コミュニティの結束力を高めるUbuntu主催のFOSSCamp
6か月ごとにさまざまな開催地で開かれる1週間にわたるUbuntu Developer Summit(UDS)は、Ubuntuの次期リリース版について議論する場である。一方、ほとんど宣伝されることのないFOSSCampは、必ずその直前の週末に開催される。アンカンファレンス(un-conference)であるFOSSCampにはプログラムは存在せず、招待講演者もなく、お金もかからない。マニアックなWoodstock(1969年に開かれたロックコンサート)のようだがそれよりも小規模なこのUbuntuのイベントが、つい先ほど開催された。
12月5日金曜日の朝、FOSSCampの参加者らが、開催場所であるマウンテンビューのGoogle敷地内に姿を見せ始めた。カンファレンスのセッションを告知するロビーの大きなホワイトボードには、何も書かれていない。誰でもそこにあるマーカーで、5つのカンファレンスルームの1つを選んで、プレゼンテーションの予定を書き込むことができる。講演者は自薦で、自分でそこに掲示するのだ。
リュックサックを背負った薄汚いハッカーらとジーンズを履いたビジネスマンらしき人々が入り混じる参加者が100人ほどロビーに集まるころには、ホワイトボードいっぱいにセッションが書き込まれていた。その内容は、Linux Audio、Easy LDAP Mgmt(簡単なLDAP管理)、Bug Triage in KDE、OpenID、Bootable USB Keys、Bzr/Loggerhead、Handheld Use Cases(携帯機器ユースケース)、encryptfs、Visualizing Digital Media Collections(デジタルメディアコレクションの可視化)、OSS Writing(OSSの文書作成)などさまざまである。FOSSCampのようなアンカンファレンスでは、議長が進行するカンファレンスでは取り上げられないような、意外なオープンソースの話題が聞けたりする。またすべてのカンファレンスルームでセッションが開かれているとは限らない。最新の話題を取り上げるセッションと同じ時間には、他のセッションはあまり行われていないかもしれない。講演者自身も参加者であり、最新の話題を聞き逃したくないと思っているからだ。
「準備せずに来て、その場で自分の講演の話題を作り上げてもよい。来る前から何らかのアイデアを持っていた人もいれば、ここで出会った人々や彼らが紹介したプロジェクトからアイデアを得る人もいる」と、はるばるベルリンから同イベントにやって来たMirco Müller氏は言う。Müller氏は、OpenGL、Cairo、gstreamer、そしてリアルタイム・コンピュータ・グラフィックスに従事している。同氏はCairoにおけるBlurring(ぼかし効果)について発表し、自身が構築中のCairo向けの新しいGLアクセラレーティッドのバックエンドを紹介した。Blurringは、アプリケーションにおいて光る文字を描画する場合などに有効な処理である。AppleのPhoto Boothにはこの機能があるが、Linuxではこの処理は容易ではない。Müller氏はセッションの中で、リアルタイムHDビデオ再生が可能な、同氏のOpenGL版gstreamerであるgl-gst-playerのインストール方法を示した。
「参加することが、オープンソースを所有することである」と、Open Source Initiative(OSI)委員会のメンバーであるDanese Cooper氏は言う。「継続中の議論に参加しないならば、関与していることにはならない。最も興味深いのは、最新の話題である。いかにしてPythonよりもよいコードを書くかについてではなく、FOSSの観点からの、ドキュメント化への取り組み方法や一般的な技術的文書作成方法に関する話題だ。私は、金銭的な成功を収めた事例から見た、オープンソースビジネスモデルの探求に関するセッションも気に入った」と同氏は述べた。
ノースカロライナ州の小さな大学でLinuxのシステム管理者として勤務するAdam Sommer氏は、「FOSSCampに参加したのは、UDSに参加するついでだった」と認めつつ、「FOSSCampの素晴らしい点は、そのリラックスした雰囲気である。あまり厳格に定められていないセッションが、新しいことを習得する場として最適だ。非常に聡明な人々と議論できるというのも素晴らしい機会である。私が最もよかったと感じたのは、OSSリーダーシップと技術的文書作成に関するセッションだ」と述べた。
「文書作成セッションでは、プロまたはセミプロとして技術的記事を執筆している人々から得られるものがあり、非常によかった。リーダーシップセッションでは、初めてUbuntuリーダー以外の、OSSプロジェクトリーダーの経験談を聞くことができたので感銘を受けた」と、Sommer氏は述べた。
フランスのグルノーブルから来たAdrien Bustany氏は、「FOSSCampは、他のPackageKit開発者らと知り合い、問題の解決方法を語り合うよい機会である。FOSSCampに参加できたのは(Ubuntuスポンサーの)Canonicalが旅費を出してくれたからだ。私はPackageKitのQtバインディングを担当している」と述べた。
FOSSCamp参加者の多くが、23か国に200名の従業員を持つCanonicalの社員である。Lars Wirzenius氏は、「Canonicalに勤務しているので、来ることができた。多種多様なフリーソフトウェアプロジェクトを知ることができて楽しかった。他の人々がどのようなことをしているのかを知るのはいつもよい経験だ。特にCinePaintが気に入った。写真をいじるときに使えそうだと思った」と述べた。Paint-Photo Editing(ペイントフォト編集)に関する私のセッションの間、Wirzenius氏は、UbuntuおよびDebian向けにCinePaintをパッケージングする作業を自ら名乗り出て手伝ってくれた。ディストリビューションとFOSSプロジェクトの間の親身な協力こそ、FOSSCampの真髄である。
Ubuntuイタリア語翻訳チーム管理者のMilo Casagrande氏は、「最も興味深い部分は、さまざまな経験を持ち、さまざまなプロジェクトに従事する人々が集まり、自身の経験を共有するという点だ」と述べる。同氏は、GNOMEのイタリア語翻訳に従事している。「FOSSCampに参加したのは今回が初めてなのだが、FOSSCampには具体的な進行プログラムは存在しない。これこそフリーソフトウェアの真の精神だ。つまり、自由で、それを作成するのは自分自身なのだ」と同氏は言う。
Xubuntuのマーケティングを率いるPasi Lallinaho氏は、「開発者だけでなく、アーティストやマーケティング担当者もカンファレンスやアンカンファレンスに参加することが重要だと思う」と述べる。ヘルシンキを拠点とするLallinaho氏は、Ubuntuのウェブサイト、アートワーク、グローバルテレビ広告に従事している。「FOSSCampは、他の人々に会い、開発者からの実際のフィードバックを得るためのよい場所である。オンラインやIRCやフォーラムに寄せられるフィードバックは、非常にあいまいな場合があるからだ」と同氏は言う。
KDE BugSquadの共同創設者であるAlex Spehr氏は、「モバイルに特化した技術的な問題について多く学んだ。人々が携帯機器をどのように使用しているのかという点に着目していたのだが、その議論はあちらこちらで不意に挙がっていた。OpenSocialのセッションも非常に興味深かった。モバイルコンピュータとソーシャルネットワーキングの組み合わせは非常に強力だ」と述べた。
FOSSCampの目的は、Ubuntu開発者とUbuntuの用語で「upstream」と呼ばれるFOSSプロジェクト開発者との間に、関係を築き上げることである。Ubuntuコミュニティマネージャーを務めるJono Bacon氏は、「upstream関係の構築に多大な関心を寄せている。コミュニティは基本的にソフトサイエンスだ。しかしそれを計測することはできないと考える人があまりにも多い。計測することは可能だ。われわれは相互作用を計測する方法を見出そうとしている。それによって問題に対する解決策を構築することができる。われわれはそれをバグに対して行ってきた。今度はパッチに対し、それを適用しようとしている」と述べた。
Bacon氏は、「Making UI Experiments Possible(UI実験を可能にする)」というセッションを行った。Bacon氏は不可能なことを要求しているように思われた。実験段階のユーザ作成ガジェットを、いかにして安全にユーザデスクトップコンポーネントとして動作させるか、というのだ。「ユーザフィードバックはどのようにして得るのか?」とBacon氏は尋ねた。「デスクトップ向けプラグインはどうするのか? いかにしてテンポラリのガジェットをFirefoxプラグインのようにインストールするのか?」というのである。
ソフトウェアを配布しインストールするだけでは十分ではない。Bacon氏は、利用率を測定し、ユーザとupstream間のチャネルを開きたいと考える。「私の役割は、コミュニティが良いこと、生産的なことができるような環境を整えることだ」とBacon氏は述べた。コミュニティの団結力が強まれば、さらに多くのフリーソフトウェアが生まれると同氏は信じている。「Flickrが存在する今、写真を撮る人はどれほど増えただろうか?」と同氏は述べた。
私は今まで、Open Source Days、FOSDEM、GUADECなど、多くのオープンソースカンファレンスで講演してきた。しかしその場でセッションを作り上げて、手探りでセッションの話題を構成していく経験は初めてで、解き放たれたような感覚だった。聴衆とやり取りする形式は楽しく、プレゼンテーションというよりはディスカッションのようであった。FOSSCampでの2日間で私は、Paint-Photo Editing、OSS Biz Models (OSSビジネスモデル)、OSS Leadership(OSSリーダーシップ)、UI Year 2020(2020年のUI)と、通常のカンファレンスで行う2倍の数のFOSSCampセッションをこなした。
6か月ほどで次のUbuntu FOSSCampの日時と開催場所がJono Bacon氏のUbuntuブログで発表される。どうぞお見逃しなく!
Robin Roweはフィルム業界に従事し、CinePaintプロジェクトを統率している。