Stellarium、Celestia、Xplanetで宇宙に思いを馳せる

 Ubuntuの創設者Mark Shuttleworth氏は2,000万ドルをはたいて宇宙へ行ったが、それでも地球からせいぜい数百マイル先までしか到達できなかった。だが、ここで紹介する3つのフリーソフトウェアがあれば、一銭も出さずに、また愛用のGNU/Linuxデスクトップを手放すこともなく、何百万マイルの彼方まで眺めたり、バーチャル旅行を楽しんだりすることができる。

 3つのプログラムはすべてGNU GPLでカバーされており、ほとんどの主要ディストリビューションにパッケージとして収められている。

Stellarium

  Stellarium を使えば、部屋にいながらにして、また陽が沈むのを待たなくても、夜空を眺めて星について学んだり星座を探したりできる。このプログラムはSourceForge.netで2006年5月の月間最優秀プロジェクト賞を獲得しているほか、Digitalis Education Solutions, Incの販売する41,000ドルのポータブル・プラネタリウム・プロジェクタにも採用されている。

 Stellariumには、300,000に及ぶ惑星や恒星、その他の天体的光源を表示するデータが付属しており、Stellariumプロジェクトのページからはさらに多くの星の表示用データがダウンロードできる。

 デスクトップのメニューアイコンから、またはコマンドプロンプトのあとに「stellarium」と入力して、Stellariumを起動すると、その時間におけるパリ上空の様子が表示される。パリ以外の場所で暮らしている人は、「Settings」ボタンをクリックし、「Location」タブに切り換えて、表示される地図から自分の居場所に近い都市を選択すればよい。私の場合は、一番近い都市であるフィラデルフィアを選択した。同じタブでは、緯度と経度で正確な場所を指定することもできる。なお、場所の指定は一度だけすればよい。

 Stellariumには、だだっ広い原野と快晴の空が表示される。煌々と明かりを灯してそびえ立つビルの姿がないことに安心しつつも、フィラデルフィアの街が広がっているはずの原野を見て不思議な気分にとらわれた。

 日中にStellariumを立ち上げたときには、太陽が輝いていて星がまったく見えない。そんなときは、「j」キーを押すことでStellarium内の時間を進めることができる。実際の1秒の間にStellarium内の相対時間が10秒進むようになる。「j」キーをさらに押すと相対時間の進行はさらに加速し、やがては陽が沈むはずだ。「k」キーを押せば、本来の時間の進み方に戻すことができる。なお、Stellarium 内の相対時間は、画面の左上隅に表示される。

 空の表示の拡大と縮小には、それぞれ「Page Up」および「Page Down」キーを使う。表示を一杯まで縮小すると、夜空を一望することができる。キーボードのカーソルキーを使うか、マウスをクリックしてドラッグすれば、表示される方角が変わる。どの方角を向いているかは、空の下に表示される。

 星またはその他の光源をクリックすると、画面の左上にその説明が現われる。Stellariumには、惑星と恒星に関するさまざまな詳細情報が用意されている。たとえば火星をクリックすると、その名前、明るさ(明度)、地球からの距離が表示される。北極星をクリックした場合は、光の色(スペクトル型)と恒星カタログの番号が表示される。

 「c」キーを押すと星どうしを結ぶ線と共に星座の形が描かれ、「v」キーを押すと星座名のラベルが表示される。さらに「r」キーを押すと、星と線の上に星座を表す絵が現われる。

 時間を遡って昨夜見えていた空を表示するには、「l」キーを使う。また、「Date & Time」設定タブに直接日付を入力することも可能だ。Stellariumでは、何千年も昔、あるいは何千年も先の日付を入れることができる。

 夜空の澄み渡っている日には必ず、犬の散歩に出かける前にStellariumを実行することにしている。その日の空が私の家からどんなふうに見えるか、またどの位置に星座が見えるのかをStellariumは正確に教えてくれる。Stellariumのおかげで、私は散歩に出るのが楽しくなった。だが、犬のほうは違って、自分にではなく夜空に見とれている私にうんざりしているようだ。

Celestia

 Stellariumで天界を眺めているうちに、今度は星々を巡りたくなった。この Celestia を使えば、Stellariumに出てくるほとんどすべての星を探索することができる。火星の上を浮遊したり、北極星に行ったり、何十光年も離れたところから太陽を見たりといった状況のすべてが、驚くほど美しいグラフィックで描画される。

 NASAでは福祉活動にCelestiaが利用されている。このソフトウェアは可能な範囲については事実を再現しつつ、ほかの部分についても宇宙がどのように見えるかの推測を天文学の理論を使って行っている。ただし、どれが事実でどれが推測かはわからないので、ちょっとした発見 ― たとえば、北極星の黒点 ― をした際にこれは果たして事実なのだろうかと思うことがある。だが、Celestiaによる推測は有用でこそあれ害にはならない、と私は思っている。

 ほとんどのコンピュータでは、Celestiaを実行するのにハードウェア・グラフィック・アクセラレーションが必要になる。CelestiaにはGNOME、KDE、汎用のGimp Toolkit(Gtk)用の各フロントエンドが存在するが、使用するものをコンパイル時に選択するか、使っているディストリビューション用のCelestiaパッケージを選択する必要がある。今回のレビューでは、KDE用のフロントエンドを使用した。

 Celestiaには、詳細な情報が数多く含まれている。太陽系のすべての惑星と主な衛星、太陽系の外側にあるいくつかの惑星、そして何千という恒星をレンダリングするための画像とデータだ。これで足りなければ、Celestiaの公式アドオンサイト「The Celestia Motherlode」に10GBを超える容量の拡張機能群が用意されている。特定の場所や宇宙探査機を高画質でレンダリングするための拡張機能のほか、『バビロン5』や『スター・ウォーズ』のようなSFファンタジーに登場する惑星や宇宙船を追加できるものもある。

 Celestiaを起動するには、デスクトップのメニューアイコンを使うか、コマンドプロンプトのあとに「celestia」と入力する。最初は、地球の近くで太陽を中心とした軌道を周回する実体のない宇宙船からの眺めが表示される。

 Celestiaの感触をつかむには、あらかじめ用意されているデモを見るよい。キーボードの「d」キーを押すと、宇宙を周遊しながらの機能紹介が始まる。あるいは、自分で宇宙船を操縦することもできる。「a」キーで前進、カーソルキーで方向転換、「z」キーで減速だ。

 また、Stellariumと同じように時間の進み具合を速めるには「l」キーを、遅くするには「k」キーを使う。地球を眺めながら時間の流れを速くしていくと、数秒おきに昼と夜が入れ替わるのがわかる。さらに速くすると、月がほんの数秒で軌道を一周するようになる。注意深く見ていると、月食や日食も観測できるはずだ。日食のときには、ぜひ時間の進行を遅くして月影が地球上を横切るのを見てもらいたい。Celestiaの画像を、国際宇宙ステーションにいる宇宙飛行士が撮影した本物の日食の写真と比較することも可能だ。

 光源をクリックすると、その情報が表示される。ダブルクリックすると、その光源が画面の中心に来る。選択している対象に行くには「g」キーを、その動きに追随するには「f」キーを押せばよい。

 また、「p」、「m」、「b」の各キーを押すと、それぞれ付近の惑星、衛星、恒星の各ラベルの表示/非表示が切り替わる。星を線でつないで星座の形を描き出すには、「/」キーを押す。星座を表す線を表示させたままで太陽系のはるか遠くへと飛んで行くと、その星座の見え方が少しずつ変化し、最終的には見えなくなるのがわかる。

 Celestia以上に楽しくてすばらしい教育用のフリーソフトウェアを私は知らない。ただ、もう少し使いやすければよいのにとは思う。スペースシャトルの操縦を覚えるほうが、目に見えないCelestiaの宇宙船の操縦を覚えるよりも簡単なのではないかと感じることがあるくらいだ。しかし、Celestiaをマスターすれば、指先1つで宇宙の美しさをくまなく堪能できるようになる。

Xplanet

 宇宙を探索し終えると、太陽系のどこか眺めのよいところに腰を落ち着けたくなった。 Xplanet は、デスクトップの背景に太陽系の様子をカスタマイズした形で10分ごとに更新しながら表示してくれる。デスクトップが宇宙を臨む窓に早変わりするわけだ。

 XplanetはWikipediaをはじめとするWebサイトで地図の生成に使用されているほか、GPLプログラムircmarkersではユーザの地球上の位置をプロットするのに使われている。Xplanetのベースとなっているのは、地球の画像をデスクトップの背景にするプロプライエタリなツールXearthだ。また、地表に太陽の光が降り注ぐ様子を描くことによって現在時刻を知らせるフリーソフトウェアSunClockも関係している。

 Xplanetのソースパッケージには、地球の画像しか入っていない。DebianとUbuntuでは、この画像がxplanet-imagesという別のパッケージに分かれている。ほかの惑星や衛星を表示するには、flatplanetプロジェクトから画像をダウンロードする必要がある。

 StellariumやCelestiaと違い、Xplanetはインタラクティブなプログラムではない。コマンドラインオプションを何も付けずに実行すると、経度、緯度ともに0度の地点(アフリカ、ガーナの南方350マイルの大西洋上)を画面の中心に据えた背景が描画される。この画像は10分ごとに更新され、実際の時刻に対応した形で太陽光が地表に降り注ぐ状況が確認できる。

 flatplanetプロジェクトにも、オンラインのXplanet用フロントエンドがある。ドロップダウンボックスとボタンを使ってWebブラウザ上で太陽系を探索できるものだ。画像のレンダリングが終わると、flatplanetはXplanet用のコマンドラインを表示してくれる。これを使えば、同じ画像を自分のコンピュータ上に表示することができる。ただ残念なことに、flatplanetでは旧バージョンのXplanetが使われているため、表示されるオプションには現行のXplanetでは使えないものもある。

 Xplanetは、デスクトップの背景をXのルートウィンドウに配置する。Xサーバはその他すべてのウィンドウをXのルートウィンドウ上に表示するが、デスクトップ環境のなかにはGNOMEやKDEのようにXのルートウィンドウを覆ってしまうものがある。たとえばGNOMEは、デスクトップ上にアイコンを表示するために、ファイルマネージャNautilusをXのルートウィンドウ上に画面一杯に配置している。XplanetのFAQを参照すれば、こうしたGNOMEやKDEの環境でXplanetを適切に動作させる方法方がわかる。また、ほかのデスクトップ環境についてもGoogleで検索すれば情報が得られるだろう。なお、どのデスクトップ環境でも、「-window」オプションをコマンドに追加すれば普通のウィンドウに画像が表示される。

 では、Xplanetを使って自宅の上空から地球を眺めてみよう。まずは、オンラインのツールを使って自宅の緯度と経度を調べる。緯度と経度がわかったら、「-latitude」および「-longitude」オプションでXplanetに与える。フィラデルフィアの場合は「xplanet -latitude 39.9496 -longitude -75.1647」と指定すればよい。

 また、Xplanetでは過去や未来の出来事も観測できる。たとえば2008年8月1日には、地球に届くはずの太陽の光が月によって遮られることになっている(日食)。よって、「xplanet -latitude 180 -date 20080801.08000000」というコマンドで地球上にかかる月の影を見ることができる。

 地球上には皆既日食を2分半以上観測できる場所はないが、宇宙からであれば4時間半以上にわたってその一部始終が見られる。皆既日食を太陽の視点から眺めると、月が画面上を横切っていくようすが見える。太陽や、別の惑星または衛星から地球を眺めるには、「-origin」オプションを使ってその星の名前を指定すればよい。たとえば、「xplanet -date 20080801.08000000 -origin sun」のようになる。

 Xplanetではデフォルトで地球の画像が表示されるようになっているが、「-body」オプションで別の星を指定することもできる。たとえば、「xplanet -origin titan -body saturn」というコマンドは土星をその衛星タイタンから見るためのものだ。

 友人の1人はスクリプトを使ってcronからXplanetを実行することで、フロリダの海岸に設置されたWebカメラの画像をダウンロードしてデスクトップの背景にしている。彼はその背景を指さして言う。「仕事を辞めた僕がフロリダで見る光景だよ」。だが、私の夢はもっと大きい。Xplanetの「-origin moon」オプションを使ってデスクトップに表示している画像を指さしてこう言ってやった。「僕の場合は、仕事を辞めたら月へ行ってこんな光景を見ることになるだろう」

Linux.com 原文