ソーシャルネットワーキングサイトを利用して求職者の身元調査を行う場合の法的なリスク

 インターネット上には、求職者ならば自分がソーシャルネットワークサイトに記載する情報には気を付けろという警告で溢れかえっている。例えば「Facebookの利用は就職活動に役立つのか自殺行為なのか」とか「Facebookが原因で内定取り消しの羽目に」などの見出しで飾られたブログやニュースの記事を目にしたことがあれば、これから就職活動を控えている場合にオンライン上で自分に関する情報をどこまで公開していいのか悩まされることになるだろう。しかしながらこの種の情報の取り扱いについては、求職者側でなく雇用主側の方が注意しなければならない落とし穴が潜んでいるのである。

 Society for Human Resource Management(SHRM)が実施してこの10月に公開された調査結果によると(HR Magazine)、多くの雇用主は求職者から提出された情報の確認にインターネットを使用しているとされている。この調査の回答者の約半数はその目的で検索エンジンを利用しており、20%弱がソーシャルネットワーキングサイトを使って応募者のチェックをしているとのことだ。そしてこの種の用途にインターネットを用いているとした企業のうち、そこで得られた情報を基にして過去に1人でも応募者を失格にした経験があるという数は20%程度に達している。

 この調査結果については、電子メールを用いた自己選択式の調査で回答率も低かったという点で信頼性面の疑問は残されているものの、雇用者側が就職希望者の身元調査および、一部のケースにおいては合否判定用のツールとしてインターネットを用いていることを示すデータは他にも多く存在している。

 George Lenard氏はセントルイスを拠点に活動中の雇用法を専門とする弁護士だが、同氏のブログには、この種の情報検索には法的な問題を引き起こす危険性のある点を指摘した記事が掲載されており、特にソーシャルネットワークに記載される個人情報の中には年齢や国籍などが含まれていることもあるので、求職者の側から、これらの情報を調べられた結果不当に採用を拒否されたと訴えられる可能性が警告されている。

 このようにソーシャルネットワークを使えば様々な情報が得られる反面、本人が意図していなくても、簡単に法を犯してしまう危険性が潜んでいるのだ。例えばFacebookという学生向けソーシャルネットワークの場合、登録者のプロファイルはデフォルトで公開されるようになっている。このプロファイルには写真も掲載されるケースが多く、また“wall”機能を使うと他のメンバからの個人的なメッセージを残せるほか、大学の卒業年度も記載されるようになっているのである。

 もっとも雇用主となる側には、この種の情報をつぶさに収集する意図があるとは限らず、むしろ現在のアメリカ社会では年齢や人種などを理由とした不採用は法律違反に問われることになるため、その種の情報に触れるのを控えたいとする法的な理由が存在している。しかし、その一方で、Facebookなどのソーシャルネットワーキングの方がデフォルトで個人情報を公開する仕様でWebサイトを運営しているのである。これはLinkedInといった専門の人材ネットワークにおいても同様で、そこに記載される入社年度を基にすれば本人の年齢を推定できてしまう。しかもLinkedInの場合、最近の機能追加として、小さな写真をアップロードする機能が利用可能となったところである。

 こうした違法と見なされる雇用差別は、連邦政府が禁止している事項だけに止まるものではない。アメリカでは半数以上の州政府が、職場以外の活動を基準にして採用結果を下してはならないという州法を定めているのだ。その多くは喫煙習慣に関わるものだが、先のLenard氏はこれを、大手タバコ企業が1980年代後半から90年代前半にロビー活動をした成果の法令であろうとしている。

 またミズーリ州やイリノイ州を含む10州では、こうした非差別条項の適用範囲を、喫煙だけでなく飲酒行為にまで広げている。翻ってみるとMySpace世代にとっては、自分がビールジョッキを手にしている姿の写された“パーティでの記念写真”が採用官の目にとまる危険性を危惧しなければならないのだ。そしてこれらの州法では、そうした写真を見つけたとしても、それが違法行為の証明となるものでもない限り(未成年当時に飲酒していたことを示すなど)不採用の理由にしてはならないなどが定められているのである。

 この種のリスクは個人レベルの人間関係についても潜んでいる。沿海部に位置する主要18州では性的指向を基にした雇用差別を禁じているが、より多くの州では結婚歴を基にした雇用差別が禁止されているのだ。それに対して先のFacebookでは登録者のサインアップ時において、プロファイル属性に設けられている「Relationship Status」および「Interested In」欄にてこれらの情報を公開することが奨励されているのである。いずれもオプション扱いの情報ではあるが、登録された内容はプロファイルの最上段に表示されてしまう。

 Lenard氏が指摘しているのは、自分が知るだけで法律違反を問われかねない情報を意図せず(あるいは意図して)目にするリスクを冒す危険性を抑制したければ、身元調査のアウトソーシング化を進めるべきだということである。そしてこれを実践する際のポイントは、評判の高い業者を選択し、身元調査についての明確かつ客観性のある具体的な指示を与えることだとされている。

 なおLenard氏は身元調査の委託に付随する注意事項として、人事部がこの種の業務を外部の業者に依頼した場合は、信用情報保護に関する公正信用報告法(FCRA:Fair Credit Reporting Act)に従わなければならなくなる“可能性が高い”点に触れている。

 多くの人間にとってFCRAとは、銀行から定期的に送付されてくる個人情報保護方針の通知に過ぎないだろう。そうではなくここでLenard氏が言及しているのは、調査業者が提供する情報を基にすることにより「雇用決定にそうした問題が関係するようになった」点であって、同法律にはこの種の第三者の人格や評判を調査する企業は“信用情報報告機関”であると見なすという規定が設けられていることである。これは求職者側にとって、就職希望先が自分の身元調査を外部業者に委託した場合は、事前にその旨を通知されなくてはならないということを意味する。そして調査業者の得た情報により採用が見送られた場合、当人にはその理由の説明および反論の機会が与えられなければならないのである。

 もっともLenard氏の説明では、雇用関係の訴訟において問われているのはその大半が解雇時に関する問題であって、採用時のものではないということになる。とは言うものの、現在では雇用時のあり方が問題とされた訴訟も増えつつあり、特に集団訴訟という形態で法廷に持ち込まれるケースが増えている点に同氏は注意を喚起している。

 今のところ、ソーシャルネットワークそのものが雇用訴訟の争点となったことはない。そしてLenard氏の提示する雇用訴訟のリスクを回避する最善の予防策とは、採用過程をよく整理された客観性のあるプロセスとして文章化しておき、それを遵守することである。

ITManagersJournal.com 原文