最新プラットフォーム上でDOSゲームをプレイできるエミュレーターDOSBox――SourceForgeが選ぶ今月のプロジェクト
米SourceForgeでは毎月1つのプロジェクトを投票で選び、「Project of the Month(今月のプロジェクト)」の栄冠を与えている。2013年1月に選ばれたプロジェクトは、DOSエミュレータ「DOSBox DOS Emulator」だ。以下では、その開発者に対するインタビューの模様をお伝えする。
今回は、2013年1月の「今月のプロジェクト」の栄光に輝いたDOSBox DOS Emulatorを紹介する。DOSBoxは過去2009年にも今月のプロジェクトとして選ばれており、SourceForge上で唯一の「2度目の受賞」をしたプロジェクトだ。
DOSBoxは、サウンドを含めたDOS(MS-DOS)環境を構築できる完全なx86エミュレーターだ。WindowsやMac OS X、Linux、FreeBSDといったDOSが標準搭載されていないプラットフォームで、古いDOSゲームを起動させることができる。
(なお、今回はIRCを使ったインタビューのため、いつもの「今月のプロジェクト」とはやや異なる雰囲気となっている。)
――まずは「今月のプロジェクト」の受賞、おめでとう。2度目の受賞に輝いた最初で唯一のプロジェクトとなったね。
Qbix:このプロジェクトが正しい方向に進んでるってことなのかな。
――
Harekiet:素晴らしいことだ(笑)。「今月のプロジェクト」はいつからやっているの?
――2002年からだよ。いまだにDOSエミュレータへの需要があるのはなぜだと思う?
Qbix:いい質問だね。古いゲームの持つ魅力じゃないのかな。
Harekiet:私もそれについては何となく考えを巡らせてきたんだが、大部分がノスタルジアによるものなんじゃないだろうか。とくに子供達がやっている様子はないから、もともとDOSゲームでプレイしていた人たちが感じるノスタルジア。それから中には、未だに古いゲームを起動させるのに使う企業も時々いるよ。
Qbix:でも、サポートリクエストの中には、(言葉遣いから判断する限りでは)若い子達からのものがいくつか混じってるよ。
――それに見たところでは毎週35,000人くらいの人が新たにダウンロードしているね。
Qbix:DOSゲームをプレイしたかった人たちは皆、この時点で既に、DOSBoxをダウンロード済みなんじゃないかと思うよ。
――そうだろうね。だって私もその理由で10年前くらいからDOSBoxを使ってるんだから。プロジェクトを立ち上げた頃の話を聞かせてくれるかい。始まりのきっかけは?
Harekiet:そもそもの始まりは、自分がコンソール(家庭用ゲーム)のROMをエミュレーターでプレイしていたことなんだ。このようなエミュレータが使っていたグラフィックを改善するためのフィルタ(編注:解像度の低い画面を滑らかに拡大するために使われていたフィルタのことだと思われる)を、DOSのゲームでも使いたいと思っていたことから始まったんだと思う。ちょうどWindows 2000が出てきたころで、WindowsにおけるDOSサポートが急速に打ち切られるようになってきた頃だった。
Qbix:あとはVDMSound(編注:DOS用のサウンドデバイスなどをエミュレーションするためのプログラム)の存在もあったね
――DOSBoxにおいてまだやることは残っている? まだ開発は続けてる? それとも、主にエンドユーザーのサポートを行っているのかい?
Qbix:うーん、ゆっくりなペースではあるけど、開発はまだ続けてるよ。
Harekiet:それから、新たな機能の追加もやっている。いらいらするようなものがところどころにあって、一からエミュレータを書き直した方が良いんじゃないかって思うこともあるよ。
Qbix:そうなんだ。だから今のところは主に、互換精度の向上に取り組んでいるんだ。だけど、次のバージョンには以前からずっとリクエストされていた機能が追加されることになると思う。あと、一から新たなエミュレーターを作るってアイディアもとても興味深い。今なら、もっと上手くやるための方法が分かってるからね。
――それは実現しそうなの?それとも現時点ではアイデアにすぎない?
Harekiet:そう、どちらかというとまだアイデアにすぎない。それだけのエネルギーを結集できるならって話だよね。とくにqemuのような、優れたPCエミュレーション機能を提供するものがあって、それを改良すればより優れたDOSサポートを加えることもできる。いろんなやり方が考えられるんだ。
Qbix:そうなんだよ。何かを新しく始めようとすると、リソースもエネルギーも膨大にかかってしまう。
――たとえばAndroidとか、ほかのプラットフォームサポートの拡大には関心はある?
Qbix:実は、既に存在しているんだよ。少なくとも現時点では、僕たちがやっている訳ではないけどね。
Harekiet:ほかのプロジェクトによって既に、iOSとAndroidにポートされている。
――開発コミュニティの規模は実際どれくらいなの? 君たち二人だけ? それともほかにも主要なコントリビューターがいる?
Qbix:僕たち以外にもいるよ。
Harekiet:もう1人アクティブな開発者がいたこともあったが、その人はもうやめてしまったんだ。だがほかにもアクティブな人たちが何人かいて、パッチを開発してくれてるよ。でも私から言わせてもらえば、開発についてはQbixが一番アクティブだよ。
Qbix:「h-a-l-9000」っていうオフィシャルデベロッパーもいるし、定期的にパッチを提供してくれる人たちも何人かいるんだ。
――あなたがたがやっていることで、これまで法的に困難な問題にぶつかったことは?
Qbix:多くの企業が私たちのプロジェクトを利用している。そして中にはGPLに関して無知で、DOSBoxがフリーであり、使えるってことしか分かっていない企業もある。
Harekiet:あと、RolandのROMを必要とするMT32(編注:Rolandが開発・販売していた音源モジュール)エミュレーターを先延ばしにしているのもある。確かScummVM(編注:オープンソースのアドベンチャーゲームエンジン)はすでにサポートを行っているし、それが何か厄介なことを引き起こすとは思っていない。
Qbix:そうなんだ。そして別々のドライバにすることで、より多くのプロジェクトが恩恵を受けることができる。Munt(MT-32などをエミュレートするソフトウェアシンセサイザ)は、ここ最近とても進化していて、本物のMT32と遜色ないサウンドを出せるんだ。だけど、我々は法的な問題はクリアにしておきたい。
――つまり、エミュレートを行うことで誰かに訴えられているってことはないんだね。
Qbix:その通り。
――それは良かった。
Qbix:私たちは、企業にGPLを受け入れてもらえるよう法的段取りを踏んでいるところなんだ。
――もし、誰かがあなたたちのプロジェクトに参加したい場合は、1)どんな技術が求められている? そして2)何をすればいい?
Harekiet:この質問にはいつも手こずるんだ。メールでこういった質問は受けているんだけどね。
Qbix:プロジェクトに参加したい人は誰でも、基本的にまず、うまく動かないゲームをデバッグして修正してもらうことから始めることになる。
Harekiet:DOSBoxに関する正式な文書があったりするわけではないんだけど、DOSBoxの構造が理解できれば、順調な滑り出しだといえるんじゃないかな。
Qbix:そうだな、ゲームのバグ修正といってもそんな感じで、DOSBoxや、DOSBoxがエミュレートするあらゆるものに慣れ親しむってこと。ハードウェアをはじめとし、BIOS、ビデオBIOS、DOS、XMS、EMS、MSCDEX、それからほかの山ほどの規格。
Harekiet:どちらかというと、Windowsのバグ修正にもっと時間を費やしてほしい。XPで起動しない初期の妙なWindowsゲームとか。もしくは、同様の理由でWindows 7もね。
――貴重な時間をこのインタビューに割いてくれてどうもありがとう。そして、「今月のプロジェクト」の受賞おめでとう。
Qbix:長年ホスティングしてくれてありがとう!
Harekiet:これまでダウンロードに使われたトータルの帯域ってどれくらいなの?
――総ダウンロード回数は24,256,320回だよ(編注:SourceForge.netでのカウント数)。
Harekiet: 私の計算によれば、ダウンロード1回当たり1.4MBだとすると、3.6*10^13バイトになる。33TB?この数字はちょっと大きすぎるんじゃないか。
――貴重なお時間をありがとう。
Harekiet:いえいえ。
Qbix:こちらこそありがとう!