Eben Moglen氏との対談、GPL改訂およびSFLC現状(動画有り)
Moglen氏によると、GPLv3草案の進捗状況は「あらゆる面からして、中間点に差し掛かった段階」になるという。Moglen氏の言葉を借りれば「交渉の最大の山場」に着手し始めたところということになるが、これは各種の関係者にGPLv3とはGPLv2の改良版であることを納得させる作業とのことだ。第2草案に関する検討作業は10月半ばまで続けられ、11月中旬には最終草案がリリースされる模様である。またGPLv3の確定案については、GPLv3 Process Definitionに定められたタイムライン通り2007年3月にリリースされる事に関し、Moglen氏は自信を持っているとのことである。
Moglen氏は、第2草案で加えられた変更点の細部について多くを語らなかったが、「大幅な変更」が「ライセンスの主要な活動規約の多くにおいて」行われている点について言及しており、それらの中には、セクション1に対する変更、該当するソースコードの扱い方、DRMセクションなども含まれているとのことであった。新規草案に関するガイドは、FSFのサイトで閲覧できる。
またGNU Lesser General Public License(LGPL)については、既にFSFからその第1草案がリリースされている。Moglen氏は今回の改訂版のLGPLについて、GPLに対する独立したライセンスではなく「例外条項の1つ」として改められた点に触れ、「理論的に見て非常に重要な意味を持つ前進」であると説明している。
Eben Moglen氏の語るGPLv3草案の進捗状況(クリックでビデオ再生) |
GPLに対する各種の改訂作業
こうしたGPLv3に対する作業が進行する一方で、現行のGPLv2に関しても、同ライセンスに関連した2件の新規アナウンスがなされている。GPUプロジェクトからリリースされたものは“軍事利用禁止”条項を取り込んだGPLの派生版であり、またFunambolからアナウンスされたものはHonest Public License(HPL)という、GPLv2における“ASPの抜け穴問題”に対処したものである。後者のいわゆるASPの抜け穴とは、アプリケーションサービスプロバイダがGPLライセンス下にあるコードに変更を施して商用サービスに利用したとしても、こうした変更後のコードを配布さえしなければ違反行為に問われない、という問題である。
Moglen氏が指摘しているのは、このHPLにはGPLv3の第2草案にある条項を借用している部分が存在し、それに起因した問題が懸念される点である。「今回の件は、要はタイミング的な問題なのですが……、1つの重要な意味合いを持っているのです。私たちは、個々の草案を作成段階で公開していますが、その際に草案段階ではソフトウェアへの適用はされない旨を明示しています。そのような措置をとっているのは、それなりの理由があるからです。その理由とは、GPLの自動リバージョニング条項に関係するものです」。Moglen氏によると、これはソフトウェアの使用にあたり、GPLの各バージョンにどの条項が適用されるかを明確化しておくという点で“非常に重要”な意味を持つ、とのことである。
なおMoglen氏は件のライセンスについて、その意図している内容に反対している訳ではない点を明確化しており、実際同氏はこれを「公開物をベースにサービス提供に用いるコードを作成する場合において、コミュニティがどのように行動すべきかについての、完全に合法的な姿勢」と呼んでおり、そうした場合はコードを返却すべきだとしている。同氏が懸念しているのは、草案段階にあるGPLv3から借用された文言は、現状ではソフトウェアに適用できるようなレベルに仕上がっていない点であり、同氏としては、できればFunambol側にはGPLv3の正式発効まで保留してもらいたかったとしている。
また“軍事利用禁止”条項についてのMoglen氏の意見は、「戦闘地域に住む子供たちの頭上にナパーム弾が降り注がれる行為を嫌悪している人間」として同氏も軍事利用禁止の条項に「倫理的に共感している」としながら、自由を擁護する立場からは、ソフトウェアのあらゆる用途が尊重されるべきだとしている。一方で同氏は、仮にこうした軍事利用禁止の条項が受け入れられるとした場合、軍事専用のノウハウと民生専用のノウハウという形で知識体系が二分されかねない点を懸念している。また同氏が指摘しているのは、倫理的な観点から使用上の制限を定めたライセンスは、「ユーザ側の権利を尊重することを脇に追いやったライセンス」でしかない、という点である。
Microsoftとの共存は可能か?
ユーザの権利の尊重は今回の対談における重要なテーマの1つであり、特にMicrosoftとの問題を語る際の主題となったものである。
Eben Moglen氏の語るMicrosoftとの共存(クリックでビデオ再生) |
Moglen氏がO’Reilly Open Source Convention(OSCON)での基調講演を行った際に言及していたのは、ユーザには権利があることをMicrosoftは知っているのか問いただしてみたいということであった。Microsoftはオープンソースコミュニティとの共存に関して色々と物議を醸し出しているが、Moglen氏によると、「共存の前提となるのは、ユーザの権利に対する尊重を共有できるか」ということになる。
開発者の有す権利に関しては、Microsoftとフリーソフトウェアコミュニティの間に見解の相違は無いようであり、作成したコードがどのように使用されるかを決定する権利を有しているのはその開発者であり、単にフリーソフトウェアの開発者とMicrosoftとでは権利の行使の仕方が異なるというだけである。これに対してユーザの有す権利となると、両者の見解には大きな相違が存在しているのだ。
Moglen氏の語るところでは、Microsoftは過去にユーザの権利を認める発言をまったくしておらず、同社と同じ立場でユーザの権利を尊重できる根拠は何一つ存在しないということになる。そして同氏は、企業としての舵取りをする者が交代した今の時期こそが、Microsoftにとっても自社の担う責任を問い直し、ユーザの権利を再考するチャンスでもあるとしている。仮にそれが実現するのであれば、Moglen氏もMicrosoftとの間で「永続的な休戦協定を喜んで締結する」だろうとのことである。
ソフトウェアと文化の相違点
Larry Lessig教授は、LinuxWorld Conference & Expoでの基調講演においてフリーカルチャに対する2つのアプローチについて語り、その際に用いられていた論法は、自由と理想とを“左翼的”に主張するアプローチと、ビジネス面でのメリットを説く“右翼的”なアプローチという分類であった。Moglen氏はこうした左翼と右翼という見方は、Lessig教授がフリーカルチャを分析する際に導入した“作為物”であって、Moglen氏によるフリーソフトウェアのとらえ方と対立するとしている。
「この左翼と右翼という見方は、自由(フリー)を重要視する人々と、ビジネスを専らとする人々との間に明確な区別があるものとしています。それに対して私たちがここで語っているのは、実際の現場で使用されるソフトウェアが主題となっている世界であり、左翼/右翼あるいは商用/非商用という区別そのものが大きな意味を持っておらず、なにしろ企業を運営する側の人間でさえも自由という権利の尊重について考えをめぐらせているのですから……。こうした人々は、サービスの独占体制の復活を望んでいる訳でもなく、何らかの形で誰がカスタマを代表した活動をするのかを支配したい訳でもありません」。
Eben Moglen氏によるLarry Lessig教授のLinuxWorldでの基調講演に対する見解(クリックでビデオ再生) |
また同氏は、エンターテインメント業界と同様、ソフトウェアビジネスにかかわる人間が脅威を感じるものとして「行き過ぎた監視や規制活動があります……。つまりこれらの人々は、自らが作成ないし販売しているテクノロジには、人間の有す自由を大きく侵害する目的で使用されうる可能性があることを自覚しているのです」としている。
例えば同氏がGPLv3について語る際に言及していた事例として、一部の人々は反DRM条項がビジネス面に与えうる悪影響について懸念するのと同時に、監視活動やプライバシの問題についても懸念していたことを取り上げている。「私たちは、商業活動の妨げになる気はありませんが、自由の権利を侵す意図も毛頭ありません、そして(企業活動をする側も)……これらの両側面が問題となっていることを認識しているのです」。
Software Freedom Law Center
SFLCはこの4月に、フリーソフトウェア系プロジェクトが煩雑な手続きを経ることなく、非営利組織としての体制や法的枠組みを整え、運営上の各種サービスを受けられるようにすることを目的としたSoftware Freedom Conservancy(SFC)という活動を発足させている。SFCとは、フリーソフトウェア系プロジェクトの活動に必要となるサービス一式を、いわばコンビニエンスストア的に取りそろえたものであって、必要なスキルを有した開発者の協力を斡旋するというタイプのサービスではない。Moglen氏は、「スムースに運営されるコミュニティ」こそがSFCでもたらされる成果だとしている。
Eben Moglen氏の語るSoftware Freedom Law Centerの活動(クリックでビデオ再生) |
SFCによる支援を受けるにあたって個々のプロジェクトは、何らかの権利の放棄が求められる訳ではない。つまりMoglen氏が指摘しているように、SFCのメンバになったとしても、各自のプロジェクトの活動方針に対する決定権を放棄する必要はなく、またSFCあるいはFSFに著作権を譲渡する必要もないのである。また各プロジェクトが脱退するのも随時可能であるため、その点Moglen氏が期待しているのは、そうしたプロジェクトの中から例えばFirefoxのように「多くの支持者を集めた」有望な団体が出現し、独自の活動スタイルを展開するようになるかもしれないということだ。
現状のSFCについては、Moglen氏自身も「今のところは小規模で単純な活動に見えるでしょう」としているが、長期的には開発者に対して非常に大きな影響を与える存在になるものと予想されている。実際この組織は、その活動の幅を広げつつあるのだ。4月の発足当時SFCのメンバに名を連ねていたのは、Wine、uClibc、BusyBox、Sambaなど、ほんの一握りのプロジェクトに過ぎなかった。Moglen氏の説明によると、現在SFCに参加申し込みをしているプロジェクト数は、メンバに正式登録された団体だけで“数十”に達しており、検討ないし審査段階にある団体も10件以上あるが、SFCとしてはそれらの名前を明かすことはできないとのことだ。
Moglen氏の構想は、現状でフリーソフトウェアというスタイルが定着している分野だけでなく、オペレーティングシステムなどといった、その先の世界をも見通しているようだ。同氏は「ユーザスペースの中には、既に共有化が達成されて否応なくフリーな存在となっている分野が存在しています」と語り、SFCに期待しているのは、フリーソフトウェアが普及していない領域の開拓における“最前線”として活動することだとしている。
「訴訟活動やデモ活動、あるいは実力行使的な破壊行為に協力しようという意図はさらさらなく、あくまで私たちはカウンセラーやアドバイザなのであって、私としては、個々の団体が最大限の活動をするための舞台を整えるための、経験豊富なカウンセラーやアドバイザに成りたいと考えているのです」。
Linux.com 原文