Microsoftのライセンス承認を巡って議論が激化するOSIメーリングリスト

 Open Source Initiative(OSI)のLicense-Discussメーリングリストでは、Permissive License(MS-PL)をオープンソースライセンスとして正式に承認するように求める依頼がOSIに届いてからここ数日、やりとりが激しくなっている。MicrosoftのソースプログラムディレクタJon Rosenberg氏の投稿には「当社は、このライセンスが知的財産保護を織り交ぜた平易で簡潔、そして寛大な条項を備えていることで、他に類を見ない価値をオープンソースコミュニティに提供するものと信じている」と記されていた。

 Rosenberg氏は、MS-PLを新BSDライセンスやApache 2.0ライセンスと比較して、次のように述べている。「しかし、新BSDライセンスには明示的な特許権の許諾が含まれていない。さらに我々は、平易で簡潔、そしてわかりやすいライセンスの作成に努めた」

 MS-PLの下でライセンスされたコードは、ほかのどんなライセンスの条項の下でも再配布できない。ただし、MS-PL以外のライセンスで認められている限りにおいて、その条項の下で公開されている成果物と組み合わせることはできる。

 License-DiscussコミュニティのアクティブメンバーChuck Swiger氏は、MS-PLをGPLの排除を狙ったものと考えている。「…MS-PLはBSD/MIT/Zlib/Apache2とはうまく組み合わせられるが、GPL系ライセンスではそうはいかない」。それでもSwiger氏は、自らが「懐の深いライセンスの模範例」と呼ぶ新BSDライセンスにMS-PLが「かなり近い」ことを認めている。

 License-Discussコミュニティの別のメンバーDonovan Hawkins氏が気に入らないのは、別の形でライセンスされたコードをすべて分離しておかなければならないというMS-PLの要件である。彼は次のように書いている。「プロジェクトで使用するオープンソースの機能に大規模な変更を加えるというケースが考えられる。自分が改変した成果をGPLの下で公開したいのだが元のコードがMPLやMS-PLだった場合、この機能にはどんなライセンスを適用すればよいのか。行単位でコードを分割して別々のライセンスを適用するのだろうか」

 展開が面白くなってきたのは、古参のOSIメンバー、オープンソース支持者であってGoogleのオープンソースプログラムマネージャを務めるChris DiBona氏が、以下のように議論に加わってきてからだ。

議論から外れた意地の悪い質問と受け取られるかもしれないが、この場で質問させてほしい。OSIに対する今回の承認要請には、Microsoftのどんな思惑が込められているのだろうか。

a)シェアドソース(Shared Source)という市場を混乱させる用語の使用を止める
b)これらのライセンスの位置付けを、明らかにフリーでもOSD準拠でもないその他ライセンスとは異なったものにすることで、市場をさらに混乱させる
c)オープンソースソフトウェア(特に、GPLの下で公開されているもの)の本質について引き続き誤った情報を広めていく
d)オープンソースソフトウェアの利用を阻むための、特許とOEM業者の価格設定を操作する企みによる脅迫行為を中止する

たとえこうした意図がないとしても、OSIがあなた方Microsoftの活動を承認する必要がどこにあるだろうか。OSIが保護を表明しているオープンソースライセンスの利用者を、コミュニストや社会悪と呼んだ企業だというのにだ。こうしたライセンス承認の要請が歩み寄りを装った新手の攻撃ではない、と我々は言い切れるのだろうか。

 この問いかけに応じたのが、それまで沈黙を守っていたMicrosoftのプラットフォーム戦略担当ゼネラルマネージャBill Hilf氏だった。彼はこう記している。「あなたの質問が我々のライセンス提出にどのように関係しているのかよくわからないが、このメーリングリストと承認依頼の手続きが存在するのはまさにこうしたライセンスの承認を進めるためだと私は信じている。あなたはMicrosoftのマーケティング用語、当社Webサイトでライセンスを公開した際のプレスリリースの文言、OEM業者との連携の取り方といったものに疑問を抱いているようだが、http://opensource.org/docs/osdを見てもそうした点に言及している箇所は見当たらなかった。このような点についての議論をお望みなら、喜んで応じるつもりだ。こちらも、Googleによるオープンソースソフトウェアの利用やそのねらいについては数々の疑問を抱いている。しかし、こうした話題はライセンスのOSD準拠性とは関係がないので、メーリングリストの外で、できれば直接会うか電話を通して話し合いたい。

これは興味深い展開だ!

 またHilf氏は、Microsoftが“シェアドソース”という用語を新たに作り出した理由の1つは「こうしたライセンスがOSIによって承認されていないことを示すため」であり、MicrosoftにはOSIに提出されていないシェアドソース・ライセンスもある、と述べている。一方でHilf氏は「そうしたライセンスがオープンソースコミュニティにとって重要だとしたら、どこで/どのようにWeb公開するかについてもっと具体的に伝えてほしいという要望にも応じよう」とも記している。

 DiBona氏もまた、似たような条項を持つOSI承認のライセンスがすでに数多く利用できるというのにMicrosoftが独自のオープンソースライセンスを必要とする理由を知りたがった。これに対してHilf氏は、すでに非常に多くのプロジェクトがMicrosoftのライセンスを利用していて「そうした既存コードがかなり大量にあるため、その作者や利用者は当社のライセンスがオープンソースとして認められることで恩恵を得ることになる」と説明した。

 また、コミュニティのメンバーでLinpro ASの上級ソフトウェア開発者Dag-Erling Smørgrav氏は、DiBona氏のMicrosoftに対する偏見を次のように非難した。

基本的に、Chris(DiBona氏)は、ライセンス自体の利点とは関係なく、自らが認めない企業から出てきたライセンスをOSIに承認してほしくないのだ。彼の気持ちは私にもわかる。実を言うと、個人的にFSFには賛同していないのでOSIにはぜひともGPLv3の承認を拒んでもらいたいと思っている。

だがそうなると、私は別として、OSIはあらゆる人からの信用を失って急速にその存在意義を失うだろう。Microsoftが提案したライセンスについても同様で、十分な検討を行い、OSDに準拠した内容だとわかれば承認を行うべきである。OSIには信用を失って意味のない存在になり下がってほしくないし、Microsoftが提案しているライセンスはどちらもOSDに準拠していると私は思う。

これまた興味深い内容だ。

DiBona氏は以下のように返答している。

OSIは無闇に評判を気にするべきではない。これはライセンスについての議論ではなく、最もタチの悪い競争相手に手を差し伸べるのが賢明かどうかという問題だ。

あなたはこれを個人的な反対意見として片付けたいのだろうが、どんな検索エンジンで調べても1998年のWindows返金の日(Windows Refund Day)以外のことでMicrosoftに関する情報を私から直接見つけ出すのは難しいだろう。また、これをきっかけにしてFSFやGoogle、あるいは私個人についての議論に持ち込もうとするのは完全な問題のすり替えであることに気付いてほしい。とにかく、あなたの言い分はよくわかった。どう見ても途方もなくすばらしいGoogleのオープンソースに対する取り組み(PR活動、プレス発表の内容、新しいライセンスの作成に頼らないマーケティングなど)に関しては、ぜひとも別のスレッドで議論させてもらいたい。

Tina Gaspersonは権威ある業界誌のいくつかでビジネスおよびテクノロジ関連の記事を執筆している。1998年からフリーランスのライターとして活躍。

Linux.com 原文