レビュー:LinuxディストリビューションSimplyMEPIS 6.5
前回、私がSimplyMEPISをレビューしたとき、このディストリビューションのベースになっていたのはUbuntuではなくDebianだった。今回のものは一部Ubuntuのパッケージがベースになっているので多少Kubuntu風の外観を予想していたのだが、実物にはやはり独特の雰囲気がある。内部ではUbuntuのDNAを受け継ぎながらも、MEPISのアイデンティティは健在だ。
SimplyMEPISを使い始めるには、ISOイメージをダウンロードしてCDに焼き、そのCDをマシンに入れてリブートする。SimplyMEPISはライブCDとして機能するが、ハードディスクにインストールすることもできる。なお、ハードディスクへのインストールは、Webブラウジングやゲームなど他のことをしている間に行える。
今回は、ノートPC2台のほか、デスクトップマシンのVMware Server環境でもSimplyMEPISを動作させてみた。IBM ThinkPadでは搭載ハードウェアの大部分を正しく認識して快適に動作したが、Pentium 4ベースのマシンの1400×1050という画面解像度はうまく検出できなかった。結局、この解像度の問題は「dpkg --reconfigure xserver-xorg
」を実行してXを再設定することで解決することができた。
SimplyMEPISのインストール作業は、UbuntuのインストーラUbiquityに匹敵するほど簡単だ。SimplyMEPISでは、ブート時に起動するサービスなどいくつかの追加質問に答える必要があるが、インストーラを起動してクリックを数回すればインストール処理が始まる。
SimplyMEPISには、最近のAppleハードウェア(Intel Mac)を使っている人々のために、MacでSimplyMEPISのインストールと設定を行うためのユーティリティも含まれている。
このOSのインストールは、開始から完了まで30分ほどかかる。インストール完了後、リブートすればSimplyMEPISを使い始めることができる。
SimplyMEPISには、各種デバイスおよびサービスのセットアップを支援する「アシスタント」機能が用意されている。いくつか欠けている点もあるが、MEPISアシスタントは簡単に利用できる。例えば、MEPIS Network Assistantでは、予めアクセスポイント名(SSID)がわかっていれば容易に無線接続を設定できる。ただし、このアシスタントには検出の機能がないため、無線ネットワークの存在はわかっているがアクセスポイント名がわからない公共の場では、無線接続の設定がうまくいかない恐れがある。
デスクトップ効果の導入
SimplyMEPISのライブCDを使えば、ハードディスクへのインストールを行わなくても、Berylによるデスクトップ効果を堪能できる。ATIグラフィックチップを搭載した私の2台のノートPCでは、どちらも問題なくBerylが動作した。Berylのオプションはどれも私の好みに合っていたが、Beryl ManagerとBeryl Settings Managerの使い方には少し戸惑いを感じた。こうしたデスクトップ効果は従来のデスクトップ環境にはない機能として多くのユーザが楽しみにしている部分なので、初めてBerylを使う人のためにチュートリアルがほしいところだ。
見た目の派手さは楽しめるが、その動作はあまり安定していない。MEPISの関係者はBerylの採用を実験的なものとしているが、私はユーザにデスクトップ効果を提供するのならCompizツリーのほうが良かったのではないかと思う。もちろん、BerylとCompizは統合の意向を示しているのでこの議論は今から数か月後には意味がなくなるだろうが、SimplyMEPIS 6.5の開発時点では選択肢としてCompizのほうが優れていたということだろう。わざわざこんなことを述べているのは、Compizを備えたUbuntu FeistyのベータリリースのほうがBerylとSimplyMEPISの組み合わせよりもずっと安定していることを知っているからだ。
私がSimplyMEPISを使っていて遭遇した問題を挙げておこう。まず、Firefoxは標準のKDEデスクトップでは問題なく動作するが、Berylの下で実行すると非常に不安定になる。一部の効果が勝手に無効になったり、しばらくすると動作しなくなったりするのだ。また、同じセッションに長時間ログインしていると、システムパフォーマンスに悪影響が出るのも気になった。
アプリケーションの品揃え
SimplyMEPISでは、デスクトップユーザ向けにすばらしいパッケージ選択が行われている。KDEベースでありながら、KDE/Qtアプリケーションに加えてGTK+アプリケーションが数多く含まれている。例えば、パッケージ管理およびアップデート用に入っているのはAdeptではなくSynapticだ。OpenOffice.org、Firefox、Thunderbird、GIMP、AmaroKなどLinuxの定番アプリケーションのほか、UbuntuベースであることからSimplyMEPISとUbuntuの各リポジトリからその他多数のアプリケーションを入手できる。
SimplyMEPISのベースになっているのは主としてUbuntuのLTS(Long Term Support)リリースDapper Drakeであり、そのパッケージには若干古いものも含まれている。例えば、KDEは3.5.6ではなく3.5.3が、OpenOffice.orgは最新の2.2ではなく2.0が入っている。
また、SimplyMEPISではフリーでないコーデックやソフトウェアも多数使えるようになっており、MP3、Flash、QuickTime、Javaをはじめとする機能がすぐさま利用できる。このことからもわかるように、純粋なフリーソフトウェア主義者向けのディストリビューションにはなっていない。
Windowsからの移行者のために、コンピュータにはファイアウォールやアンチウイルスパッケージが必要との考え方に沿ったパッケージもいくつか用意されている (個人的に、ファイアウォールには同意するが、Linux用のアンチウイルスソフトの必要性はそれほど感じない)。iptablesによるファイアウォールを設定するための優れたフロントエンドGuardDogや、アンチウイルスソフトのKlamAVが用意されているが、後者についてはあまり良い印象を受けなかった。
zipアーカイブなどいくつかのファイルをダウンロードした後、KlamAVによるスキャンを実行したところ、すべてのファイルがスキャンされ、「Zip.ExceededFilesLimit」として隔離が必要なzipファイルが現れるたびに、そのメッセージが「Name of Virus Found」(見つかったウイルス名)のフィールドに表示されるのだ。Googleでちょっと調べてみると、このメッセージはそのzipファイル内のファイル数が多すぎてスキャンが中止されたことを意味しているようだ。これではその結果にユーザが確信を持てないどころか、実はKlamAVの制約に過ぎないのに、ファイルにウイルスが感染したのではないかとユーザを不安にさせることにもなりかねない。
SimplyMEPISには、私が驚いたバグが1つあった。ファイルをコピーするために初めてCD-ROMを入れてデスクトップのCD/DVDアイコンをクリックしたところ、/dev/hdcがブロックデバイスではないというエラーが出たのだ。この不具合についてMEPISの創設者Warren Woodford氏に問い合わせると、彼はこれが周知の問題であることを認め、数日後にバグフィックスを出すと述べていた。他のユーザが同じ問題に遭遇しないように、新たにSimplyMEPIS 6.5のISOイメージを生成するかもしれない、とも言っていた。
総合的に見て、私はSimplyMEPISが気に入っている。簡単にインストールできる優れたデスクトップシステムだ。私を大喜びさせるほどのすばらしさは見当たらないが、問題点以上にLinuxデスクトップとしての完成度の高さがよく現れている。
最近のLinuxディストリビューションはどれも(基本的には)同じコンポーネントで構成されているため、それほど大きな違いはない。標準的なユーザにとって、本当に他のディストリビューションとの差異化ポイントになるのは、いくつかの管理ツールと各ソフトウェアの新しさ、そして忘れてならないのが周囲に形成されるコミュニティだ。SimplyMEPISには親切で頼りになるコミュニティが存在する。
デスクトップのLinuxディストリビューションを検討しているなら、試すべきものの1つとして私はSimplyMEPIS 6.5をお勧めしたい。評価してみる価値のあるすばらしいデスクトップだ。