Edubuntu:教育現場のためのLinux

Edubuntuは、教育組織向けのUbuntuディストリビューションである。Edubuntuが提供するソフトウェアプラットフォームにより、教育に携わる人々は、従来よりもコンピュータを使った教育にかける時間を増やし、コンピュータの管理にかかる時間を減らすことができる。Linuxや代表的なオフィス生産性ソフトウェアの他、Edubuntuには、組織管理用パッケージSchoolToolと、未就学の児童から高校生までを対象とした各種教育用プログラムが用意されている。なお、こうしたプログラムの対象となる年齢層は3つの年代グループに分かれており、それぞれに関連した独自の設定が存在する。

2005年10月に初めてEdubuntuがリリースされた当時は、6歳から18歳までの学年を対象とし、教室1つにつきデスクトップマシンとサーバを1台ずつ組み合わせて動作するようになっていた。現在、Edubuntuプロジェクトでは、学校全体に対してサービスを提供する取り組みを進めている。最新のLinux Terminal Server Project、LTSP5とそれに付随するメンテナ用ツールを利用した最初のディストリビューションになることもあり、Edubuntuによって各学校は、以前よりもずっと簡単に全校的な環境を扱えるようになる見込みだ。

また、現行の開発サイクルでは、さらに年齢が上の学生たちへの対応も予定されている。これは、開発側がEdubuntuをCD2枚組のキットに拡張することを決めたためである。追加される2枚目のCDには、2次元のコンピュータ製図システムQCadや分子構造の仮想モデリングツールRasmolといった新しいアプリケーションが入ることになっている。また、要望の多かったデスクトップ環境Xfceも、このCDに収録される。

「Feisty(Ubuntu 7.04)のために、新しいアプリケーションのすべてと幅広い追加言語パッケージをインストールできるアドオンCDが追加された」とEdubuntuの技術主任Oliver Grawert氏は話す。「このアドオンCDは非常に使いやすいものだ。現れた画面で項目の追加と削除をするだけで、インストールするソフトウェアの一覧ができあがる。将来的には、このCDの収録アプリケーションを年代グループ別に分ける予定だ。そうすれば、年齢に応じた適切なタスク群を簡単に揃えられる」。追加パッケージを簡単にインストールできることは、初歩的なコンピュータ・スキルしか持たない教員にも使えることを目指したシステムにとって、重要なポイントである。

好機到来

教育分野では、Microsoft Windows Vistaと同様、Linuxとオープンソースソフトウェアに対する関心も高まっている。1月上旬、英国教育情報技術局(British Educational Communications and Technology Agency:Becta)は、Microsoftのアカデミックライセンスの制度が「ロックイン」をもたらす危険性があると警告する報告書を出し、教育組織の多くはこうした制度に金銭面での価値があるとは認めていないと述べた。

「すでに数カ国の教育行政部門からは懸念の声が届いている」と語るのは、Ubuntuの筆頭スポンサー企業Canonicalで教育プログラム・マネージャを務めるRichard Weideman氏である。「懸念されているのはVistaライセンス取得の金銭的な問題だけではない。それに伴う面倒な手続きやライセンスの遵守にかかるオーバーヘッドも含まれる」

アップグレード費用の高さとライセンスへの不安から、教育業界におけるMicrosoft離れが進めば、生徒たちにLinuxとオープンソースの環境が与えられることになるだろう。Weideman氏は、これを生徒たちが義務教育終了後の順応性を高めるための良い機会と捉えている。

「何もない状態からでもコンピュータを使いこなせる子供たちは、LinuxやOpenOffice.orgを恐れたりはしない。彼らは目の前にある課題を解くことに集中し、どんなツールが与えられてもその使い方を習得してしまう。こうした子供たちなら、卒業後にLinuxやOpenOffice.orgを使う環境で働くことになっても、まったく問題はない。たとえ新しい環境でWindowsが使われていても、たやすく適応できるはずだ。OpenOffice.orgやLinuxの利用を職場で提案し、会社の環境移行とコスト削減に貢献する卒業生も出てくるだろう」

Edubuntuを導入した高校

インディアナ州教育局(State of Indiana Department of Educations)の「Indiana ACCESS」プロジェクトは、ブルーミントン・ハイスクール北校(Bloomington High School North)に対して資金援助を行い、4つの教室で生徒1人につき1台のコンピュータを揃えた。その際、同校を技術面で支援しているSimon Ruiz氏は、リリースされたばかりのEdubuntuを採用するという予想外の選択に出た。

「Ubuntu 5.10 “Breezy Badger”のリリース直後に、私たちが初めて目にしたLinuxディストリビューションがEdubuntuだったが、これを選んだのは単純に教育用に作られたものだったからだ。LinuxのインストールはこのEdubuntuが初めてだったので、その簡単さとソフトウェアとしてのクオリティの高さには目を見張った」。

Ruiz氏はEdubuntuの採用は間違いではなかったと信じており、ここ1年でのシステム環境の改善ぶりに感心している。生徒たちもまたEdubuntuの価値を認め、不満はほんのわずかしか出ていない。

「学校のコンピュータの前に初めて座って見慣れない環境を目にした生徒たちからは‘どうしてWindowsじゃないんですか’という疑問の声がたくさん出るが、少し経つとそうした声はほとんど聞こえてこなくなる。Ubuntuの環境は透過性が高いので、生徒たちはやるべきことに集中できる。それが私たちのねらいだ。Linuxがいかに素晴らしいかを私に教えてくれた生徒たちも何人かいた」

ただし、この移行に障害がなかったわけではない。事実、正規の技術サポート職員らが活動から「手を引いて」しまうという、想定外の問題が発生した。技術担当者に適切な教育を受けさせるか、予算の一部を確実にメンテナンスにまわすかして、もっと入念な計画を立てていれば回避できたはずの問題だった。こうしてブルーミントン・ハイスクールのケースでは、Linuxに関わる設計、実装、サポートといった技術的なすべての作業が、ボランティアの手で行われることになった。

Ruiz氏は、この取り組みに向けられた技術陣からの抵抗について「彼らは人手が足らず、一方でMicrosoftネットワークのサポートも手がけているため、私たちをサポートする余裕はないと感じている」と語る。「できる限りの支援を私が進んで行ってきたのは、このプロジェクトをサポートなしの状態で放置するのはもったいないと思うからだ」

適切な管理を行えば、Indiana ACCESSプロジェクトのような活動によって、各学校はライセンス取得にかかる何千ドルものコストを削減できる。また、財政面のコスト削減はライセンス取得の費用だけにとどまらない。例えば、オーストラリアのニューサウスウェールズ州教育訓練局(NSW Department of Education and Training)は、Windowsを標準の環境としながらも、一部の事例については必要なハードウェアのアップグレードを避けるためにLinuxとオープンソースの導入も検討している。

第三世界におけるソリューション

第三世界の国々では、欧米諸国の平均的なデスクトップマシンに比べて大抵はスペック面で格段に劣ったコンピュータが利用される。そのため、多くの場合は各学校が使えるもの(普通は寄贈された中古マシン)で間に合わせることになる。こうしたハードウェアの制限から、Windowsに見切りをつけ、教員と生徒の双方の要求を満足できるLinuxやオープンソースの代替ソフトウェアを採用する必要が出てくる。

例えば、ベネズエラでは「すべての公的機関はオープンソースソフトウェアを使用しなければならないと定めた大統領令第3390号(Presidential Decree No. 3390)をきっかけとして、いくつかの運動が起こっている」と、ベネズエラの教育者でUbuntuを愛用するオープンソース支持者Efrain Valles氏は話す。しかし、Valles氏によると、教育分野での反応は鈍いという。「我々の学校では、まだコンピュータの利用が始まったばかりだ。各教室にコンピュータ1台という割り当てもない。それが第三世界の国の現状なんだ。テクノロジは大事だが、とてもお金がかかる。学校にも行き渡り始めたのは、主にEdubuntuのようなソフトウェアのおかげと言える」

「‘落ちこぼれを放置するな(No child left behind)’という言葉やそうしたブッシュ政権の教育法令のことを聞いたことがないかな。Edubuntuでは、これを文字って‘ハードウェアを廃棄するな(No hardware left behind)’と言うんだ」と彼は語り、とてもWindows Vistaが動かないような古いマシンでもEdubuntuなら十分に動作すると指摘する。「学校側の選択肢は2つある。2年後にはメーカーによるサポートが切れるWindows XPのような古いテクノロジにしがみつくか、オープンソースに切り換えるかだ」

もちろん、こうした状況は南米に限ったものではない。その反対側に位置するアフリカのマラウイ(世界の最貧困国の1つ)では、チューリッヒ応用科学工芸大学(University of Applied Sciences and Arts in Zurich)のシステム管理者Alex Antener氏と芸術家のNathalie Bissig氏が、寄贈された2台のサーバと、同大学の情報科学科が提供するEdubuntu 6.10ベースのシンクライアントマシン25台を利用して、環境の構築を行った。なお、この活動では、マラウイ工芸学校(Malawi Polytechnic)の生徒6人のグループが母校のネットワーク構築に協力したという。

世界各地の経済的に苦しい地域でEdubuntuは成功を収めつつあるが、同様のコンセプトはもちろん欧米諸国でも通用する。先進国ではハードウェアの調達が大きな問題になることはないものの、かつての「一銭でも安く」の考え方に従えば、新しいハードウェアへの資金投入を避けることで人材獲得や施設改善など教育課程の他の分野にもっと多くの資金をつぎ込むことができる。

Windows XPが2年後に終わりを迎えることになっているため、新しいVista環境に対応できない大量のマシンは、XPのサポートさえ続いていればまだまだ役に立つのに、その時点で見捨てられることになる。だが、先見の明のある管理者たちは、すでに着々と準備を始めているのだ。その期限が迫るとともにVistaのデジタル著作権管理による制限内容が明らかになるにつれ、EdubuntuのようなLinuxディストリビューションの利点に注目する教育機関はますます増えていくだろう。

Mellisa Draperはフリーおよびオープンソースソフトウェアの熱烈な支持者。Ubuntu Local Community(LoCo)ではプロジェクト主任とオーストラリアのUbuntuコミュニティチームの窓口を務めている。

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