CodeWeaversのCEOへのインタビュー:CrossOver Linuxの舞台裏

CodeWeaversからリリースされているCrossOver Linux 6は、Windows用のメジャーなアプリケーションおよびゲームをLinux上で動作させるためのプログラムである。今回のインタビューではCodeWeaversのCEOを務めるJeremy White氏に対し、フリーで利用可能なWineプロジェクトに対する同社の貢献形態および、ゲーム分野への新規参入に至った経緯を質問してみた。

NewsForge:サポート対象のアプリケーションはどのような基準で選んでおられるのでしょう? カスタマからの公約(pledge)や投票(vote)に応じるというシステム以外に、何らかの要素が関与しているのでしょうか?

Jeremy White:まず最初に、先延ばしにされているバグフィックスが無いかを確認します。言ってみれば、重症患者を一番最初に手当てするようなものですね。次の優先順序が投票でのリクエスト、その次が公約によるリクエストです。例外もあります。報酬を支払ってでも特定アプリケーションを対応させて欲しいと依頼してくるカスタマも時にはおられますから。例えばPhotoshopのサポートは、有料での対応要請が寄せられたため実行しました。また対応の難易度を勘案して、簡単に対応できるアプリケーションの方を利用度が高いであろうアプリケーションより先に対応させることもありますが、どのようなものが優先されるかは一概に言えませんね。その他、今回のゲーム分野のサポートのように、新規マーケットの開拓を狙った上での選択をすることもあります。

NF:サードパーティ系のソフトウェアベンダ群とはどのような関係にあるのでしょうか? コラボレーション態勢の構築などは積極的に行っておられますか?

JW:相手となるベンダごとに、まちまちです。コラボレーション態勢の形成は弊社としても歓迎するところであり、実際いくつかのベンダとの協力で有益な成果を得られています。その代表例はPicasa for Linuxでしょう。

NF:Wineプロジェクトに対する協力やアシストについては、どのような形態が取られているのでしょう?

JW:まず第一に、私どもの開発成果はすべてWineに対して提供されていますし、その時期はCrossOver製品としてのリリース以前に行われるのが通例です。そして第二に、Winehq.orgのWebサイトについては、弊社が運営を賄っております。その他にもWineプロジェクトに対しては様々な形での協力をしています。例えばWineconfという組織を整備して、Software Freedom Law Centerとの共同下で法的なインフラストラクチャの整備をするといった少し毛色の異なる作業もそうした活動の1つです。またWineのメンテナや主力開発者たちに支払う報酬も弊社で負担させて頂いております。

NF:Windows Vistaの登場は、CrossOver Linuxのサポートする対応アプリケーションに何らかの影響を及ぼすものでしょうか?

JW:基本的に、Vistaの登場そのものが影響を及ぼすことはないはずです。大きな影響を受けるとしたら、Vista専用アプリケーションが登場した時になるでしょう。そうしたアプリケーションが流通し始めた場合、これらの実行に不可欠な機能をすべてこちら側で用意する必要が生じてきます。

NF:バージョン6.0を境に、Macおよびゲーム類のサポートが追加されました。ユーザからの要望がある未対応アプリケーションはその他にも残されているのに、この段階で何故ゲーム類をサポートされ始めたのでしょうか?

JW:ボランティアで参加しているWine開発者たちは、そもそもゲームの移植をしたくてこの活動を始めたという経緯があり、実際Wineの黎明期(1993年から2000年頃)における主力分野はゲームに関するものでした。

その後2001年にTransgamingが創業された際に、同社で行われるDirectXの改善結果はWineに還元することが約束されました。これによりWineにおけるゲーム熱は一気に沈静化してしまったのです。「そうした改善結果が“直ぐ”に還元されるなら素直にDirectX上で動かせばいいじゃないか」と誰でも考えますよね。ところが実際は、成果と言える程の改善は未だに還元されておらず、その結果かつてはメインで作業を進めていたWineの活動領域に、ポッカリと巨大な空白地帯が残されてしまったという訳です。

その間のブランクを取り戻すのにはかなりの時間を要しましたが、最近になってようやくWineによるゲームサポート体制は復旧を果たし、Cedegaに比べて勝るとも劣らないレベルでゲームを動作できるようになったという次第です。そうした成果はすべて弊社の努力によるものである……、と言いたいところですが、実際のところゲームに関する功績は、多数のボランティア開発者の皆さんに帰するものです。現状における弊社の役割は、そうした開発者の方々をサポートすることであり、例えば彼らの一部は弊社で雇用する形にさせて頂いていますし、それ以外の方々にもビールなりワイン(Wine)なり必要だとされるものを差し入れるといった協力をしています。

もっとも、ここ数年間は実務系アプリケーションばかりを扱ってきたので、世間ではゲーム関係はTransgamingで扱うものというイメージが出来上がっているのかも知れません。弊社としては、そうした固定観念を打ち壊す必要性を感じています。例えばWorld of Warcraftなどのアプリケーションは、Microsoft Office程ではないにしろ、かなりの需要が見込めるはずなので、そうしたニーズに応えることを検討しているところです。カスタマ側も弊社が本気でゲーム分野に進出し始めたことを認識しだしたようで、好みのゲームの対応に関する投票や公約が当方に寄せられ始めておりますし、いくつかの要望については実現に貢献できるでしょう。

カスタマの皆様がゲームを楽しむためにCrossOverを購入するというのは、資金の有効な活用法の1つだと思いますよ。その購入費は特定のオープンソース系プロジェクトに対するサポート活動に直接費やされるのですし、先に述べたように私どものゲームに関する開発成果は、すべて最初にWineHQにて公開されるようになっています。実際、Wineにおけるゲームの対応レベルがCedegaよりも優れているのは、ひとえにWineがオープンソースという体制で進められているからだと、私たちは信じている次第です。例えばCedegaの動作はWineを起源とする多数のLGPLコンポーネントに依存していますが、そうした事実から示唆されるのは、Wineをプロプライエタリ化するよりもこのコミュニティの持つ力を活用する方が賢明だと認識されていることに他なりません。

NF:最新リリースでは名称の変更およびMacとゲーム類のサポートが行われたのですが、それ以外の舞台裏的な改善点はどのようなものがあるでしょうか?

JW:今回私どもは調理場でフライドポテト作りにも挑戦してみましたが、それ以外のものとなると、COMとMSI(Microsoft Installer)関連の多数の実装、膨大な数のバグフィックス、DirectXサポートの大幅な改善ですかね。これにより現行のWineは、従来よりも広範なアプリケーションのインストールと実行に対応できるようになりました。

NF:ユーザから報告された使用例として、CrossOver Linuxはこうした用途にも使えるといった何か紹介すべき事例はありませんでしょうか?

JW:私の記憶に残り続けているエピソードがありまして、それは先年の津波被害の際に、被災後も電力が供給されていた太平洋沿岸地域からの報告です。そこに住んでいたある男性は、ネットワークの修復作業に必要なネットワークダイアグラムの作成にVisioを使いたかったのですが、電気は来ていたもののVisioのCitrix接続は切断されていたとのことでした。困った彼はCrossOverを介してVisioをインストールすることで作業可能な環境を整え、その後4日間を不眠不休で復旧作業に取り組み続けたとのことであり、そして全てが終わった後に、被災地のインフラストラクチャ復旧に弊社のテクノロジが役立った旨を私たちに報告してくれたのです。

NewsForge.com 原文