称賛に値する完成度のopenSUSE 11.0

  openSUSE 11.0 は、2008年中のリリースが待ち望まれていたLinuxディストリビューションの1つである。昨日(6/19)公開された同リリースには若干のバグが残されていたものの、総合的な完成度としては待たされただけの価値はあったと評していいはずだ。特にopenSUSE用にセットアップされたKDE 4の存在はそれ単独でダウンロードする価値を生じさせているくらいであり、またソフトウェアマネージャに施された改善は同ディストリビューションのカスタマイズ作業を非常に軽快なものとしている。

 今回私が使用したのは4.3GBのDVD版だが、ライブCD版からの利用も可能である。どちらを利用するにせよ一番最初に目に付くのは、新規に用意されたインストーラであろう。インタラクティブ形式の操作画面は、大きめのウィンドウの右側に進捗リストが一覧されるという旧バージョンと大差ないレイアウトになっているが、カラースキームとグラフィックスはよりスタイリッシュなものへと刷新されている。しかもこうした変更は表面的なものだけに止まってはおらず、今回のリリースでは内部的にも多数の変更が施されているのである。

 今回openSUSEの開発陣が施した改善点については、ユーザが行うべき作業に要す時間と手間の削減に関係したものが多数を占めている。例えば今回のリリースでは、GNOMEデスクトップなど各種の一般的なパッケージ群が1つのインストールイメージにまとめられており、そうした中から特定セットのパッケージをインストールする“Installation from Images”というオプションが用意されているのである。つまり従来存在した、システムインストール時において必要とするパッケージをユーザが整理して依存性関連の問題を解決するという手間は、このオプションの登場により大幅に削減できるようになったのだ。この機能はユーザが不要と判断すれば無効化することも可能だが、インストール時間を節約したければ素直に利用しておくべきだろう。

 ここでのインストールプロセスでは最初に“Use Automatic Configuration”を使用するかどうかを選択するようになっている。通常のディストリビューションの場合、この種のオプションの無効化はハードウェアの自動検出機能をオフにすることを意味するものであり、その後ユーザは手間のかかる手動設定に挑まなければならないはずだ。私の場合はそうした労苦は願い下げにしたいため素直にこの機能を有効化したが、結局のところこのオプションはハードウェアの確認画面をバイパスさせるだけであって、そうした確認画面でユーザが通常行うのは、自動検出の結果を受け入れるかあるいは各自のハードウェアに対するカスタム設定を施すかの選択をするだけのもののはずである。通常は自動検出の結果をそのまま受け入れるというユーザは、本機能による作業時間の節約という恩恵にあずかるべきだろう。

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openSUSE 11.0のデスクトップ

 Automatic Configurationオプションを使用したとしてもインストレーションサマリーの画面までバイパスされる訳ではなく、パーティショニングを含めた各種のオプションは依然としてユーザによる変更が行えるようになっている。例えばパーティション設定の場合、openSUSEからはユーザに対して最適と思われるパーティショニングレイアウトが提示されるが、そうした設定についても各自のニーズに応じた変更を施すことができ、ユーザは必要に応じて新規のパーティションを作成することも既存のパーティションを選択することも可能なのだ。その他にはLVMやRAIDといった上級オプションを使用することもできる。

 DVD版からのインストール時には、使用可能なデスクトップ環境として、GNOME、KDE 4、KDE 3、Xfceなどの選択肢がアルファベット順に提示されるようになっている。その他のインストール可能なデスクトップ環境としては、Enlightenment、IceWM、FVWM、Window Makerも含まれているが、こうしたマイナーなデスクトップ環境についてはopenSUSEのルック&フィールへの対応は施されていない。これらはアップストリームの開発チームからリリースされたものがそのまま同梱されているだけのようだ。

 デスクトップ環境についてのデフォルトオプションは指定されておらず、ユーザ各自が選択しなくてはならない。またその他のデスクトップ環境やソフトウェアを追加しておきたければ、インストレーションサマリーの画面にてSoftwareという見出しをクリックし、必要なものを指定すればいい。

 パッケージ選択の画面について旧バージョンから大きく変更されているのは、機能的な改善ではなく外見的なブラッシュアップである。そのためパッケージの検索と選択については従来どおり、グループ、パッケージパターン、個別指定による操作ができるようになっている。

 インストールステップを簡素化する一環としてその他にopenSUSE開発陣が採用したのが、最初のユーザとrootユーザは同じパスワードを共有させるという仕様である。この仕様の背景には、実際の使われ方として最初のユーザとrootユーザとで同じパスワードが使われているケースが多いという認識があるそうだが、そうした方式にセキュリティ的な不安を感じるであろうユーザにも配慮して、rootパスワードの変更は後から簡単に実行できるようにされている。

 openSUSEは以前より、Linux的な基準において非常に完成度の高いインストーラを装備していたのだが、今回のバージョン11.0ではより一層の洗練化がこのインストーラに施されている。そうした改善点のいくつかは既に触れたが、それ以外にも細かな修正が全体的に施された結果として、従来バージョンに対して更なる操作性の向上とスリム化とが達成されているのである。

 openSUSEにはデスクトップ環境に関する非常に多数のオプションが用意されており、その多彩さはあたかも複数のディストリビューションが収録されているかのような錯覚に陥るくらいだ。次にこうしたデスクトップ環境のうち、主立ったものを個別的に見ていくことにしよう。

KDEおよびXfce

 KDE 3.5.9およびXfce 4.4.2は古くから存在する信頼性の高い安定したデスクトップ環境であり、いずれもトラブルフリーで期待通りの動作をしてくれる。その他に同梱されているメジャーなデスクトップと同様、これら2つに対してもopenSUSEのルック&フィールに合わせるためのカスタマイズが施されており、またGRUBやログイン時の操作画面およびアプリケーション起動時のスプラッシュ画面なども含めたシステム全体をグレイとグリーンを基調としたテーマでまとめ上げた甲斐もあって、現行のopenSUSEはプロフェッショナルレベルの統一感を与える作りとなっている。

 KDE 4とKDE 3との間には一見して区別できるほどの差異は存在しないが、これは1つの美点と捉えるべきだろう。それというのも、バグだらけでスムースに動作しないVistaのクローンを目指すよりも、ユーザ側としては安心して使えるデスクトップ環境の方を歓迎するであろうからだ。openSUSEにおけるKDE 4は簡素かつ適度にまとまったデスクトップという位置付けであり、いくつかのアイコンおよびKickoffメニューと1枚のパネルが画面下部に配置されている他は、画面右上にウィジェットクリエータが置かれているだけである。

 こうした操作性に優れたデスクトップ環境に合わせる形で、openSUSEのKDE 4.04に対するKDEアプリケーション群のポート(移植)やバックポート(旧バージョン側への移植)も盛んに行われている。例えば私の場合、KDE 3のmaildir形式のファイル群およびmbox形式のメールファイルがKMail 1.9.51にインポートできることを確認しており、同様にAkregator 1.2.50に対するニュースフィードのインポートも可能であった。いずれのアプリケーションも正常に動作しているが、先のフィードは登録項目数が700を越えていたため、さすがにこれだけの量を読み込む間のAkregatorの動作は若干ぎこちないものとなっていた。Konquerorのブックマークファイルの移動については.kde4ディレクトリにドロップするだけで作業が済んでいる。このようにKDE 4では必要充分な機能向上が果たされているのだが、その一方で、依然としてKonquerorではFlashを使用できないままであり、これはおそらくopenSUSE固有の不具合ではなくすべてのKDEに共通する問題であろう。

 KDE 4環境にてリムーバブルメディアを挿入すると、パネルにある時計の横に配置されたNew Device Notifierにて、デバイスのリストが一覧されるようになっている。具体的な選択肢はメディアごとに異なるが、ここではメディア上のデータに対してどのようなアクションで応じるかをユーザが指定でき、あるいはデフォルトの動作を選択しておくことも可能だ。例えばCDの挿入時には“Open in Dolphin”しか提示されないが、USBメモリスティックの挿入時にはアクション選択用の画面が表示されるはずである。なお各デバイスの横側には、アンマウントないしイジェクト用アイコンも表示されるようになっている。

 openSUSEにおけるKDE 4の実装状況に対する総合評価であるが、私個人としては、その非常に高い操作性と安定性に感服させられてしまった。今回私が経験したクラッシュはPersonal Settingsモジュールを操作する間に頻発したものだけであり(従来のKDE Control CenterはSystemsettingsに置き換えられている)、これは各種の設定項目を変更した後で元に戻すなどの動作確認を行っていた状況下での出来事である。なおその際の余禄として、Xサーバを強制停止(kill)させるにはCtrl-Alt-Backspaceの押し下げが2回必要であることを発見している。いずれにせよ私がopenSUSEを使用してきた中でこの種の操作が必要となったのは、今回が初体験であった。

GNOME 2.22

 GNOMEデスクトップに関しては何件かのトラブルに遭遇している。このデスクトップは起動後しばらく正常に機能していたのだが、アップデートアプレットを試した際に最初の問題が発生し、リポジトリを追加した段階でOnline Updateユーティリティがクラッシュして、GNOMEの大半が反応しなくなったのだ。結局私はGNOMEデスクトップの使用を中止することにしたのだが、するとログイン画面のフォント表示が乱れ始め、正常な表示がされなくなってしまったのである。GNOMEに再度ログインし直しても、こうしたフォントの表示異常は解消されなかった。仕方ないので再びログアウトをしようとしたところ、今度はLogoutツールそのものが機能しなくなっていた。

 最終的にシステム全体をリブートすることでGNOMEはほぼ正常な状態に復帰したが、アップデートアプレットはパネルに表示されないままになってしまった。またその後もGNOMEのYaST Control Centerを介したOnline Updateの設定作業はクラッシュし続け、結局のところOnline Updateツールは使い物にならなかったのである。これとは対照的に、その後もKDEデスクトップでのアップデートアプレット表示は問題なく処理されており、KDEを使う限り設定の変更およびアップデートのチェックは正常に行えていた。

ハードウェア的な対応状況

 私の過去のLinux体験に従うと、各種のデスクトップ環境上で使用するソフトウェアにトラブルは付きものだが、ハードウェアのサポートについては大方トラブルフリーというのが一般的な傾向であり、今回のopenSUSEもこのパターンを踏襲していた。それというのも私の場合、基本的に特殊な機器や最先端のデバイスを装着することはないので、どのディストリビューションでもハードウェア関連はまずまず良好なサポート状況になるのである。今回使用したHewlett-Packardラップトップマシンも本来はWindowsでの使用を想定した構成になっているのだが、openSUSE 11.0でもそのハードウェアはほぼ完全にサポートすることができていた。唯一の例外はWindowsドライバを必要とする無線Ethernetチップであったが、これもNdiswrapperを介したドライバの抽出と読み込みを行うことで使用可能となっている。また私のマシンではRAMへのサスペンド機能(Suspend to RAM)が機能しなかったものの、ラップトップの動作に必須なその他の諸機能はデフォルト設定のまま使用することができた。

 インターネット接続については、ブート時の自動接続が設定してあるにもかかわらず、時折つながらなくなる場合が発生した。以前から問題のあったKNetwork Managerは、今回のリリースにおいても正常に動作しないままである。ネットワークアプレットはGNOMEにて正常に機能しているようなのだが、先に触れた問題もあるため、私はKDE用のものを使用することにした。

同梱されるソフトウェア群

 私はよくopenSUSEのことを、あらゆるソフトウェアを搭載した“キッチンシンク”ディストリビューションという表現で語ることがある。つまりこのディストリビューションの場合、収録されているものを一覧するより、収録されて“いない”ものをリストアップする方が簡単なくらいなのだ。

 今回私が利用したソフトウェア構成では、いくつかの追加用デスクトップ環境およびカーネル開発用パッケージを除き、デフォルトで選択されるパッケージ群をそのままインストールしてある。その中に含まれているのは、Firefox 3.0b5、OpenOffice.org 2.4.0、GIMP 2.4.5、Inkscape、Pidgin、Liferea、Ekiga、GnuCash、Evolution、Tasque、KOfficeという品揃えになっている。

 その他にもopenSUSEには最新版のCompiz Fusionが同梱されている。AIGLXの使用はデスクトップでのGL処理を高速化してくれるので、対応したハードウェアを使っている場合はデフォルトで有効化しておくべきだろう。ただしNvidiaユーザの場合は、プロプライエタリ系グラフィックドライバをインストールしない限りその恩恵にあずかることはできない。またプロファイル選択などのオプション設定についてはグラフィカルツールによる指定が可能となっている。例えばプロファイルの場合、有効化するエフェクトを限定した軽量版設定やすべてのエフェクトを有効化したフル設定など複数のオプションを選択できるようになっているが、CompizConfig Settings Managerを使うことでより詳細なユーザ設定を施すこともできる。その他、Magnifier、Window Scaling、Show Mouseなど完成度の高いプラグインを使用することも可能である。

 openSUSE 11.0のメインコンポーネントは、Linux-2.6.25.5、X.Org X Server 1.4.0.90、Xorg-X11 7.3、GCC 4.3.1 20080507という構成である。

マルチメディアの対応状況

 デフォルトのopenSUSEにおけるマルチメディアのサポート状況は、それほど高いものではない。openSUSEのポリシーにはオープンソースの定義に合致しないコードを排除するという規定が定められているのだが、悪いことに大部分のマルチメディア系フォーマットはこの規定に抵触してしまうのである。とは言うもののopenSUSE 11.0にはリリースされて間もないBanshee 1.0を始め、Amarok 1.4.9.1、K3b、Brasero、Totem、Kaffeineが同梱されているので、オーディオCDやWeb上にあるFlashコンテンツの再生は問題なく行えるのだが、先の問題もあって残念ながら私が所有するその他のマルチメディア系ファイルは扱うことができなかった。

 一方でこうした問題については、コミュニティベースでのソリューション提供が既に開始されている。つまり一般的なオーディオ/ビデオ用フォーマットのサポートに関しては、YaSTの1クリックインストールウィザードにより必要なリポジトリが追加インストールできるようになっているのだ。私の場合も、こうしたコーデックやライブラリのインストールとアプリケーションのアップデートを行った結果、各種のビデオやオーディオ系ファイルを再生できるようになってくれた。ただしBansheeについてはボリューム調整を試みた際に何度かクラッシュが発生しているが、この不具合は再現性があるものの、常に発生するという訳でもないのだ。またAmarokに関しては何故かCD-ROMドライブが認識できず、オーディオCDについてはKsCDかBansheeを使わざるを得ない状況となっている。

ソフトウェアの管理

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YaST software management

 openSUSEにおけるソフトウェアの追加インストールについては、優秀なパッケージ管理システムにて処理できるようになっている。RPM Package Managementフォーマットを使用するためのZYppは、バージョン10.x時代に全面的な作り直しがされたものだが、今回のバージョン11.0でもその後の改善作業は継続され続けてきたようだ。エンドユーザの場合こうした改善の成果は、依存性問題の解決能力およびパフォーマンス的な向上という形で体感できるはずである。

 コマンドライン形式のパッケージマネージャであるZypperは、APT用のapt-getに相当するツールと思っておけばいいだろう。このツールで行えるのは、リポジトリのインストール、アンインストール、アップデートおよび、システムのアップグレードとパッケージのアップデートである。例えば「zypper install crack-attack」というコマンドを実行すれば、Crack Attackというゲームがインストールできる。同じく「zypper search tuxpaint」は、Tuxpaintというソフトウェアが各自の設定したopenSUSEリポジトリにて利用可能であるかをチェックするコマンドである。その他の指定可能なオプションとしては、remove、addrepo、update、dist-upgradeなどが存在している。

 この種の管理作業はグラフィカルツールにて行いたいというユーザもいるだろうが、今回のリリースではパッケージ管理用フロントエンドのYaSTについても一層の洗練化が施されている。このフロントエンドに関しては、KDEデスクトップ用のQtバージョンとGNOMEデスクトップ用のGTKバージョンとが用意されており、実際YaSTを利用すればわずか数回のマウスクリックで任意のパッケージをインストールできるように作られているため、どのような習熟度のユーザであってもソフトウェアのインストールに伴う負担を大幅に軽減できるはずだ。

 こうしたコマンドラインおよびグラフィカル形式のパッケージ管理ツールは、今回私が試用した限りにおいて、いずれも従来版よりも高速かつスムースに動作するよう思われた。私が感じた唯一の不満は、YaST GUIを起動するごとにリポジトリデータベースのリフレッシュ処理が自動で実行されるという、従来から存在した仕様についてである。幸いなことに今回のリリースではSkip Refreshボタンが追加されているのだが、前述したように処理速度そのものが向上しているため、私がマウスに手を伸ばしてこのボタンをクリックし終わる時点で、リフレッシュ処理は既に半分近く進行してしまっているのだ。

まとめ

 openSUSE 11.0は秀逸なリリースと評していいだろう。表面上は今回のリリースにて刷新されたグラフィックス類が目に付くところではあるが、その背景では大幅な機能的向上が果たされている。そうした1つであるパッケージ管理システムについても、費やされたであろう多大な開発努力に見合った成果がもたらされている。KDE 4の同梱に関しても、openSUSEの場合は他のメジャーなディストリビューションほどの冒険にはなっていないよう感じられるが、これは直感に則した保守的な方向でKDE 4をセットアップしたことが功を奏しているのだろう。私の場合、KDE 4との相性は今ひとつだったのだが、openSUSE版を試したおかげでその印象もかなり変わってきている。

 これはコンマゼロ段階のリリースにありがちなことだが、openSUSE 11.0についても各種のバグや改善すべき点がいくつか残されている。実際に私自身も何個かの不具合を確認しているが、その他に潜んだ問題点については、これから数週間がかりであぶり出されてくるようになるだろう。また私の遭遇した不具合の大部分は、致命的とは言い難い些末的なバグであった。

 いずれにせよopenSUSE 11.0は非常に完成度の高いリリースに仕上がっている。安定性の確保と先端性の追求は両立の難しい課題だが、その点でopenSUSEの開発陣は優れた仕事をしてくれたと見なしていいはずだ。ソフトウェアは可能な限り最新版を使いたい、あるいは実用的なセットアップの施されたKDE 4を入手したいという場合は、openSUSE 11.0の使用を検討すべきだろう。そうではなく従来のバージョン10.3に充分満足しているというユーザの場合は、最新リリースに対するレビューが一通り出そろうまで待つというのも1つの選択肢と言えるかもしれない。

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