IT業界で給与と手当の交渉を行う7つのヒント

 仕事のオファーをもらった初日はあらゆる喜びに包まれることだろう。もちろん、安定した生活への道も拓かれる。しかし、オファーをもらって興奮するあまり、その詳細の入念なチェックをつい怠りがちになる。また、多くの人はオファーの内容は確定していて交渉の余地はないと思っているが、大抵の場合、そんなことはない。実は、確定済みと思えるオファーでさえ、ある程度の融通は利くのが普通だ。

 そのうえ、労働条件について交渉を行うのなら、会社からオファーをもらったときがその絶好の機会になる。また、最初の時点で交渉の場を持ち、その条件で双方が満足していることを確認することで、雇用主との相互尊重の基盤を築くこともできる。逆に、交渉なしにオファーを承諾してしまうと、扱いやすいとか利用しやすいという印象を新しい雇用主に与えかねない。

 本稿では、この先、仕事のオファーをもらって雇用条件について交渉を始める際に役立つ7つのヒントを紹介する。それぞれのヒントを効果的に活用するには決断力が求められ、また実践にあたっては丁寧さが必要なことも常識的にわかるだろう。これらのヒントを組み合わせて使えば、あなたの収入と仕事の環境はかなり違ったものになるはずだ。少なくとも、それらを実践してみることで、新しいポジションに対して考えられる最高の条件を手にしたことを納得できるだろう。

能力に応じた市場価値を知る

 最近の地方紙、各種求人Webサイト、Salary.comのようなサイトを見れば、特定の分野と職種でどれくらいの収入が得られるのかがわかる。こうした情報源がとりわけ役に立つのは、現在離れたところにいて、新しい勤務先の拠点付近の相場を知りたい場合だ。また、IT労働者は開発者向けの会合やイベントの場を利用して、周りの人々から情報を集めることもできる。情報交換のための面接(information interview) ― ネットワーク経由で雇用主と話をして情報を得るもので、現状で求人枠がなくても行われる ― を受けているのであれば、その分野の人に質問する項目の1つに想定される給与の額を入れてもよいだろう。こうした情報源を利用すれば、無分別に交渉に臨むようなことは簡単に避けられるはずだ。

経験に見合った給与の範囲を知る

 仕事に対する給与の範囲がわかったら、面接に備えて自分がその範囲のどこに位置するのかを判断する。おわかりのように、範囲の上限値は同じ仕事でも経験の豊かな人、下限値は未経験者を想定したものになっているのが普通だ。ただし、たとえ非公式な経験でも考慮に入れるべきである。たとえば、管理職の経験はないがプロジェクトリーダをしていたとか、休日は管理職の代理を務めていたという場合は、そうした経験を考慮して自らの価値を高めることができる。

 自分のおよその市場価値がわかったら、交渉においていくらか理想に近い給与を要求できるように準備を進める。そうすることで、最初の要求額が高すぎても最低ラインは確保できるようにしておく。反対に、最低額から交渉を始めてしまうと、満足できる給与額について交渉する機会はなかなか得られない。

オファーをもらうまでは希望額を言わない

 こちらから求人枠に応募する場合、雇用の力関係のバランスは、応募者の求めるものを持っている会社側に有利なほうに傾いている。しかし、仕事のオファーをもらう場合は、力関係のバランスがこちらに有利なほうへとシフトする。会社の側があなたを必要としているからだ。交渉を持ちかけるのにこれほど有利な立場はないといえるだろう。だからこそ、その機会を無駄にしてはならない。

 給与の希望額を率直に訊かれた場合には、数々の駆け引きを交えながら対応することができる。たとえば「給与について話し合う前に互いの条件が十分に一致していることを確認したいのですが」、あるいは「世間の相場並の額を想定しています」と答えてもよい。もっと直接的に「この仕事に対する給与の範囲はどれくらいですか」とか「オファーを頂けるのですか」と尋ねることも可能だ。あくまで丁寧に応対する限り、こうした駆け引きはいずれも交渉を成功に導く可能性がある。

いきなり希望額を伝えることは避ける

 期待している給与の額を口に出した途端、あなたはその数字に縛られてしまう。もしその額が、会社側が出してもよいと考えていた額よりも低ければ、あなたは自分を安売りしたことになる。また希望の額が会社の想定額よりも高ければ、その仕事を逃してしまうかもしれず、あるいは想定していたよりも低い額で納得せざるを得なくなるだろう。どちらにしても、以降の交渉での立場は弱くなる。反対に、面接官のほうから給与の額を提示された場合は、こうした問題を回避できるだけでなく、その仕事が自分の要求額に見合ったものかどうかもわかる。仕事のオファーをもらうまでは希望する給与の話は持ち出さない、という前述のヒントはここでも有効というわけだ。

諸手当やその他の条件についても忘れずに交渉する

 仕事の条件で一番重要なのは給与かもしれないが、ほかにも条件があることを忘れてはならない。各種の手当によって報酬が大幅に増える可能性があるからだ。また、給与が希望額より少なくても手当で埋め合わせることが可能な場合もある。

 定期的な給与査定や業績手当により、こうした埋め合わせがきわめてダイレクトに行われる場合もある。また、IT労働者は残業や週の労働時間について交渉することもできる(ただし、業界の風土的には、通常は必要なだけ働くことが期待されている)。ほかにも休暇期間、個人休暇、医療および歯科保険、必要経費、引越費用など、もっと間接的な手当が用意されている場合がある。また、再就職の斡旋サービスや契約解除の手続きについての確認も忘れてはならない。新しい仕事に就く際にこうした点について考えることは悲観的に思われるかもしれないが、あらゆる角度から検討を加えておくのが最善の策だ。

 IT業界で特に問題になるのが、研修受講費やカンファレンス参加費用の補償である。この業界では、絶えずスキルアップしていくことが重要であり、それが会社のためにもなるからだ。会社によっては、こうした目的のために毎年決まった額の手当がもらえるところや、LinuxWorldやDefconのような業界の主要なイベントに参加した場合の代休や交通費の交渉に応じてくれるところもあるだろう。これらの費用を雇用条件に加味することで、給与明細には表示されなくても、給与に何千ドル分もの価値を上乗せすることが可能だ。

オファーは文書で受け取る

 重要な仕事ほど、そのオファーは条件の要点が提示された、改まった形式の手紙や電子メールで届く可能性が高い。ただし、たとえ略式であっても文書でオファーを受け取ることは、通常はどんな仕事であれ悪いことではない。それは、将来の雇用主の誠実さを試すためではなく(そもそも、信用できない雇用主であればオファーを検討するまでもない)、書面が手元にあれば話し合いの詳細を思い出すのに役立つからだ。また、オファーを文書にしてもらえば、関係者全員が同意した条件であることが保証され、最終的な決断もきっぱりと下せる。

 これらの利点は非常に重要なので、会社側が条件を書面にしてくれない場合はこちらからの承諾の電子メールにその内容を記しておくとよいだろう。誤解を残したまま新しい仕事に就いたり、さらには、新しい仕事の条件を明確にせずに今の仕事を辞めたりしたくはないはずだ。

オファーへの返答はじっくり考えてから行う

 ありがちなのは、仕事のオファーをもらったことにうかれて十分に考えずに承諾してしまうことだ。特に、しばらく仕事に就いていなかった場合はそうなりやすい。反対に、時間を置いて返答することにすれば、オファーの内容を自分のニーズや希望と比較検討することができる。

 『How to Make $1,000 a Minute』(1分間で1,000ドル稼ぐ方法)という本の中で著者のJohn Chapmanは、口頭で返事をする場合はどんなときでも、申し出の内容について検討するとともに会社側にある程度のプレッシャーを与えるために30秒待ってから伝えるとよい、と書いている。そうした駆け引きが嫌なら、「大変ありがたいのですが、もう少し自分で考えてパートナーと話し合う時間をください」と言えばよいだろう。

 すぐにでも人が必要なポジションならある程度柔軟に対応する必要があるだろうが、1日や2日返事が遅れても会社側にはほとんど影響がない。だが、あなたにとっては貴重な時間になり得る。会社のオフィスを出て一晩ぐっすり眠ったあとなら、オファーの内容をもっと冷静に把握できるはずだ。会社側の代表者がそうした筋の通った要求をなかなか認めてくれないようなら、あなたもその会社について考え直すほうがよいかもしれない。

まとめ

 ここで紹介したやり方は不自然で手が込みすぎている、と思われるかもしれない。特に、人との駆け引きを嫌がる典型的な内向型開発者の場合はそうだろう。しかし、IT部門で採用の決定を下す担当者のほうも同じような考え方をしているはずだ。場合によっては、あなたと同じくらい不安を感じているかもしれない。

 自分の利益になるように振る舞うのが得策であることを思い出せば、ここで紹介したヒントを使うことにも抵抗がなくなるだろう。また、不愉快な気分になってその仕事をあきらめるしかなくなるほど強引な使い方をしない限りは、損をすることもめったにないはずだ。これらのヒントに念頭に置いて前もって予行練習をすれば、自分にとって最適な条件を提示する準備が整うので、ずっとリラックスした気持ちで面接に臨めるだろう。

ITManagersJournal.com 原文