NimbleX 2008 - 高速なれど不備あり

 SlackwareベースのLinuxディストリビューションであるNimbleXは、「Linuxの新しい波」と自らを吹聴しているが、NimbleXの魅力の中心はその高速性とコンパクトさにある。また、その結果として、付属のソフトウェアが精選されていることも見逃せない。経験豊かな生粋のGNU/Linuxユーザーが心を動かされるのはこうした点なのだろう。一方、制約もある。インストーラ、パッケージ管理、セキュリティなどの面にはほとんど注意が向けられていない。この点はあまりにも今風であり、営利に走ってWindowsっぽくなろうとするどこかのディストロを彷彿とさせる。とはいえ、NimbleXは立派なコミュニティ・ディストリビューション(community distribution)であり、その大部分はルーマニア生まれの開発者Bogdan Radulescuの無償の労働に支えられている。

 最新版のNimbleX 2008は3枚のCDイメージとして提供される。最初の1枚は200MB。NimbleXサイトのガイドに普通に従うなら、このイメージをダウンロードすることになる(本稿のレビューでは、これを使用した)。他の2枚は、それぞれ100MBと69MB。同サイトには、最小構成のイメージは(HDDブート時)「多分、KDEを環境に持つ最速のディストロ」との売り文句が掲げられているが、NimbleXのベースがSlackwareであることと、速度とサイズの両面から最適化されていることを考えるなら、あながち的外れな主張でもないだろう。

 Custom NimbleXを使えば、インターネット経由でライブCDも生成できる。この機能については、Linux.comの以前のレビューをご覧いただきたい。必要なパッケージを選択すると、カスタム.ISOイメージがわずかな時間で作成され、イメージをダウンロードできる。インストーラによる通常の操作ではパッケージは選択できないが、Custom NimbleXにはパッケージを選択する追加的なステップがあるので、いろいろなパターンのインストールを検討するときに便利である。

インストール

 いずれのイメージを使用しても、ライブCDのデスクトップからハードディスクまたはUSBデバイスにNimbleXをインストールできる。一番大きい構成のイメージでは、ブート後にKDE Display Managerのログインマネージャを起動するかKDEに直接入るかを選択できる。この違いは次のとおり。すなわち、ブート後にKDEに直接入る場合は、使用するグラフィカルインタフェースを選択するオプションがある。さらに、ダウンロードページからデフォルトのrootパスワードを手に入れる必要がある。ライブCDを使わずに、インストーラを直接実行すれば時間を節約できるが、ライブCDはこの手のソフトとしては最速の部類に入る。

 インストーラを開始すると処理が進行中("a work in progress")との警告が出るけれども、何が行われているかはすぐわかるだろう。紛らわしいが、このインストーラには、インストール先として、既にGNU/LinuxまたはWindowsの入っているハードディスクかUSBデバイスを選択するオプションがある。この最初のオプションを使用するには、NimbleXの入るパーティションを事前に切っておく必要がある。少なくとも、ここ8年はインストーラでこんな面倒な目にあったことはない。その上ちょっと見では、ブランクHDDにインストールするオプションとHDDへの上書きインストールのオプションが存在しないように思える。しかし、よくよく調べると、これに該当するオプションがUSBデバイスのオプションだったりする。

 さらに紛らわしいのは、GRUBオプションが不完全なのでブートマネージャとしてSYSLINUXを選択しなければならないことだ。インストール手続きの最後に、システム日付をハードディスクに保存するかどうかも問われる。これでNimbleXをほぼ破れなくなる("this will make NimbleX almost unbreakable")というわけだ。おそらく、このオプションを選択したとき作られるnimble.dataファイルはリカバリ用だろうが、サイズが100MB~1,200MBと大きく変化するので、ここで何か一言あってもよいのではないだろうか。

 NimbleXの全般に当てはまることでもあるが、このインストーラが中心に据えているのは、速度を最適化することだ。しかし、高速化のためにオプションの数がとことん減らされ、インストールするソフトウェアを選ぶことすらできない。それでも、どんなオプションがあるか説明があって然るべきだ。幸い、インストール作業の全行程を終えるのに10分もかからないので、問題にぶつかってインストールをやり直すことになっても、もう我慢ならんということにはならない。

デスクトップのソフトウェア構成

 ブート後に現れるNimbleXの銀白色の壁紙は、まるで映画『X-メン』のポスターみたいだ。場数を踏んでいれば、ベースがKDE 3.5.9であることはすぐわかるだろう。もっとも、この最新版が出て2、3週間後にはKDE 4.1が登場したわけだが。

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NimbleX

 今まで試したSlackwareベースのディストリビューションはどれもそうだったが、NimbleXもデスクトップの応答性が非常に高い。ライブCDやUSBドライブを意識した最適化が効いているのだろう。この点は、使い勝手の悪い窮屈なインストーラの存在を帳消しにしてくれる。

 もうひとつ注目すべき点は、付属するソフトウェアの構成が独特なことだ。200MBのCDイメージにはKDEのほか、若干のウィンドウマネージャが含まれている。IceWMやOpenBoxなど、ほとんど軽いものばかりだが、やや大きいEnlightenmentもある。GNOMEとXfceが省かれていることにも注意。言うまでもなく、これらはNimbleXをその名前(nimble=敏捷)のとおり軽量化するために犠牲にされたのである。

 デスクトップソフトウェアの数もそう多くなく、個人的な趣味がかなり反映されているところもある。OpenOffice.orgは用意されていない。それに代わるオフィススイートはKOfficeだ。同様に、めぼしいグラフィックプログラムはGIMPのみで、Karbon、Krita、Inkscape、Scribusは用意されていない。印象を述べるなら、NimbleXチームはオフィスの生産性やグラフィック作業に重きを置いていないのだろう。だが、この分野でNimbleXが提供している機能は、多くのユーザーの要求を十分に満たすものである。

 メニューを眺めると、やはり風変わりなオプションが目に付く。Rox-Filerファイルマネージャ、Kooldockフローティングパネル、Yakuake Quake風端末エミュレータなどだ。Dillo Webブラウザのように異端とまでは言えないものもある。こうしたソフトウェアの選択の背後に何か基準があるとするなら、それは軽量化を志向しつつ、限られた範囲から代替ソフトウェアをできるだけ提供するということなのだろう。ひょっとすると、デフォルトのパネルにあるアイコンたちは、「さあ、コンソールがありますよ。WebブラウザはKonquerorとFirefoxです。オーディオプレイヤーはXMMS、メディアプレイヤーはMPlayerです」などと喋っているのかもしれない。

 標準的な多くのプログラムが省かれていることに初心者は苛立つかもしれないが、上級者は主だったディストリビューションが巨大化する中で、よくもコンパクトにまとめ上げたものだとNimbleXのソフトウェア構成を歓迎することだろう。こうしたNimbleXを軽量化するためのソフトウェアの選択は、普段なら見落とされてしまうような代替のソフトウェアがFOSS(free and open source software)に数多く存在することを改めて思い出させてくれる。

ソフトウェアのインストールとセキュリティ

 NimbleXに興味はあっても、Slackwareはソフトウェアのインストールが難しいとのうわさで尻込みしている人は、パッケージ管理機構としてコマンドラインでslaptが、デスクトップでGslaptが採用されていることを知れば、多少安心するだろう。その名前が示すとおり、これらのソフトウェアはDebianのapt-getに相当する機能(依存関係の自動解決など)をSlackwareベースのディストリビューションで実現するものだ。この手のアプリケーションでよくあるように、基本的なコマンドを理解すればコマンドライン版の方が簡単に使える。デスクトップ版では、手際よく使うためにウィンドウの大きさを絶えず調節し、タブを頻繁に切り替えなければならないからだ。

 ただ問題なのは、依存関係を解決するソフトウェアがその能力を発揮するためには、それをサポートするパッケージとリポジトリの出来がよくなければならないのだが、NimbleXの場合はそのどちらも弱い。まず、選択できるパッケージの数が500パッケージ未満に制限されている。これにはKDEだけでなく、デスクトップ以外のパッケージも含まれる。また、BluefishやKrusaderなど、いくつかのケースで必要なライブラリが手に入らないためにパッケージがアンインストールできなかったり、利用できなかったりする。NimbleXチームはパッケージ管理にもっと注意を向けるべきだ。

 セキュリティについても同じことが言える。NimbleXにはClamAVとGuarddogファイアウォールが用意されているのに、基本的に注意すべき点がまるで守られていない。ユーザーアカウントがインストール時に作られないばかりか、デフォルトのrootパスワード(ディストリビューションのダウンロードページに掲載されている)を入力しなくてもインストール後のデスクトップにログインできてしまう。場数を踏んだユーザーなら、こうした構成は即刻直す必要があることはわかっているはずで、いかなるディストリビューションでも、これほどずさんなセキュリティの設定を放置するのは無責任だと思う。

功罪相半ば

 NimbleXを使ってみて印象に残ったのは次の2点。第一に、テラバイト級のハードディスクが当たり前となりつつある昨今、速度とコンパクトさを追求するのは時代遅れで無意味に思えるかもしれないが、NimbleXの明確な方向性は評価できる。多くのディストリビューションがこの面にほとんど注意を払っていない中で、ここに重きを置くのは新鮮であり、それが性能に反映されるならなおさらだ。コンピュータのユーザーがマシンの性能を最後の一滴まで絞り出す時代はとうの昔に終わったのだろうが、NimbleXの効率の高さは、まだ多くの人々に評価される可能性がある。

 第二に、インストーラ、パッケージ、そしてセキュリティに含まれるさまざまな不備を見ると、NimbleXは中心となる目標に力を入れるあまり、ディストリビューションとしての基本部分を疎かにした感はぬぐえない。

 ともあれ新バージョンが出たのだから、NimbleXの開発者には、上で述べた問題の解決に専念してもらいたい。それが可能ならNimbleXは推薦する価値のあるディストリビューションとなる余地をまだ残している。しかし、それまでは、どんな推薦も相当割り引いて受け取る必要がある。

Bruce Byfieldは、コンピュータ専門誌記者としてLinux.comに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文