新しいOpen Font Library
クリエイティブ・コモンズのコミュニティ開発者でOFLのコーディネートに尽力したJon Phillips氏は、当初新しいサイトの立ち上げに気乗りしなかったという。「あまりたくさんのプロジェクトに着手すると収拾がつかなくなってコミュニティにとってもよくないと思ったのです」。Phillips氏は、まずはOCALに専念して順調に進行させたいと考えていたが、コミュニティからの要望が強く、OFLの担当に志願する者たちも現れたため、考え直した。
Phillips氏は、OFLやOCALのようなサイトに関心を寄せるコミュニティは、フリー/オープンソースソフトウェア(FOSS)プロジェクトのコミュニティとは異なると話す。FOSSプロジェクトの場合は大抵、開発者、ときにエンドユーザが主な対象であるが、フリーアートワークやフリーフォントのサイトの場合はまた別のさまざまな役割が必要になる。まず作品をアップロードする投稿者。これは原作者の場合とそうでない場合がある。次にライブラリアン。アップロードされた作品を分類し、著作権の問題の有無(ソースコードよりはわかりやすい)を確認する。コミュニティの他のメンバーは作品のレビューやタグ付けという形で寄与する。OCALには毎日平均100件近いアップロードが寄せられており、相当の労力が投入されている。
まだ新しいOFLは、OCALのように活発には動いていない。しかし、フリーフォントには独特の問題がある。コンセプトそのものが受け入れられ始めて日が浅いだけになおさらだ。Phillips氏は、書体の何が著作権の対象になるか(基本的にはデザインではなくファイル)まだあまり理解されていないと話す。コミュニティ内では、書体全体をライセンスの対象にするか、文字の集合のクリップアートを対象にするかという議論も交わされているという。また、多くのデザイナが広範なUnicode文字を網羅したいと考えるため、フリーフォントファイルによっては普通のクリップアートファイルより大幅にサイズが大きくなるという問題もある。
Phillips氏は、ライセンスの選択肢が最も大きな課題ではないかと考えている。現在は、OFLにアップロードされたフォントのほとんどがパブリックドメインにあるが、OFLでは別のライセンスを検討している。Phillips氏自身はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスがよいという意見だ。これであれば既に複数の言語に翻訳されているし、GNU General Public Licenseのようによく使われているフリーソフトウェアライセンスではフリーフォントの多くの問題に対応できないというのがその理由である。多くのタイポグラファーが、自分はアーティストであり、自分の作品を公開するにしてもある程度コントロールしたいと考えているという点も大きい。ソフトウェア開発の場合と比べ、「フォント開発者は自分のソースを保護したい意識が強い」とPhillips氏は話す。
こうしたさまざまな問題に対処するため、OFLの標準になりそうなのがSIL Open Font Licenseである。これは、Free Software Foundationに承認されたライセンスであり、タイポグラファー特有の問題に対処できるように作成されている。ただ、現在はサイトのバックエンド(CcHostで実行)ではすべてのアップロードが自動的にパブリックドメインになる。デフォルトはそうだが、アップロードしたフォントをOpen Font License下にあると発表している投稿者が少なくとも一人あり、今後追随する者も出てくるだろう。「要は、投稿者が実際にそうしたいのかどうか、また、どうすればより多くのフォント開発者をこのサイトに呼び込めるかです」とPhillips氏は話す。
このサイトは新しい――先日終わったばかりのロゴ・コンテストの結果発表もまだこれからというほど新しい――にもかかわらず、既に相当数のフリーフォントが集まっている。OFLにこれまで集まったフォントは26種。その多くが何人かの同じ投稿者からのアップロードだ。各フォントの用途をサイトの情報だけから判断するのはまだ難しいが、今後のタグ付けによってそうした問題も最終的には解決するとPhillips氏は見ている。
今のところ本文テキストに適したフォントは少ないながら、Tuers’ CardboardとHopfer Hornbookという2つのクラシックなフォント、PierceとInk Calligraphyという2つのカリグラフィー風フォントがある。ベーシックな斜体付きフォントもある。Tuffy、Let’s Trace、Angularなどがそれで、ビクトリア朝の文字から作成したPugsleyもそうだ。ディンバット(絵文字)としては、Rat Pawsのほか、Animal Silhouettesという拡張中の作品や、ハンス・ホルバイン(子)の絵を基に作成されたブロック頭文字一式Alphabet of Childrenもある。
とはいえ、アップロードの大半を占めるのは装飾的あるいは斬新なフォントで、グラフィックスと併用する短いテキスト向けである。たとえば、Foldというフォントは折り紙風、The Art of Illuminatingは中世手書き文字風、!Crass Roots OFLはステンシル風といった具合だ。
GentiumやLinux Libertineのように、有名なフリーフォントでまだここにアップロードされていないものもあるので、このサイトはまだまだこれからという段階だ。
このサイトには、他の作品からの派生作品を集めたRemixページもあるが、これはまだあまり利用されていない。
数年前まで、FOSSの中でもフォントはなおざりにされている分野だった。しかし、GNU/Linuxデスクトップの人気増大とデザイナ向けソフトウェアの登場で状況は変わりつつある。「Inkscapeによるデスクトップのベクトル化が、本当にデスクトップを美しいものに変えつつあります」とPhillips氏は話す。こうした空気の中、OFLのコンセプトは機が熟しているといえそうだ。
Bruce Byfield――コンピュータ・ジャーナリスト。NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalに寄稿している。