Gentooプロジェクト、開発者間の対立解消に難航
CoCでは、フレーミングや煽りの他、独善的になったり「頻繁な誤情報の提供」を行うなどといった「容認することのできない行動」が具体的に明文化されている。そしてCoCの監督者は、処罰が必要かどうかを決定することができる。なお処罰の内容には、警告にとどまらず、開発者権限の剥奪まで含まれている。
CoCの目的がプロジェクトを「去る」開発者の流れをくい止めることだと言うのなら、CoCはまだ機能しているとは言えない。というのも、3月15日にCoCが投票により採択された後にもGentoo開発者のAlexandre Buisse氏が辞表を出しているためだ。辞表では、Gentoo CouncilによるCoCの採用が「ばかばかしいまでに早急」だったということと、Gentooプロジェクトの至るところで勃発している「誰がさらにほんの少しの」権力を得るかという「果てしなき闘争」に疲れてしまったと述べられている。
背景
Gentooプロジェクトにおけるいちばん最近のフレームの応酬は、Gentoo Councilの3月の会合の議題に関するgentoo-devメーリングリスト上での議論を発端として始まった。このフレームの応酬では、Gentooプロジェクト創始者のDaniel Robbins氏が、PMS(Package Manager Specification)はGentooの正式プロジェクトなのかどうかという点について、Gentooプロジェクト開発協力者のCiaran McCreesh氏と話し合いをしたがっているようだった。なおRobbins氏は2004年4月にGentooプロジェクトを離脱したが、このフレームの応酬が起こった週にGentooプロジェクトへの復帰を果たしたばかりだった。
そして議論が白熱してくると、Robbins氏は「Ciaran(McCreesh氏)をgentoo-devメーリングリストから削除する道を探る」と述べたが、さらにその後、最終的にGentooとはもう関わりたくないと述べた。
このことについての取材に対しRobbins氏はコメントを控えた。
一方、McCreesh氏(正式なGentoo開発者ではない)は、Robbins氏が「ここ数年の間にGentooプロジェクトで起こったことについて何も知らずに戻ってきた」とコメントした。
この種のいざこざは、フリーソフトウェアコミュニティにとっては目新しいことではない。例えば9年ほど前にも、開発者間での激しい意見の食い違いをともなう同様の対立から、Bruce Perens氏がDebianプロジェクト及びSoftware in the Public Interest社からの離脱を宣言した。とは言えGentooプロジェクトの場合、好戦的な性格の人の割合が特に多いようだ。
2月にGentooプロジェクトを離脱したDiego “Flameeyes” Pettenò氏によると、同氏がプロジェクトを離脱したのは「別の開発者が自分の意にそぐわないことを私(Pttenò氏)が行なう度に」「たび重なる侮辱」をしたということと、「そのような状況に、現在のDevelopers’ Relations(開発者連係)チームがうまく対処することができていないということ」が理由なのだという。
Pettenò氏の場合、プロジェクト自体に興味を失ったわけではないようだ。Gentooプロジェクトから正式に離脱したものの、Pettenò氏は現在もなお代理人経由でGentooプロジェクトに協力している。Pettenò氏によると「時間があれば、今でもxine-lib関連の作業をしているよ。まだ連絡を取り合っている仲間を通していくつかのパッケージを保守することで、今でも折りに触れてGentooを良くしようとしているんだ」とのことだ。
またPettenò氏は、同氏の個人プロジェクトである「Rust」(Rubyの拡張生成器)にしばらく取り組んだ後、Gentooプロジェクトに復帰することも考えたいとしている。「その後Gentooが変わったのなら、多分復帰を考えると思う。Gentooでの作業は気に入っていたし、サポートしてあげられないままになってしまっているユーザに対する責任を今も感じているからね」。
Gentooプロジェクトの広報担当でCoCの作者であるChristel Dahlskjaer氏は、このような状況は部分的にはGentooプロジェクトの急成長に原因があると考えている。「Gentooプロジェクトはここ数年飛躍的な成長を続けています。この成長をうまく『コントロール』できていませんでした。またそもそもこのような急激な成長は予定外のことでもありました。つまり私たちは現在、自分たち自身の成長にどう対応したら良いのかということをコミュニティとしてその場で必要に応じて学んでいるところなのです」。
Dahlskjaer氏によるとGentooプロジェクトの抱える問題は「コミュニティの大きさに比例」しているとのことだ。Dahlskjaer氏は、Gentooプロジェクトの大きさが原因で「打ち解けた雰囲気がなくなり」、開発者たちは「互いに、疑わしきは罰せずではなくむしろ罰するという傾向になってしまっている」という。
ではGentooプロジェクトはどれほど大きくなったのだろうか。Robin Johnson氏が最近投稿した、Gentoo開発者の居住地域についての記事によると、Gentooプロジェクトには319人の開発者がいるのだという。ただしJohnson氏によると「Developer Relationsチームにはサボり屋が多いから、近いうちにこの数字は(正しく更新されると)小さくなるだろう」としている。
なお他プロジェクトと比較してみると、Debianプロジェクトには正式開発者が1,013人、またUbuntuプロジェクトにはメンバーとして承認されUbuntu Code of Conductに同意した正式メンバーが275人いる。ユーザベースと開発参加者という観点ではどう見てもUbuntuの方がGentooよりもずっと急速に成長しているが、UbuntuではGentooやDebianで起こっているような紛争はこれまでのところほとんどなかった。
またMcCreesh氏によると、Gentooプロジェクトの開発者の入れ替わり率はこれまでと「だいたい同じ」だという。さらに、新たな開発者の受け入れ手続きに関しても「ゆっくりと向上」しているのだという。
McCreesh氏によると、「新たに開発者となる人たちすべてが非常に優秀な人たちばかりと言うわけではないけれども、少なくとも現在のGentooプロジェクトでは、grepが何かも知らないような人や最悪のタイプのへまをしでかすような人を開発者として認めてしまう可能性はかなり低い。広く言われていることは事実ではなく、Gentooは新たな開発者についても去っていく開発者についても、見つけるのには苦労していない」とのことだ。
とは言えMcCreesh氏は、Gentooプロジェクトはここ2年ほど「便利なものやクールなものを新しく生み出すことができていない。現在のGentooのシステムを使っても、2年前のシステムとほとんど同じものしか得られない。なのに、一方で、通常のインストールのサイズがより大きくなったこととモジュール型のパッケージとに起因して、以前よりずっと複雑になってしまったという問題が出てきている。portageでは、性能的な面からも管理的な面からも、ユーザがインストールする数百から千余りのパッケージを扱うことが事実上不可能になっている」とも述べた。
CoCには効果があるのか?
McCreesh氏は、CoCがGentooプロジェクトの改善に役立つというように楽観的に考えているわけではない。「効果はないと思う。CoCのシステムをみんなで罵倒することに時間が費やされるだけだろう……Gentooにはすでにモデレータ付きのフォーラムがあるけれども、開発作業の役に立っているかと言えばまったく役に立っていない……規則はあっても、その実施には一貫性がなく、しかも派閥外の人にだけ適用される。そのため能力のある人たちが何かをしようとするのが、フォーラム上ではメーリングリスト上でよりもさらに困難なことになってしまっている」とのことだ。
またGentoo開発者のJoshua Jackson氏も、CoCの効果には懐疑的だ。「何らかの変化が見られるとは思えないね。そう言うと意地悪な感じだけれど、でもやっぱり何も変わらないと思う。2、3週間はおとなしくなるかもしれないけれど、その後はまた今まで通りの同じことの繰り返しになるんじゃないかな」。
ただしMcCreesh氏は、CoCが故意の誤情報の伝達を規制している点については「少なくとも興味深い試みではあり、これまでの取り組みよりはうまく行くことになるかもしれない」と言う。
「もちろん彼女(Dahlskjaer氏)が見事にやってのけて、今後のGentooプロジェクトの改善にCoCが役立つ可能性はある。ただ僕は、CoCが“何かをしないといけないからやった”だけのこと以上ではないような気がものすごくしている。とは言っても、実際にそうなのかどうかは、時間がたてば明らかになるだろう」。