Adobe、RIA分野の新戦略を明らかに――Media Playerベータ版の公開や、Webアプリ・ベンダーの買収などを一挙に発表

 米国Adobe Systemsは10月1日、シカゴで開催中のテクニカル・コンファレンス「ADOBE MAX 2007 North America」(9月30日-10月3日開催)において、開発中のビデオ再生ソフトウェア「Adobe Media Player」のベータ版を「Adobe Labs」で公開することを明らかにした。また、コラボレーションやSaaS(Software as a Service)、リッチ・インターネット・アプリケーション(RIA)分野での、同社の新戦略も発表する予定だ。

 Adobe Media Playerは、無料で利用できるソフトウェアである。AdobeでFlash担当グループ・プロダクト・マネジャーを務めるジェン・テイラー氏によると、 Adobe Media Playerの正式版は、2008年3月のリリースを予定していたが、現在の計画では、2008年6月末のリリースになる見通しだという。

 Adobe Media Playerは、YouTubeなどで採用されているFLV(Flash Video)形式のビデオ・ファイルが再生できる。ストリーミング再生したり、いったんコンピュータにビデオを保存し、あとでオフライン再生したりすることも可能だ。なお、Windows版とMac OS X版が提供される予定だという。

 また同社は、CBS、PBS、Yahoo!、Blip.TV、フォラTV、メレディス、モーションボックス、マイトゥーンズ、STIMTVなど、多数のコンテンツ・ベンダーと提携したことも明らかにした。

 これらのコンテンツ・ベンダーは、Adobe Media Playerに対応するコンテンツを、無料で提供するという。Adobeは、コンテンツ・ラインアップを充実させることで、同ソフトウェアに対する需要が拡大することをねらっている。

 なお、コンテンツ・ベンダーから無料で提供されるコンテンツには、広告も含まれるようだ。広告はコンテンツの再生前/後に表示されたり、 コンテンツ再生中にバナー広告が表示されたりといった形で提供されるという。

 調査会社IDCでアナリストを務めるメリッサ・ウェブスター氏は、Adobe Media Playerを以下のように評価している。

 「Adobeは現在、Webブラウザ上でビデオを再生できる『Flash Player』を提供している。Adobe Media Playerは、同社のRIA戦略の足りない部分を補完するものだ」

 NPDグループでアナリストを務めるクリス・スウェンソン氏によると、 デスクトップ・メディア・プレーヤ分野でいちばん普及しているのは、Microsoftの「Windows Media Player」だが、Appleの「QuickTime」や、RealNetworksの「RealPlayer」も数1,000万人のユーザーを擁しているという。

 Adobe Media Playerの強みは、Flashビデオの再生が容易なことだ。他社のプレーヤでFlashビデオを再生する場合、ユーザーは特別なコーデック・ファイルをダウンロードし、インストールしなければならないケースが多い。しかし、Adobe Media Playerを利用すれば、そうした手間は不要だ。

 またAdobeは同日、Webベースのワープロ・ソフトウェア「Buzzword」を開発/提供する米国バーチャル・ユビキティを買収したことを明らかにした。

 さらに複数のユーザーがオンライン上でドキュメントを共有/編集し、そのコンテンツをWikiやWebページで公開できる新サービス「Share」のベータ版もリリースした。

 IDCのウェブスター氏は、「Adobeはワーカー・コラボレーション・ツール分野へ積極的に参入しているが、将来的に複数の市場で、Microsoftと競合することになる」と指摘する。同氏によると、その最たるものは、複雑なコラボレーション・ソフトウェアの購入/導入に必要な予算やIT部門がない、中小規模企業市場だという。

 BuzzwordがWeb会議アプリケーション「Adobe Acrobat Connect」のような既存ツール群に加わることで、同社は同分野において、Microsoftよりも一歩リードすることになりそうである。

 Buzzwordで作成された文書は、RTFやWord形式にエクスポートすることが可能。Adobeによると、将来的にはPDF(Portable Document Format)やODF(OpenDocument Format)形式のサポートも計画されているという。

 Adobeで製品管理ディレクターを務めるエリック・ラーソンは、BuzzwordとShareを無料で提供する予定であることを明らかにした。

 なお、IDCのウェブスター氏は、Adobeがこれらソフトウェアを無料で提供することは、AdobeのSaaS戦略の一環だと指摘したうえで、以下のように分析している。

 「AdobeはSaaSをはじめとするRIA分野に取り組み始めたばかりだ。今後同社は、さまざまなサービスや機能を提供するだろう。今回の発表は、その第一歩のようだ」

(エリザベス・モンタルバノ/IDG News Service ニューヨーク支局&エリック・レイ/Computerworld オンライン米国版)

米国Adobe Systems
http://www.adobe.com/

提供:Computerworld.jp