「経験豊富なプロ」が作り上げたフリーゲーム「SuperTuxKart」――SourceForgeが選ぶ今月のプロジェクト

 米SourceForgeでは毎月1つのプロジェクトを投票で選び、「Project of the Month(今月のプロジェクト)」の栄冠を与えている。2013年4月に選ばれたプロジェクトは、Linuxのマスコットキャラ「Tux」などがカートに乗って競争するマルチプラットフォーム対応のレースゲーム「SuperTuxKart」だ。

 2013年4月の「今月のプロジェクト」に選ばれたのは、SuperTuxKartだ。SuperTuxKart(STK)はTuxとその友達をフィーチャーしたレースゲームだ。百聞は一見に如かず。まずはSuperTuxKart0.8のデモ動画をご覧頂きたい。

 ――4月の「今月のプロジェクト」受賞おめでとう。

 Joerg:ありがとう! インタビューしてくれて本当に感謝するよ。

 ――STKはどういうゲームなの?

 Joerg:STKはカートレースゲームなんだ。どちらかというと子供向けなんだけど、大人も多くのプレイしているよ。リアリズムの追求よりも、楽しいゲームプレイを目指している。

 ――STKに携わってどれくらいになるの?

 Joerg:私がプロジェクトを再始動したのが6年前なんだけど、当時はプロジェクトがほぼ死んでいる状態だった。見た目はもっと良かったが、プレイできる状態ではなかった。そこで私はあちこちを直し始めて、突発的にプロジェクトを再始動させることにしたんだ。もう1人の開発者(Auria)も参加して、そして一番最初のリリースに漕ぎ着けられた。それ以来Auriaはずっとプロジェクトに参加していてくれて、一緒にゲームを大きく進歩させていったんだ。

SuperTuxKart

 ――このプロジェクトの開発に活発に関わっている人はどれくらいいるの?

 Jperg:いまのところだと、STKの実際のコーディングをやっているのが2人、アドオンサーバーの実装や管理をやっているのが1人。それから、主にゲームに登場するコース(トラック)を管理しているアーティストが1人。あとは改善が必要と思われるものを見つけたときにパッチをいくつか投稿してくれるコーダーが何人かいるし、テクスチャやアイコン、トラック、カートを作成してくれる人がコミュニティ内に何人かいるよ。

 Auriaと私はプロジェクトの管理をしているし、あと実際にコードも書いているんだ。アドオンのエキスパートがStephenで、アーティストがSamuncle。あと、ブログ投稿を任せているArthurは、コミュニティの方も助けてくれている。そして、ほかの言語でもゲームできるように訳してくれる翻訳家もいるんだ。

 ――私の見解では、ゲームプロジェクトには、ほかのプロジェクトと比べて、幅広く才能のある人が関わっているようなんだ。コーダーは言うまでもなく、ミュージシャンやアーティスト、それからユーザビリティのエンジニア。これは正しいのかい?

 Joerg:そうなんだ。ゲームの開発にはさまざまなバックグラウンドを持つ人を必要とする。テスターにもずいぶんと頼っているけど、それだけでなくブログやツイートの投稿をしてくれる人もいるし、新しい参加者を手助けする人もいる。私たちのコミュニティはとてもフレンドリーだから、手助けが必要なニューカマーでもすぐに助けを得ることができるんだ。

 いまサウンドエフェクトを必要としているのだが、ミュージシャン以外の人もアイディアを寄せてくれている。フォーラムではブレインストーミングを頻繁に行い、ゲームをより一層盛り上げる音がみつかるまで、じっくり話し合っているよ。

 ――Twitter上にはどんなことを投稿しているの? ゲームのヒントとか? それともリリース情報?

 Joerg:Twitterは「今月のプロジェクト」を選ぶ投票がきっかけで、つい最近使い始めたばかりなんだ。STK開発の近況を皆に知らせるのが目的で、リリース前に新しい機能を紹介したりしている。アーティストは製作中のトラックを公開するのに使っているし、コーダーは開発中の新機能を情報発信するのに使っている。現在は、コアチームがGoogle Summer of Code(GSoC。Googleが主催する学生向けの賞金付きイベント)向けの開発をやっているため、情報発信をちょっと控えているんだ。完成すれば、近況をもっと報告するようになると思う。

 ――GSoCについてなんだけど、学生にはどんなことをやってもらうの?

 Joerg:GsoCはGoogleが主催するイベントで、参加する学生はオープンソースプロジェクトに携わることで報酬を得られるんだ。私たちが参加を申し込むのは今回が初めてで、もし参加が認められれば面白いプロジェクトをたくさん用意することになる。オーバービューページに、アイデアをリストアップしているけど、とくにネットワークマルチプレイ機能を立ち上げることに焦点を絞っている。リクエストがもっとも多い機能だからね。

 ――いいね!

 Joerg:9個のプロジェクトを挙げているんだけど、完全なネットワークマルチプレイはGSoCプロジェクトとしてはハードルが高すぎるので、重要なブロックを2つのプロジェクトにして組み込もうかと思っている。私たちは極めて経験豊富なメンターで構成されるチームを持っており、それぞれがIT分野の一線で仕事をしているんだ。加えて、プロのゲームエンジンデベロッパーもいる。

 これは、参加する学生達にとっては素晴らしいことだろう。リアルなコーディングを経験することができるのだから。STKにとっても同じことがいえる。

 ――あなたの話をきいている感じだと、このプロジェクトはまるでプロフェッショナルなベンチャーみたいだ。これほどまでの熱意を傾けるだけの時間をどうやって作っているの?

 Joerg:仕事のほとんどを、電車で往復2時間くらいの会社への通勤中に行っているんだ。それから、夕方と週末に時間を見つけている。「今月のプロジェクト」のような表彰を受けたり、MicrosoftのIllumiRoomやほかの調査プロジェクト、それからテレビ番組でSTKを使ってもらったりしてやっていることを認めてもられると、とても励みになるんだ。

 子供を持つ多くの人がSTKを使って喜んでくれている。無料だし、子供向けだし、親が子供と一緒に遊ぶこともできるからね。

 ――なになに、テレビ番組?

 Joerg:およそ4年半前、「Friday Night Lights」というテレビドラマのプロッデューサーから話を持ちかけられたんだ。エピソードの1つでビデオゲームを使いたかったみたいなんだが、プロフェッショナルな企業はどこもゲームの使用を断ったんだ(未成年の飲酒に関する内容だったため)。そこで番組は私たちに話を持ってくることになり、私たちはテレビにSTKが映されることを喜んで承諾したってわけさ。

 ――凄いじゃないか。

 Joerg:そうなんだよ。こういった小さなサクセスストーリーがあるからSTKをやっていて報われるんだよ。STKは「ワンスイッチ」バージョンも作られていて、運動障害の人もプレイできるんだ。私個人の考えだが、こういうのはオープンソースの強みが表れていると思うんだ。

 ――もし、プレイする以外に、プロジェクトに参加したい人がいれば、どんな機会があるのかな?

 Auria:幅広いバックグラウンドからいろんな人の力を貸してほしいんだ。コーダーでない人なら、まず翻訳とドキュメンテーションを手伝って欲しい。トラックを改善したり、新たなトラックを作ることができるくらいBlenderに精通している人の助けもとても必要としている。

 もちろんプログラマーは言うまでもなく必要だ。コードを必要とする、リクエストの多い機能もリストアップされているし、当然力を貸して欲しい。

 ――プロジェクトはどの言語で開発されているの?

 Auria:ゲームのコアはC++で開発されている。ライブラリーのなかには物理演算エンジン「Bullet」を使っているものもあるし、グラフィックスには「Irrlicht」、そしてオーディオには「OpenAL」。C++以外なら、Blenderの拡張はPythonで書かれているし、アドオンのWebサイト(これはそのうち、マルチプレイゲーム用のロビーに進化することになるだろう)はPHPで書かれている。

 ――将来の計画は? 次のリリースは決まってるの?

 Joerg:もっとも楽しみな機能は、wiimote(Wiiリモコン)のネイティブサポートなんだ。現在、ポータビリティの問題に取り組んでいるんだが、次のリリースでは解決できているだろう。あとは、画面を分割してプレイできる「soccer mode」と、子供向けの「Find the Easter Bunnies」という2つの新しいゲームモードの実装だね。

 おそらく、オンラインマルチプレイモードがSTKのもっとも優れた機能になるんだろうが、準備するのにまだしばらく時間がかかるだろう。計画ではバージョン0.9でリリースすることになっているが、バージョン0.8系のリリースでも0.9に向けて機能を少しずつ実装していくことになる。ロビー、アドオン用のゲーム内投票、オンラインの高得点ランキング、ほかの人によって記録されたゴーストとのプレイ、チュートリアルと実績。部分的にGSoCでできるかもしれない。

 ――時間をとってインタビューに答えてくれてありがとう。そして、受賞おめでとう。

 Joerg:こちらこそ、ありがとう!