PCLinuxOSにGnomeを見事に統合させたPCLinuxOS Gnome
PCLinuxOS Gnomeとは、軽量化を施したウィンドウマネージャと必要最小限のコンポーネントのみに絞り込んだ上でリマスタリング用ツールを同梱する、オフィシャルなPCLinuxOS MiniMe 2008ディストリビューションを基にコミュニティベースで開発が進められているLinuxディストリビューションの1つである。操作性を犠牲にすることなく優れた機能と外観を併せ持ったディストリビューションとして知られているPCLinuxOSであるが、その基本ベースとして使われているのはMandriva Linuxである。そのためパッケージ管理はRPMフォーマットが継承されている他、Mandriva Control Centerおよびライブインストーラの移植が行われており、デスクトップ環境は主としてKDEが用いられている。その他のコンポーネントとしては、Gentoo、openSUSE、Fedora、Debian、Ubuntuも使用されていることから分かるように、同ディストリビューションの開発陣は積極的に他の優秀なディストリビューションから優れた要素を取り込もうとしているようだ。ただしこれらの各パッケージをPCLOSに組み込む際には、高速で安定した環境とするための調整とカスタマイズおよびリビルドが施されている。
デスクトップ環境に関するいくつかのアンケート結果によると、現在GNOMEユーザの数はLinuxユーザのうち35%から45%という一大勢力を占めるようになっている。PCLOSにおいても以前よりGNOMEパッケージ群は利用可能であったが、KDEおよびQtを中心に構成された基本システムに一部のツールキット、ライブラリ、パッケージ、アプリケーションを重複させる形で追加させる関係上、システムの肥大化が避けられなかった。そのため本稿で紹介するPCLinuxOS Gnomeの開発陣は、KDEおよびQtパッケージの大半を一掃した上でGNOMEの外観と操作性を取り込むための調整を施すと同時に、タイムリーなアップデートを行うことを目指したとされている。つまり本ディストリビューションにおけるGNOMEは脇役ではなく主役的な立ち位置に置かれているのである。
ハードウェアのサポート状況
今回PCLinuxOS Gnomeの試用に用いたのは私の愛用するHewlett-Packard Pavilion dv6000であり、このマシンはAMDプロセッサ、Nvidiaチップセット、BroadcomワイヤレスEthernetアダプタ、512MB RAMという構成である。過去に試した限りにおいてこのラップトップに対するLinuxの親和性はかなり高く、実際Broadcomワイヤレスチップを除いた基本ハードウェアの多くは素直に認識されている。
ところが今回はライブCDを試した際において若干の不具合が発生しており、その1番手はブート時に遭遇したものであった。それはハードウェアの検出途中で処理が停止し続けるという現象であったが、この場合はキーを押し下げてみたところ、ブートそのものは完了していた。この症状はPCLinuxOS 2008 MiniMeでも再現されているが、ディストリビューション本体をハードドライブにインストールすることで解決される性質のものである。
次に遭遇した不具合はネットワーク設定に関するものであった。ワイヤレス接続の設定時には使用するドライバの選択肢が表示されるが、bcmwl5をクリックしたところシステムがフリーズしてしまうのだ。こちらの症状はPCLOSでは発生しないものの、やはりハードドライブにインストールすることで解決されている。
またPCLOSはハードドライブやバスの検出機能に若干の問題を抱えていて、必然的にPCLOS Gnomeもそれを継承しているようである。ここでのハードドライブ用各モジュールは、ライブCDおよびハードドライブからのブートをするごとに読み取られるという方式になっており、この実装方式は必要なハードウェア用ドライバを読み込ませる方式よりも洗練度合いでは多少劣っているかもしれないが、特定のハードドライブはまったくサポートしない仕様よりはましと言えるだろう。
最後に遭遇した不具合は、初回ブート後にサスペンドとハイバーネーションが機能しなかったという現象である。他のディストリビューションの場合この症状についてはプロプライエタリ系グラフィックドライバのインストールが有効なケースがあったので今回もこの処方箋を試してみたが、最終的にはSynapticのリポジトリからsuspend-scriptsパッケージをインストールするのが有効なソリューションであると判明した。これによりサスペンドとハイバーネーションは正常に機能するようになり、使用中のファイルおよびインターネット接続についても中断後に問題なく再開ができている。
こうした些末的な一部の例外を除き、その他の機能はすべて順調に動作してくれた。デスクトップ画面も1280×800という最適な解像度にて表示されており、画面の比率やフォントとのバランスも完璧に近いと評していいだろう。サウンド関係もそのまま動作しており、付属するサウンドテーマも感じよくまとまっている。タッチパッドの感度も過敏すぎることなく正確かつスムースに反応しており、キーボードについてもPreferencesにて標準設定からHP Pavilion用の設定に変更することでマルチメディアキーが動作するようになった。CPU速度のスケーリング機能は標準設定のままで機能しており、ワイヤレスEthernetの設定もNetwork & Internet Configurationツールを利用することで簡単に済ませることができた。リムーバブルメディアについては、その挿入を検知してNautilusのファイルブラウザウィンドウないしは関連づけられたアプリケーションが自動で起動するようになっている。
こうしたハードウェアのサポートに関する総合評価は良好としていいだろう。今回遭遇した不具合のうち2種類はライブCDから起動する場合のみ発生するものであり、残されたうちの1つは実質的に無害なものであるし、もう1つは必要なサポートパッケージのインストールで解決される性質のものなので、いずれも私としては大げさに騒ぎ立てる気にはなれない。
同梱されているソフトウェアおよびツール群
PCLOSと同様にPCLinuxOS Gnomeにも多数のソフトウェア群が付属しており、コンピュータで行うたいていの作業はこれらで賄えるはずだ。その内訳はゲームからプログラミングまで多岐にわたっており、GTKアプリケーション群もGNOME 2.21.2環境との調和を重視した適切な選択が行われている。
PCLOS Gnomeはエンターテインメント目的のディストリビューションではないものの、同梱されているゲームおよびマルチメディア系アプリケーションの品揃えを見る限り、この分野においてもトップクラスにランクインしても不思議はないはずだ。例えばゲームだけでも、Blackjack、FreeCell、Gnometris、Mahjong、Sudokuといった17種類のプログラムにメニューから直接アクセスできるようになっている。
マルチメディア用のメニューには、AcidRip、Audacity、Banshee、GNOME MPlayer、Me TV、VLC、Brasero、Serpentineなどのオーディオ/ビデオ関連の作業で必要とされるアプリケーション群が一通りそろっている。ちなみにPCLOSにはWin32バイナリコーデックは同梱されておらず、できるだけオープンソース系の代替品にて賄うという方針の構成になっているが、それでも私が試した限りにおいて各種のビデオおよびオーディオフォーマットを再生することができた。例えば暗号化DVDも同梱されたdvdcssライブラリを介して対処できるようになっている。
PCLOS Gnomeの場合、インターネット通信関連のアプリケーションも充実している。インターネットブラウザはEpiphanyかMozilla Firefox 2.0.0.12かを選択できるが、必要であればOperaその他をインストールすることもできる。ブラウザ用のプラグイン類も一式揃ってはいるが、私の場合Flashビデオのフルスクリーン再生が行えなかった。その他にチャット関連は、XChat、Pidgin、emesene、GYache、ファイル転送はgFTPないしDeluge BitTorrent、電子メールの送受信はThunderbirdにて賄うことができる。またダイヤルアップ接続が必要という場合はGNOME PPPを使えばいい。
グラフィックス系アプリケーションは、Eye of GNOME、F-Spot、GIMP、gtkam、XSaneが用意されている。オフィス系の作業については、Gnumeric、gLabels、AbiWordが使用でき、OpenOffice.orgが必要であればPCLOSのソフトウェアリポジトリから入手できる。
PCLOS Gnomeにおけるソフトウェア管理システムとしてはSynapticが用意されているが、その実態はAPT用のグラフィカルフロントエンドであり、このAPTにはPCLOS開発陣によって独自のRPMパッケージインストール用の調整が施されている。リポジトリについてもAPTに対応させた上で多数のソフトウェアが既に収録済みだ。必要なパッケージは検索機能によって探せるようになっており、該当するものが存在した場合は、Synapticによるダウンロードおよび依存関係にあるコンポーネント類のインストールが実行されるようになっている。APTは高い操作性と動作の安定性に定評があるため、これが利用できるのはPCLOSおよびその派生ディストリビューションにおける1つの大きなメリットだと言えるだろう。
PCLOS Gnomeのシステム全体をカバーするメインの設定ユーティリティとしては、Mandriva Control Centerを基にしたPCLinuxOS Control Centerが用意されている。ネットワーク、インターネット、ハードウェア、セキュリティ、ブート、システムといった各種の設定はこのユーティリティを介して行うことができ、Linuxコミュニティ広しと言えども、これに対抗しうる完成度のシステム設定ユーティリティはそれほど多くはないはずだ。
その他にもGNOMEには独自のコントロールセンタが用意されているが、こちらは個々のユーザによるデスクトップのカスタマイズがその主たる役割となっている。実際ここではデスクトップの外観に関する各種のオプションを始め、オーディオ/ビデオファイルの実行法、スクリーン解像度、スクリーンセーバのオプション、cronジョブなどを設定できる。なおシステム全体の挙動に関わる設定変更については、root権限およびパスワードの入力が必要である。
System Toolsメニューには、GConf Cleaner(GConfデータベースの不要なキーなどを削除)、Make LiveCD(リマスタリング用ツール)、Disk Usage Analyzerというスタンドアローン型ツールも用意されている。なお本ディストリビューションで使われている基本コンポーネントは、GNU Compiler Collection(GCC)4.1.1、X.Org 7.2.0、Linux 2.6.22.15という構成である。
まとめ
PCLinuxOS Gnomeは高速かつ安定したデスクトップディストリビューションであると同時に、ルック&フィールもプロフェッショナルレベルの完成度に到達している。例えばそのGNOMEデスクトップは落ち着いた色合いの背景をバックに、鮮やかな色調のスキームとモダンなテーマでまとめられているのが印象的だ。またフォントの構成も非常に充実しており、メニュー、アプレット、アプリケーションも軽快に反応してくれる。
ハードウェアに対するサポートは良好で、同梱されているソフトウェアの品揃えも的を射ており、本文中ではいくつかの不具合を報告したが、それ以外の機能はいずれも正常に動作してくれると見ていいだろう。ソフトウェアは最先端のものではないが、いずれも安定して動作するものばかりだ。そのパフォーマンスの高さは、PCLOS Gnomeをして使って楽しいディストリビューションに仕上げている。
従来よりのGNOME愛好者ないしこれからこの世界に足を踏み込むつもりのユーザであれば、コミュニティベースで開発されている本ディストリビューションを1度試しても損はしないのではなかろうか。