FSF、GPLv3をリリース──策定プロセスのまとめと今後の活動

 FSF(フリーソフトウェア財団)が今日午後、GPLv3(GNU一般公衆利用許諾契約書バージョン3)の正式リリースを記念した式典をボストンにある同財団のオフィスにおいて行なう予定だ。式典の主な内容は、地元のフリーソフトウェア活動家たちを招いた昼食会と、新ライセンスへ移行するいくつかのGNUプロジェクトの発表だという。またFSFの代表であり設立者のRichard M. Stallman氏による、開発者がGPLv3へ移行すべきである理由についての演説も行われるという。なおこの式典の模様はビデオとしてFSFのウェブサイトで公開される予定とのことだ。

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Richard M. Stallman氏

 また今日、新しいLGPL(GNU劣等一般公衆利用許諾契約書)の最終版も初公開される。なおGPLv3では、LGPLは別個のライセンスではなくなり、GPLの特殊なケースとして扱われることになる。

 GPLv3は、2年間に渡るFSF内部での構想と、その後の18ヶ月に渡る活発な公開議論を経てリリースされた。フリーソフトウェアコミュニティにとっても法律コミュニティにとっても初の試みとして、FSFはSoftware Freedom Law Centerと協力して、GPLv3の作成のために、50以上のコミュニティ/企業の代表からなる4つの委員会を組織した。また、世界中で開かれたミーティングにおいてや、誰でも意見を述べることができるようにしたウェブサイト上で、ライセンスの文言についての一般からの意見を募集した。実際のライセンスは、Stallman氏やFSFの前コンプライアンス・エンジニアのDavid Turner氏などの専門家からの意見を聞きながら、主にSoftware Freedom Law CenterのEben Moglen氏とRichard Fontana氏とによって執筆された。

 そのような策定プロセスに対してコミュニティの一部からは、委員会があるとは言え、委員会は問題点について助言することしかできないということについての批判も聞かれた。また、委員会の1、2名の委員が、実際には活動をしていなかったり、様々な関係者が持つ利害についての懸念を抑え付けようとしていたりしていると主張する人もいた。

 また最初のドラフトについての批判が出るのにも、そう時間はかからなかった。最初のドラフトは、2006年1月にリリースされるとすぐに、Debianコミュニティによる詳細な批評(翻訳記事)の対象となった。なおその批評では、ライセンス内の一部の文言のためにGPLv3がDebianプロジェクトのフリーソフトウェアの基準と相容れないものになることが懸念されていた。

 ドラフト第2版ではさらに一層の批判が沸き起こり、約20人のカーネル開発者たちがライセンスの改訂の必要性を疑問視する公開書簡を発表した。また、様々なロックダウン技術(とりわけFSFが「Tivo化」と呼ぶ、 ハードウェアに対するロックダウン技術)の効力を抑制することをねらったドラフト内の文言は開発者たちの「選択の自由」を不当に侵害するものだというLinus Torvalds氏の見解を伝える記事(翻訳記事)も各メディアで多数発行された。Torvalds氏はまた、FSFとその目標に対する根強い不信感を表明し、LinuxカーネルはGPLv3に移行せずGPLv2を採用し続けるということを発表した。Torvalds氏の態度は2007年3月にリリースされたドラフト第3版に対しては軟化したが、Tivo化条項に対して同氏が不服であるのは現在も変わっていない。

 以上のような批評に対してFSF常任理事のPeter Brown氏は3月、「GPLv3では何ら新しいことはしていない。単なる更新だ。人々は、われわれがソフトウェアに関係する以上のことをしていると主張する。だが、GPLv2を実際に読んだ人なら誰でも、フリーソフトウェアのねらいが人々に自由を与えることにあることを知っている。自由を奪うことがGPLv2の役割だなどと言う人々は、この点をすっかり見過ごしている」と答えていた。

 当初の予定ではGPLv3の策定プロセスは2007年1月に完了するはずだったが、2006年11月にMicrosoftとNovellとの間で締結された契約によって新たな課題が生じ、将来的にそのような類いの契約が行なわれるのを防止したいとする考えから、ドラフト第3版は3月まで延期された。

 ところがそのドラフト第3版には2007年3月28日以前に行なわれた契約を例外的に除外するという条項が含まれていたため、フリーソフトウェアコミュニティの多くの人たちの反発を招いた。しかしBrown氏によると、この条項は、Novellをコミュニティから追放することなく、同様の契約が今後行なわれないようにするための妥協案として必要だったという。

 ドラフト第3版はまた、ACT(Association for Competitive Technology)による批判も受けた。ACTは、GPLv3は「GPLコードに対する開発の寄与とは関係なく……サードパーティに対し特許権を放棄することを強制する」と述べる論文を公開した。しかし、ACTはMicrosoftの隠れみのであるというのが一般的な見解だという事実は別にしても、IBMやSun Microsystemsのような有数の特許保有者がGPLv3の特許についての文言に対し公に批判の立場を示していないどころか、GPLv3の最終版がリリースされたらすぐに採用する意向を発表しているということを考えても、論文の内容は信憑性に欠けるものだった。

 そして5月28日、ドラフト最終版がリリースされた。Brown氏は最終ドラフトを「われわれ全員が到達したいと考えていた最良の合意」と表現している。この最終ドラフトのリリース以降のプロセスは、ほとんどが計画通りに進み、Brown氏によると「これまでのところ大きなミスはまったく発見されていない。軽微な修正はたくさん行なわれたが、5月28日にリリースされた最終ドラフトから大きな変更はなく、ほとんどの人は新たに正式にリリースされたGPLv3を見ても最終ドラフトと区別がつかないだろう」とのことだ。

今後の活動

 GPLv3の最終リリースを行なった今、FSFの最重要事項の一つは、今後数ヵ月以内にGPLv3に移行することをGNUプロジェクトの開発チームに対して奨励するということになる。また、ネットワーク越しでフリーソフトウェアを利用する場合のためのGPLの変種であるAffero GPLライセンスと、GFDL(GNUフリー文書利用許諾契約書)の改訂版も間もなく完成する予定だ。さらにFSFは、フリーソフトウェア活動家の活動をコーディネートするためのLibrePlanetというプロジェクトをこの秋に開始することも計画している。

 とは言えBrown氏によると、GPLv3ではこれまでに多くの文言が変更され、また批判もあったことから、現在のところ次の大きなステップは最終的にできあがったGPLv3を人々に理解してもらうことだという。Brown氏は「われわれはGPLv3のプロセスが終わったとは考えていない。ある意味、今日でやっと必要な文言を揃えることができただけだ。つまりこれからようやく作業が始まるのだとも言える。人々にGPLv3を理解してもらうためには、実際の文言自体を用意すること以外にもたくさんのやるべきことがある」と述べた。

 ライセンス関連の情報を追跡するアプリケーションなどの製品を提供しているソフトウェアベンダのPalamidaは、5,500を越えるプロジェクトがGPLv3への移行を予定していると見積もっている。しかしBrown氏は、GPLv3の採用は徐々にしか行なわれないだろうと考えている。「GPLv3は今後何年間にも渡って使用されることをねらって作成されている。そのため、誰も彼もが今すぐに移行するとは期待していない。とは言っても時が経つにつれて人々が移行の利点を理解してくれることを願っている。しかし実際にどうなるかは数年後までわからないだろう」。

 Brown氏はこの18ヶ月間を振り返って、Torvalds氏やその他のカーネル開発者から激しく異議が唱えられたことを残念に思っているという。しかし意見のやり取りにより、(Brown氏の表現によると)プログラマに選択肢を与えることを主眼としているオープンソース支持者たちと、ユーザの自由を広げることを主眼としているフリーソフトウェア支持者たちとの違いが明確になったと指摘した。

 Brown氏は「GPLv3策定プロセスの中でもっと多くの時間をカーネルハッカーたちとのコミュニケーションに当てることができれば良かったと皆思っていると思う。そうすれば『こちら側の人たち/あちら側の人たち』的なアプローチではなく、もっと生産的な議論を行なうことができたのかもしれない。その点はいろいろな意味で残念だった」と述べた。

 またBrown氏は「一方で、彼らが本当に望んでいることをはっきりさせるために長い時間がかからずに済んだという意味で、議論が先に進むことになったという観点からは良いことでもあった。私たちは、GPLv3とTivo化についてのLinus Torvalds氏の考えを極めてはっきりと把握することができた。彼は、Tivo化に問題はないと考えているのだ」とも続けた。

 さらにBrown氏は「GPLv3の策定プロセスの副次的な効果として今や、より多くの人々が、自分たちが使用しているのはLinuxというカーネルを採用した『GNUオペレーティングシステム』であるということを理解するようになった。また、カーネルやオペレーティングシステムの背後にあるライセンス問題や主義主張についても知ることになった。そういう意味で私としては、これまでのところGPLv3は教育的な観点からは大成功だったと思っている」と述べた。

 Brown氏はまた、他のプロジェクトがライセンスを改訂する際には今回のGPLv3の改訂プロセスを参考にして欲しいと思っている。「一般の人々の意見に耳を傾けるという今回の体験が他のプロジェクトにも引き継がれて行くと思いたい。このような問題をコミュニティ全体と議論することは非常に有益なことだと思う。そのようなプロセスは、フリーソフトウェアという公共物にとっては不可欠のことであり、他の大きなプロジェクトがライセンスを改訂する際には是非検討すべき事柄だ」。

 なお、GPLv3はOSI(Open Source Initiative)の認定を受けるためにOSIに提出されたとのことだ。

Bruce Byfieldは、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文