PC-BSD 7――素材の良さを台無しにしている未熟な完成度

 FreeBSDは、Unixライクなオープンソースオペレーティングシステムの1つであり、その祖先はオリジナルのUnixにまで遡ることができる。サーバ市場ではその存在はかねてより知れ渡っており、既に相応の評価を確立しているものの、一般ユーザが気軽に扱えるデスクトップバージョンが登場したのは比較的最近の話でしかない。そうした活動を促進しているのは、2005年に発足したPC-BSDプロジェクトである。そして今月にはPC-BSDのバージョン7がリリースされたため、Ubuntu並のユーザフレンドリなディストリビューションに仕上がっているかを確認するべく、早速ダウンロードおよびインストールをしてみた。そして味わったのが、ちょっとした失望である。

 FreeBSDの有す安定性と安全性を受け継いだPC-BSDの謳い文句は、「“カジュアル”なコンピュータユーザを想定して設計された、完成形態のデスクトップオペレーティングシステム」とされていたため、実際に使用する前から私の期待は大いに高まっていた。今回私はCD用ISOをダウンロードし(3枚分に分かれているが、1つにまとめたDVDバージョンも入手可)、これをテスト用のマシンにて起動させてみた。インストールの手順は簡単であるが、その詳細を解説した「PC-BSD Guide」も用意されている。

 PC-BSDのインストーラは、ユーザ情報の入力、パスワードの指定、ディスクのパーティショニング、パッケージの選択といった、基本的なタスクを一通りこなせるようになっている。ただしPC-BSDにおけるデフォルトのシェルはcshであり、Linuxで一般的なbashではない。またFirefoxやOpenOffice.orgもデフォルトではインストールされないので、システムコンポーネントの操作画面で別途追加する必要がある。ただしインストーラ自身は柔軟な操作が可能で、例えば、GUIを無効化したサーババージョンでのインストールにも対応しており、また最初のユーザについてはオートログイン機能を設定して、スタートアップ時のアクセスを簡単化することもできる。

 PC-BSDのデスクトップ環境は、新型のKDE 4.1にPC-BSD専用にデザインされたテーマを追加したという構成だ。KDE 4.1にはいくつかのデスクトップウィジェットが付属しているが、PC-BSDの場合はFolder Viewというウィジェットをデフォルトで使用することで、デスクトップ上のファイル表示をさせている。ただしKDE側のバグなのか、あるいはグラフィックスカード(GeForce 6800LE)用ドライバの問題なのかは不明だが、このウィジェットで表示されるべきファイルは、マウスを重ねた場合にのみ表示され、その他の状況では消え去ってしまうのだ。最初私は、こうした挙動を示すのは仕様なのだと思っていたのだが、Folder Viewウィジェットの動作を示したYouTubeのデモンストレーション動画と比較したところ、どうやらこれは私のテスト環境で発生した不具合のようである。結局このウィジェットを無効化することで、手元のデスクトップは通常の表示がされるようになった。

 PC-BSDには、インターネットへの接続、オフィス系の作業、マルチメディアの再生に必要となるツール群がすべて同梱されている。例えばWebブラウジング用に関しては、Firefox 3、Opera 9.52、KDE Konquerorの中から好きなものを使用すればいい。その他にもKDE系のインターネットツールとして、インスタントメッセージ用のKopete、電子メール用のKMail、メール/RSSニュース用のKNodeといったクライアントソフトが利用可能だ。オフィス系の作業についても、OpenOffice.org 2.4.1だけでなくKDEアプリケーションが利用でき、例えば個人情報マネージャ(PIM)が必要であればKontactを使用できる。マルチメディア系ファイルの再生についてはKMplayerが用意されているが、PC-BSDにはフリーにダウンロード可能なWindowsコーデックのコレクションが初めから同梱されているため、私が試した限りMP3およびDivX(MP4)ファイルはトラブルフリーで再生できている。CD/DVDの焼き込みに関してはK3bを使用すればいい。

 当然ながら、自分が必要とするソフトウェアがインストーラCDに用意されていない可能性もあるが、PC-BSD用に各種のオープンソースおよび商用ソフトウェアをダウンロードできるソフトウェアリポジトリも整備されている。またPC-BSDでは、ソフトウェアのインストールを簡単化するためのPush-Button Installerテクノロジが採用されており、これはインストールしたプログラムの動作に必要となるファイルおよびライブラリ類をソフトウェアパッケージに付属させることで、依存性上の不備やシステムとの互換性などの問題を事前に解消しておくというものである。

 インストール用イメージにはMozilla Thunderbirdが用意されていなかったので、今回はソフトウェアリポジトリの試験もかねて、これをダウンロードしてみた。ダウンロード後の.PBIファイルをダブルクリックすると簡単なインストーラが表示され、1分と待たされることなくThunderbirdのインストールは完了してしまった。その他にもこのソフトウェアリポジトリには、ゲームを始め、チャット/IM用アプリケーション(Skypeなど)、開発用ツール(Javaなど)、P2Pプログラム(BitTorrentクライアントなど)、グラフィックス系プログラム(GIMP 2.4.6など)といった、各種のソフトウェアパッケージが取り揃えられている。

Linuxとは似て非なる構造

 PC-BSDの外観に関しては、専用のデスクトップテーマを除き、KDE 4.1を用いた通常のLinuxディストリビューションと特に変わる点はない。ところがPC-BSDの場合、こうしたごく普通のユーザインタフェースの内側には、通常のLinuxユーザにとって素性の異なる機構が潜んでいるのだ。まず、LinuxによるUnixとの互換性の確保や機能のエミュレーションはゼロから作り直されているのに対し、PC-BSDの母体となったFreeBSDはUnixの直系の子孫なのである。ライセンスについてもPC-BSDはBSDライセンスの適用下で公開されており、これはGPLとは違い、個々の開発者が独自に加えた変更をBSDコミュニティに報告するといった義務は課せられないようになっている。こうしたライセンス形態については長所と短所が存在し、例えば現状のFreeBSDはSunのZFSファイルシステムを実験的にサポートしているが、このファイルシステムはGPLと相容れないライセンスが適用されているため、Linuxがこれを取り込むとしても、メインストリームのカーネルに反映されるのはかなり先の話になると予想されているのだ。

 FreeBSDとLinuxとではその他にも様々な相違点が存在し、それは例えばデバイスの命名規則といったテクニカル的なものから(Linuxでは、どのチップセットにも共通して1番目のEthernetネットワークカードがeth0とされるのに対して、FreeBSDでは、RealTekネットワークインタフェースならrl0というように、個々のデバイスはドライバを基にした命名がされる)、コードの開発やソースツリーの取り扱いに関する理念的な点にまで至っている。特にソースコードの取り扱いに関しては、PC-BSDで使用されているのが標準化されたFreeBSDソースであるのとは対照的に、Linuxの場合はオフィシャルなソースツリーというものが一応は存在しているものの、大部分のLinuxディストリビューションは一部を独自に改変したソースツリーを使用しているのだ。

 今回私が試したPC-BSDの使用体験は、手放しで喜べるものではなかった。私は通常、新規にリリースされたOSを試用する際には、仮想マシン上で動作させることから始めるようにしている。ところがPC-BSDの場合、試してみた3種類の仮想マシンソリューション(VMware、VirtualBox、Parallels)すべてにおいて、最初のインストールさえ満足にできなかったのだ。そのうち1つではインストーラが起動せず、もう1つでは作業半ばでインストーラがクラッシュし、最後の1つではインストール終了まではこぎつけたものの、PC-BSD本体が起動できないまま終わってしまった。この場合の原因は仮想マシン側にあると思われたので、次にPC-BSDの動作に必要な最低要件を満たすPentium IIマシンへの直接的なインストールを行ったのだが、この試みにおいてもインストーラが起動しなかったのである。最終的に、768MBのメモリを搭載したPentium 4マシンを試したところ、ようやくPC-BSDをインストールすることができた。しかしながらトラブルはこれで終わりではなかった。まずはマルチメディア系の再生試験をするべく、フラッシュディスクをUSBポートに挿入したものの、PC-BSDはそれを認識できなかったのである。この問題については別のUSBメモリも試してみたところ、今度はシステムそのものがフリーズしてしまった。

まとめ

 PC-BSDに対する私の期待は高かったが、それは安定性と安全性に関して定評のあるFreeBSDを受け継いでいると喧伝されていたためだけでなく、私の場合はFreeBSDベースのFreeNASの使用経験があり、FreeBSDの有すポテンシャルをある程度知っていたからだ。FreeBSDのデスクトップ用バージョンを構築し、簡単にインストール可能なソフトウェアパッケージを付けて公開するというアイデアそのものに、非の打ち所はないだろう。ところが実際にリリースされたPC-BSDが、私に感銘を与えることはなかった。確かに、Push-Button Installerは宣伝文句通りに機能しており、標準インストールをするだけでMP3およびDivXファイルをそのまま再生できる点は、多くのLinuxディストリビューションに欠落している長所と見なせるだろう。しかしながら本文中で取り上げたような、インストールに関する問題を始め、同梱されたKDEウィジェットの不具合やシステムレベルでのフリーズなどを考え合わせると、PC-BSDにはまだまだ改善の余地が残されていると感じざるを得ないのだ。

Gary Simsは、イギリスの大学にてビジネス情報システムに関する学位を取得した後、ソフトウェアエンジニアとして10年間活動し、現在はフリーランスのLinuxコンサルタント兼ライターとして活躍している。

Linux.com 原文(2008年10月7日)