DevelopSpace――オープンソースの理念で進める宇宙開発
Wooster氏が情熱を傾けているのは、人類による宇宙への進出である。同氏自身は正真正銘の航空宇宙分野の研究者なのだが、この分野を未だ取り巻いている迷信的な誤解を消し去りたいとも考えているそうだ。「世間では、宇宙開発とは専門のエリート科学者だけが行えるものだと見なされていますが、実際に火星に基地を設営するには様々な準備が必要で、その中には専門の科学者以外にも行える事柄が多数含まれています」とWooster氏は語る。同氏が構想しているのは、正規の宇宙開発以外の分野に携わる人間同士がその知識を共有する場を設けることである。「そのための機会さえあれば、この分野の活動に喜んで協力しようという人々は、大勢存在しているはずです」。
かく言うWooster氏であるが、1995年になるまでは、オープンソース系ソフトウェアどころかLinuxが何であるかすら知らなかったそうであり、MITにて研究職に就いたことが契機となって「徐々にそうしたコンセプトの有効性が私にも実感できるようになりました」と説明している。「そして気づかされたのは、コンピュータのプログラマ、自動車の設計者、あるいは高校の学生の中にも、宇宙開発に興味を抱いている人間が多数存在しているということです。こうした人々がこの分野に貢献する上で、オープンソースという形態は非常に優れたモデルになるでしょう」
Wooster氏の運営するコミュニティでは、約15名からなるコアグループが航空宇宙の専門知識を担っているものの、「これらの人々は宇宙船の設計法は知っているのですが、そのうち半数はPHPが何であるかすら知りません。そうした訳で現在求めているのは、Web関連のノウハウを有している人材です」ということである。Wooster氏が構築しようとしているのは、同氏が見なすところのSourceForge.net的なインフラストラクチャであり、こちらが各種の仕様、設計図、ドキュメント類、ソフトウェアのリポジトリとして機能するものであるのに対して、参加者間の情報共有や意見交換の場として機能するwikiも運用していくとされている。
「私どもが目指しているのは、人類が宇宙で活動するための技術的な基礎の整備であって、現状における目標達成上の障害を特定して、これらの障害を克服するための技術的なソリューションを確立することですが、ここではそうした活動をオープンソース形態で進めようとしているのです。例えば私が火星で使う太陽発電システムを設計して、その検証を実験室で行ったとします。その結果を学術誌やPDFフォーマットの形態で論文発表して終わるだけだと専門外の人々が情報を引き出すのが困難なので、作成したCADファイル群および関連する技術情報をすべて一般に公開するようにしておけば、関心のある人間がそれを検証して改善を積み重ねることができるはずで、類似した研究を一から始めるという無駄を解消できます。こうした活動を継続していけばより多数の人間の参加が得られるようになり、人類の火星進出にしろ宇宙ステーションの建設にしろ、そうした分野に興味のある協力者が新規に参入する際の敷居を低くする方向で技術開発を進めていけるようになるでしょう。もっとも私自身、ごく近い将来にこうした形態のグループが実際的な活動を行うことになるとは思っていません。現状では、将来のための基礎固めという意義が強いはずです」
DevelopSpaceで扱うプロジェクトの種類についてWooster氏は、同グループが柔軟な方針で応じることを説明している。「今は、このプロジェクトが有機的な成長をし始めているのを実感しているところです」と同氏は語る。「内容が宇宙に関係したプロジェクトであれば、独自のプロジェクトを提案して頂いて構いません」。大手の航空宇宙企業は多数の研究室を運営したりプロトタイプの作成を手がけているが、そうした組織に属さない研究者たちが独自のプロジェクトを進めるためのインフラストラクチャとして機能するのがDevelopSpaceであり、関連する知識を集積しておくことでゼロから始める無駄を省くことがその存在意義である。つまり、ハードウェアの設計プラン、電子回路のレイアウト、生命維持モジュールの設計図、構造解析用のデータセットといった、研究開発に必要となるツール群を事前に用意しておくことで、「新規にプロジェクトを立ち上げて具体的な課題に対する問題解決を進めるという作業が、大幅に簡単化されます」とWooster氏は説明している。
Wooster氏は、航空宇宙関連の企業は非公開型のテクノロジに立脚して利益を得ているため、そうした存在からの支援は大して期待できないと語っている。「そもそも既存の航空宇宙企業の多くは、最初からこの種の試みを歓迎しようとはしないでしょう。私どもの活動は、彼らの既得権益に参入する障壁を低くして、新規の競合者を増やそうという行為なのですから」というのが同氏の見解である。これと対照的なのは、NASAなどの政府機関がこの試みに関心を示すであろうということだ。「協力を申し出てくるとすれば、こうした政府系の団体でしょう。これらの団体は競合者の存在をそれほど気にかける必要はありませんし、むしろこの活動は、各自の達成目標に用いるリソースをより効果的に活用する方向に寄与するからです。もっとも私の予想では、この活動が一番最初に受け入れられるのは大学関係者の間になると思っています。自分達の活動成果を世間に公表するというのは、この世界では昔から行われてきたことですから。その次に受け入れてくれるのは、一般社会の人々でしょう」。
DevelopSpaceプロジェクトの活動に関心があり、自分も貢献したいと思うのであれば、同プロジェクトのサイトにアクセスして参加登録をして頂きたい。
Tina Gaspersonは1998年よりフリーランスのライターとして活動中で、主要な業界紙にビジネスおよびテクノロジ関連の記事を執筆している。