企業のWeb 2.0事情――2008年も本格活用は期待薄?
米国Forrester Researchのアナリストであるオリバー・ヤング(Oliver Young)氏は、企業のWeb 2.0技術への取り組みは“実験フェーズ”をいまだ脱していないと指摘する。「Web 2.0への取り組みは、現状では実験的なものが多く、ほとんどの企業は成果を出せずにいる。言いかえれば、Web 2.0がビジネス・シーンで真価を発揮するには至っていないというのが実情だ」(同氏)
Web 2.0技術が威力を発揮するのはどのような場面なのか。例えば、何万人もの従業員が複数拠点に分散しているような企業では、従業員同士が従来の方法で効率的に共同作業を行うことはほぼ不可能だ。直接顔を合わせての会議もおそらく無理だろう。そうした状況下ではWeb 2.0のコラボレーション技術が役に立つ。
テクノロジー業界のコメンテーター/ライターで、Network World米国版で編集長を務めたこともあるポール・ジリン(Paul Gillin)氏は、「例えば大勢が情報を共有する必要があるケースで、電子メールを使うのは最悪の手段だ」と言う。同氏は、そうしたケースではWiki技術が最大のプラス効果をもたらすと考えている。
Wikiの場合、まず白紙のワークスペースを設定し、従業員みずからがプロジェクトの課題や運営方針、参加者などを決めることが可能だ。Young氏は、電子メールのやり取りでメールボックスを満杯にするくらいなら、Wikiのほうがずっと効率的だと力説する。
Web 2.0技術の中で有望なのはWikiだけではない。RSSフィードも将来性が期待できる。Young氏によると、ある法律事務所では、裁判の進行状況を弁護士に確認させるのに、集計表や書類を電子メールで送るのではなく、RSSフィードを使っているという。
そうしたなか、Web 2.0技術をサポートしたオープンソースのソフトウェアも増えてきている。一部の企業に限られてはいるが、開発コストの節減に貢献するケースも現れ始めた。
しかし、Web 2.0ベースのコラボレーションとひと口に言っても、対応ソフトウェアを単純にインストールすれば済むというわけではない。最大の難関は、「使い慣れた電子メールに頼ってしまう社員に、いかに新しいツールを使わせるか」(Gillin氏)ということだ。
またYoung氏によると、管理職クラスが新しいツールにビジネス的な価値を見いだせず、結果としてWeb 2.0導入プロジェクトが十分な資金を得ることができないケースも多いという。
そのほか、新しい技術に付き物のセキュリティ問題もWeb 2.0で懸念されている。Forresterが実施したある調査では、ほとんどの企業でWeb 2.0対応のセキュリティ対策が十分でないことが示されている。この傾向は、従業員がオフィスでビジネス・ユース以外のアプリケーション(例えばSNS向けの個人向けソフトウェア)を利用しているケースで特に顕著だ。
Young氏は、Web 2.0の導入により従業員同士のデータ共有が容易になる一方で、社員がデータを悪用する可能性も高まると注意を促す。「この問題に対処するうえでは、企業はパーミッションやコンプライアンスなどの強化から始めるべきだろう。また、共有可能なデータかどうかを判断できるよう、従業員の教育も重要だ」(Young氏)
同氏はさらに、データ漏洩を防止するための技術的な障壁を築きつつ、過度な制限を設けることなく従業員に自由な共同作業の機会やコラボレーション・ツールの選択肢を与えるという、相反する作業のバランスを取ることが求められると強調する。
セキュリティ上の懸念についてはGillin氏もYoung氏と同じ意見だが、今後の見通しはGillin氏のほうがYoung氏よりも楽観的だ。Gillin氏は、Web 2.0ツールの信頼性がこれから向上し、それに合わせてツールの普及が進むと考えている。同氏によると、ソーシャル・ネットワーキングのアプリケーションを導入し、いわば「従業員用の社内Facebook」を構築することを検討中の企業もあるという。
Gillin氏は「複雑で管理が困難という理由で、イントラネットはこれまで注目されていなかった」と述べ、Web 2.0こそ、ビジネス・シーンでイントラネットを活用する際の手助けになると主張する。
「これまで企業は、プロプライエタリなアプリケーションの開発に高度な技術と巨額の費用を注ぎ込んできた。それに比べ、日常の業務のためにWikiやブログを利用するのはほんのわずかな費用で済む。企業のトップにとっては朝飯前のはずだ」(Gillin氏)
(John Brodkin/Network World米国版)
提供:Computerworld.jp