボードからタイプする必要があった。それに対して、Debian 5ではインストール方式をメニューから選択できるように改良されている(図1)。「Graphical install」を選んだ後は、インストーラの指示に従ってインストールを進めればよい。
ただし、Debianのグラフィカル・インストーラにはFedoraやUbuntuのインストーラにあるような既存のパーティションを縮小する機能はないので、Windowsとのデュアルブート環境を構築したい場合などは、「Parted Magic」などを使用してあらかじめインストール先のハードディスクに空き領域を確保しておく必要がある。いずれにせよ、Debianはインストールガイドを含む詳細な日本語のドキュメントが充実していることでも知られている。一度目を通しておいたほうが良いだろう。今回はDebian 5をデスクトップOSとして試してみるために、「ソフトウェアの選択」ステップで「デスクトップ環境」を選択した(図2)。
標準のデスクトップ環境はGNOME
標準のデスクトップ環境はGNOME 2.22だ。Debian 4のときはGNOME 2.14だったので大幅なバージョンアップとなったが、デザイン面や操作性の面ではそれほどの変化はない(図3、図4)。
図3:Debian 4のGNOME 2.14 | 図4:Debian 5のGNOME 2.22 |
インストール時に「デスクトップ環境」を選択した場合、一般的なGNOMEアプリケーションのほか、OpenOffice.org 2.4.1やGimp 2.4.7などの定番ソフトもインストールされる。なお、Debian 5では、ネットブックなど比較的非力なシステム用のデスクトップ環境として、KNOPPIX 6.0でも採用された軽量かつ高速なLXDEが新たにサポートされた。もちろん、KDEやXfceも利用できる。なお、Debian 5のKDEはバージョン3.5.9だ。KDE 4.2はexperimental(実験用)リポジトリにあるが、十分にテストされているわけではないので導入する場合は注意されたい。
パッケージ管理ツール
Debianのパッケージ管理システムはAPT(Advanced Packaging Tool)である。APTにはいくつかのフロントエンドが用意されているが、リリースノートによれば、コマンドラインでのパッケージ管理には、apt-getの代わりに、依存関係の解決面ですぐれたaptitudeを利用することが推奨されている。また、GUIのパッケージ管理ツールとしては「Synapticパッケージマネージャ」が用意されている。それに加えてDebian 5では、Ubuntuにも搭載されている、より手軽に使える「アプリケーションの追加と削除」(gnome-app-install)も標準で追加されている(図5)。
ただし、Ubuntuのようにプロプライエタリなビデオドライバなどをワンステップでインストールする機能は用意されていない(パッケージ自体は用意されている)。その点は初心者には若干敷居が高いかもしれない。
さまざまなプラットフォームに対応
Debianの大きな特徴のひとつが、さまざまなプラットフォームに対応している点だろう。Debian 5では、ARMプロセッサの使用効率を改善したARM EABIのサポートが追加され、対応アーキテクチャはIntel x86、Alpha、SPARC、PowerPC、ARM、MIPS(ビッグエンディアン/リトルエンディアン)、Intel Itanium、HP PA-RISC、S/390、AMD64、ARM EABIの12種類となった。Intel x86やPowerPCなどメジャーなプラットフォームのデストップOSといった用途ではUbuntuと比較してDebianを積極的に選択するというメリットはそれほど見あたらないかもしれないが、それ以外のプラットフォームでは数少ない選択肢のひとつとなるだろう。
ライブ版の提供
Debian 5では、はじめてCDやDVDから直接起動可能なライブ版が提供されるようになった(図6)。Debian Live ProjectからGNOME、KDE、LXDEといったデスクトップ環境ごとのイメージがダウンロード可能だ(現時点の対応アーキテクチャはi386とAMD64のみ)。このライブ版では「live-rw」というラベルを設定したext2/3のパーティションをUSBメモリなどに用意しておくことで、変更点やユーザデータを差分データとして保存しておくことができる。
また、Debianに用意されているlive-helperというツールを使用することでオリジナルのライブCDを簡単に構築することも可能だ。Debianには派生ディストリビューションが数多く存在するが、パッケージ構成を変えた程度のカスタマズライブCDなら、live-helperを使って作ることができる。