IBM Lotus Symphonyは、古いOOoコードを使ったエンタープライズ狙い

 過去にOracle、今度はIBM。いったい、オープンソースソフトウェアを企業向けのビジネスにすることをどう考えているのだろう。OracleはOracle’s Unbreakable Linux計画を打ち出した。実体はRed Hat Enterprise Linux(RHEL)からプロプライエタリな部分を除いただけのものなのに、それを低料金でサポートして、本家RHELと、CentOSなど類似の各種コミュニティプロジェクトを負かそうとした。そしてIBM。こちらは古いOpenOffice.orgコードを、いまや停止されたSun Industry Standards Source License(SISSL)ライセンスのもとで利用して、プロプライエタリでクローズドソースのフリーオフィススイートとして発表した。先週リリースされたIBM Lotus Symphonyがそれだ。初めての安定版で、これといってOpenOffice.orgに勝るところはないが、明らかに企業向けスイートだ。これによって、フリーのオープンソースソフトウェアが犠牲になる。

 IBMがLotus Symphonyで狙っているのは企業向けデスクトップだ。隠していても本音は漏れる。何よりもSymphonyのマーケティング用資料が雄弁に物語る。Flash動画を駆使した紹介デモがいくつもあって、どれにもビジネスユーザが登場し、ビジネス文書、プレゼンテーション、スプレッドシートをSymphonyで作成してみせている。ホームページのビデオでは、お抱えスーパーヒーローのCrescendoが「会社のIT予算を削減する手助け」をしてみせてくれる。

 さらに、公式にサポートされるLinuxディストリビューションのリストからも、意図が透けて見える。Lotus Symphony 1.0は、SUSE Linux Enterprise Desktop 10とRed Hat Enterprise Linux 5(およびWindows)でしかサポートされない。この2つは、最も人気の高い企業向けLinuxディストリビューションだ。

 もちろん、Fedora、Ubuntu、Mandrivaといったコミュニティディストリビューションがだめということではない。筆者がこの3つにバイナリをインストールしてみたところ、確かに動いた。ただし、ディストリビューションごとに、インストールのまたは後に多少の調整が必要だった。これらが公式にサポートされていないことは何を意味するのか。ベータ段階のSymphonyについてユーザからフォーラムに報告され、IBMサポートで解決されたはずのエラーの数々が、最終リリースでまたぞろ現れても、決して驚いてはなるまい。

 まだある。Symphonyが5月にリリースされてから数日後、IBMはこのオフィススイートに関するヘルプデスクサービスの販売計画を発表した。狙いが企業向けデスクトップにあることがよくわかる。Lotus Symphonyスイートを構成するのはワープロとスプレッドシートとプレゼンテーションソフトウェアだ。フリーだし、懇切丁寧な組み込みヘルプもあるし、オンラインフォーラムもある。だが、万一迷ったら、IBMが年額$25,000で助けてあげましょうと言っている。もともと使いやすいアプリケーションに、個人がそんな大金をはたいてまで手助けを頼むわけがない(企業でさえあるかどうかは疑問だが)。

 IBMの狙いが企業向けデスクトップにあることは明らかだろう。もちろん、悪いと言っているのではない。大手ソフトウェアベンダがフリーで提供するオフィススイートだ。ぜひ使いたいと思う個人・法人は多かろう。だが、Lotus Symphonyには、IBMクラスのベンダに期待される品質が欠けている。

 まず、ユーザインタフェースだ。少なくともLinux上では、しゃれてもいないし、モダンでもない。レンダリングも悪い。とくに1024×768のような低解像度で顕著だが、ほとんどのラップトップと17インチLCDでデフォルトになっている1280×1024でも、水平方向にスクロールしないと、サイドバーにあるいくつかの機能にアクセスできない(サイドバーはサイズ変更ができない)。未調整のLotus Symphonyは、OpenOffice.orgに比べて遅い。なぜか。3年も前のOpenOffice.org 1.1.4を土台にしているからだ。デュアルライセンス時代にSISSLで配布された最後のOOoリリースだ(開発者は独自の修正をプライベートに保てる)。IBMのODF Initiativeを指揮するDon Harbisonは、IBM社がSymphonyのためにOOoコードを大幅に書き換えた、とインタビューで言っているのだが……。

 確かに、Symphonyにもユニークですぐれた点がいくつかあって、筆者も、Symphonyの初回ベータ版をレビュー翻訳記事)した際、そのいくつかを紹介した。ODFデフォルト保存オプション、タブ付インタフェース、Exposéに似たウィンドウ追跡、組み込みブラウザなどだ。最終版にはさらに多くの強化が施されているほか、プラグインも多い。プラグインは簡単にインストールでき、有用な機能を追加してくれる。たとえば、Lotus Symphonyの一部コンポーネントの商標を変更する、プレゼンテーションをFlashへエクスポートする、外部データベースと接続する、文書を編集しながら電子メールで送信する、などだ。

 だが、ここでもIBMはへまをした。プラグインのうち、重要なものの多く(データベースとの接続、プレゼンテーションのFlashエクスポートなど)は、SymphonyのWindows版でしか動作しない。

 OpneOffice.orgスイートそのものをサポートすればよかったのに、IBMがなぜオープンソースアプリケーションをわざわざクローズドソースにしたのか実に不思議だ。6か月以上の時間をかけ、ベータリリースを4回も繰り返して、ようやくバージョン1.0に漕ぎ着けたのに、少数のプラットフォームとオペレーティングシステムしかサポートせず、Mac向けのリリースもないというのだから、余計に訳がわからない。プラグインなど既存のコンポーネントは、プラットフォームが変わると――サポートされているはずなのに――動かないこともある。

 「有名ソフトウェアベンダから費用効果の高いオフィススイート」の宣伝文句も、早く優秀なコードでバックアップしてやらないと、効果は長つづきするまい。

Linux.com 原文