フリーソフトウェアから見たACTAへの懸念

最近FSFが力を入れているのが、ACTAへの反対運動である。

ACTAというのはAnti-Counterfeiting Trade Agreement(模倣品・海賊版拡散防止条約)のことだ。まだ構想段階ではあるが、知的財産権の執行を強化するための国際的な法的枠組を新たに作りましょう、ということで、米国やEU、日本といった知的財産を多く有する先進国の主導で話が進んでいるらしい。ちなみに、そもそもの言い出しっぺは日本(2005年、当時の小泉首相がG8サミットでぶちあげた)だそうだ。

ところで、なんでそんなものがフリーソフトウェアに関係あるかと言うと、ようするにこれは知的財産の国際的な流通に何らかの網をかけて規制しましょうという趣旨だからである。もちろん規制対象の一つはインターネット上における流通だ。偽ブランド品を水際で食い止めるというだけなら大変結構なことだが、大体においてこの手の網は目が粗すぎて、たとえばP2Pによるソフトウェア流通のような、それ自体は別に違法でもなんでもないものすらも一網打尽にしてしまいがちである。最近では、ネットワークへの負荷を下げるためにフリーソフトウェアをBitTorrentのようなP2Pネットワーク経由で配布するということも決して珍しくないので、こうしたものもACTAを根拠に取り締まられてしまうのはフリーソフトウェアの今後の流通促進にとってマイナスとなる。また、コンテンツにDRMをかけることが強制されたり、DRMの回避がさらに厳しく違法化される可能性もある。そうすると、そうしたコンテンツはフリーソフトウェアのプレーヤ(それにはもちろんRockboxのようなものも含まれる)では原則的には再生できなくなってしまうだろう。これも、フリーソフトウェアの一般への普及を阻害する大きな要因になる。

一応強調しておくと、ACTAが最終的にどのようなものになるかはまだ不明な点が多い。というより、ほとんど何もわかっていないというのが適切である。リーク情報を載せるWikiとして有名なWikileaksにはACTA素案に関する2007年10月時点でのメモ[PDF]と称するものが公開されているが、何せ素案というだけに何ら具体的ではないし、そもそもリークなので内容の信憑性は全く保証されていない。Ars Technicaの記事も指摘するように、税関の職員や「著作権警察」が、私たちのラップトップや携帯音楽プレーヤ、携帯電話を開けて、中に違法にコピーされたものが入っていないか調べることが出来るようになる「かもしれない」し、そうはならないかもしれない。よくわからないのである。よくわからないものには反対しようがない。おそらくこれがACTAを巡る秘密主義の狙いであろう。議論の場がWTOやWIPOといった(途上国もメンバの)国際機関ではなく、いわば「有志連合」のような形を採っているのもこの見方を裏付ける。

そう、ACTAに関して最も問題なのは、そもそも具体的な条文案のようなものが全く表沙汰になっていないということなのだ。表沙汰にならないまま話だけ進んでいる。しかもわざと隠しているふしがある。構想段階といっても、実のところ昨年7月の時点で年末までには交渉を終わらせましょうと言えるくらいにはすでに内容が固まっているはずなのだ。実際にはまだ合意していないようだが、今年3月モロッコで開かれる会合で合意・締結に至るのではないかという観測もある。ようするに、うるさいのに絡まれる前にうやむやのうちに決めてしまおうという思いが見え隠れしているのである。実際、新聞やテレビといったメディアで報じられることはあまりないし、ブログでも日本語ではあまり見かけない(P2Pの見地からこの問題を精力的に扱い続けているブログ、P2Pとかその辺のお話は希有な例である。手前味噌ながら弊サイトも昨年7月記事を掲載している)。昨年9月には、EFFを含む世界中100以上の団体が現時点でのACTA草案の公開を求めて公開書簡を送っているのだが、今のところ黙殺されているようだ。

そんなわけで、いまだ曖昧模糊とした雲の中にあるACTAではあるが、今後も新たな情報が出て来しだい、本コラム等で取り上げてみたいと思っている。最近、私が何か言うと何でもMIAUの方針だと思われるふしがあって閉口しているのだが(私は別にMIAUにそれほど深くコミットしているわけではないし、私が言うことは基本的に私個人の意見である)、今後ACTAの全体像がはっきりしてきたら、あるいはMIAUとしても何らかのアクションを取るべく提案するかもしれない。