誰でもできるOpenStreetMapへの貢献法

 OpenStreetMap(OSM)プロジェクトについては本サイトでも過去に何度か取り上げてきたが、貢献者としての参加法については言及してこなかった。旅行シーズンに限らず、OSMなどの地図をたよりに旅の計画を立てるというのは誰でも行う作業だろう。こうしたOSMプロジェクトに今度は自分から協力したいという場合、GPS(Global Positioning System)デバイスはおろか方位磁石すら所持していない人間であっても、様々な貢献法が存在するのだ。

 最初に断っておくが、本稿はOSMプロジェクトについての本格的なガイドラインを目指したものではない。そうした解説については、同プロジェクトの運営するwikiないし、新人からベテランユーザまでをも網羅した各国版のドキュメントを参照して頂きたい。

GPS情報すなわちマップ情報という誤解

 おそらくOSMにまつわる最大の誤解は、GPS所有者でないと貢献できないというものだろう(かく言う私自身も最初はそうした1人だった)。確かに、最終的にOSMマップに登録される道路情報を入手するにはGPSロガーの利用が最も簡便であることに間違いはないが、それ以外の方法でもOSMが必要とする情報を登録するのは不可能ではないのである。またGPSロガーに関しても位置情報を収集すれば終わりという訳ではなく、生データの修正、ラベル付け、既存情報のアップデートといったOSMマップ用の編集作業により多くの時間を費やさなくてはならない。そして生データについては既に多量の情報が収集されているので、今から新米貢献者が参加するとすればその後の修正作業がねらい目となるのだ。

 例えばアメリカ在住者の場合、OSMデータベースにはアメリカ政府が整備したTIGER地図セットから膨大な量の地図データがインポートされているが、その多くは未だ手つかずの未整理状態となっている。そもそもTIGERデータは、政府所有の地図情報と航空写真を基に整備されたものであり、国勢調査局により使用されてきただけあって良質なデータがそろってはいるのだが、決して完璧なものではなく、特に新造された建築物などに関する情報更新は遅れ勝ちである。

 同様に、他のユーザから提供されたGPSデータの編集作業を引き受けるのも1つの貢献法だ。定期的にGPSトラック情報をアップロードしているが、その編集セッションに移るのはかなり間を置いてから、というユーザは結構いるものである。また、ロンドンに所在するeCourierという配送サービス業者からその輸送業務にて収集された多量のトラックデータが寄付されたというように、莫大な量のGPSトラック情報が一度にアップロードされる場合も存在する。

 なおYahoo!との提携によりOSMは同社の所有する航空写真データを無料で使用できるため、OSMの地図エディタではYahoo!から提供される写真をベースに道路地図を重ねるという操作も行えるようになっている。

 ここまでは地図イコール道路情報という関係が当たり前であるかのように語ってきたが、OSMの目的には、ランドマークなどのPOI(Point Of Interest)情報を収集することも含まれている。つまりPOIとは地図上で目的地を探す際に役立つ目印情報のことで、そうした情報の追加にGPSは不要だ。POIの具体例としては、公園、アトラクション施設、公共の建築物、学校、宗教施設などの、誰でも知っている建物や敷地を思い浮かべればいいだろう。ただしPOI情報は登録することが最終的な目的ではなく、あくまでナビゲーション用の目印なので、その登録にあたっては、ユーザを目的地に誘導する際に役立つであろう地図上で目立つ特徴的なオブジェクトを選ばなくてはならない。

生データの編集という貢献

 OSMマップの改善作業に参加する1番簡単な選択肢は、ログイン用のOSM Webアカウントを作成して、自分が住む近在のローカルマップ編集に協力することだ。アカウントなしでもOSM Webサイトでのマップ表示は行えるが、ログインしたユーザは各ページの上部に表示されるEditリンクをクリックできるようになる。これにより表示されるのがPotlatchというオンライン地図エディタだ。

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Potlatch地図エディタ

 最初にPotlatchにアクセスした場合は練習専用の“Play”オプションが提示されるので、初心者の場合は実際の地図編集をする前に、PlayモードにてPotlatchの操作法を習熟しておくべきだろう。その後Potlatchの編集モードに切り替えると、Yahoo!の航空写真を背景にOSMの地図データを重ねたマップビューが表示されるが、このうち後者の要素についてはインタラクティブな操作が可能だ。この地図データはPotlatchエディタがOSMサーバからリアルタイムで取得し、その場で行った編集結果は直ちにデータベースに反映されるようになっている。

 Potlatchの場合、地図データ編集用インタフェースにFlashを利用しているため、その使用にあたってはFlash対応ブラウザを用いなくてはならない。各道路(OSM用語では“way”)の編集作業はクリックすることで始まり、これにより強調表示された道路については、その起点、終点、カーブを定義するウェイポイントが示されると同時に、道路名と分類情報などのメタデータが地図の下側に表示される。

 道路の配置を変更するには、ドラッグ&ドロップ操作にて個々のウェイポイントを移動すればいい。2つの道路が交わった場合の交差点表示などの処理は、すべてPotlatchが自動で実行してくれるが、メタデータの編集や追加といった操作は、ページ下部にあるボタンやウィジェットを介して行うようになっている。

 道路ではなくPOI情報の追加操作としては、Potlatchの地図をダブルクリックすると新規のPOIオブジェクトが作成されるので、後はページ下部に表示されるメタデータを編集するだけである。

独自データの収集および高度な編集法

 Potlatchを用いた地図データの編集法に習熟できたユーザは、その次のステップとして自分で独自のGPSトラック情報を追加するか、あるいは特定道路を表現するポイント数の最適化を施すといったより高度な編集作業に手を広げることになるだろう。

 GPSロガーを用いたデータ収集法に関しては、ハードウェア単体にせよハードウェアとソフトウェアの組み合わせにせよ、様々な方式が存在する。この場合も、OSMのwikiに用意されている個人レベルで行えるデータ収集法の解説が有用な情報源となるはずだ。

 このうち特に関心が高いのは、Nokia Internet Tabletにて利用可能なLinuxベースのMaemo Mapperであろう。Maemo Mapperはマッピングおよびルート選定ツールとしても使えるがGPSトラック機能も有しているので、移動途中のGPS情報はMaemo Mapperを介してログに残しておくようにしておき、何か登録すべきPOIに遭遇した段階でマーカーの追加をすればいいはずだ。なおOSMのwikiには、端末画面に視線を移すことなくログ収集操作を行うことを目的とした、ハードウェアボタンへのキー操作割り当て法が解説されている。

 Maemo Mapperに限らず、GPS装備の携帯電話や専用のGPSユニットで収集したGPSトラック情報をアップロードするには、各自のOSMアカウントへのログイン後、サイトに表示されるGPS Tracesボタンをクリックすればいい。ただしOSMに登録するGPSデータに関しては、広範にサポートされているGPS Exchange Format(GPX)ファイル形式であることが想定されている。

 アップロードしたGPSトラック情報がPotlatchに表示されると、地図への道路の追加や修正が行える状態となる。ここで重要なのは、GPSトラック情報がそのまま道路情報になる訳ではないことだ。つまりGPSデータはあくまで参照用の情報に過ぎず、道路情報は人間が作成しなければならないのである。

 私が最初に実行したMaemo Mapperによる位置データ収集では、デバイスの起動時や建物の中に入るごとにGPS情報に不整合が生じていたが、このように起動直後や受信状態の悪化時に不良データが記録されるのはGPSでは普通のことだ。つまりGPSトラックと言っても、それはあくまで近似的な情報なのであり、過剰に信頼しすぎず適度に妥協することが1つの重要なポイントなのである。

 私がドライブ中に収集したGPSデータとOSMの登録済み情報とを比較したところ、10から30フィートほどのズレが生じていた。ただしこの程度の食い違いはGPS測定に付随する標準的な誤差の範囲内であり、私の測定結果の方が正確であったか否かについては何も言えないため、そうした場合にデータベース上の既存データを修正すべきではないだろう。

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JOSM地図エディタ

 多量のOSMデータを編集するようになると、Potlatchと同等の操作性を備えつつより高機能なエディタが欲しくなるはずだ。そうした要望をかなえてくれるのが、マルチプラットフォームに対応したJavaベースのOSMエディタアプリケーションとして作られたJOSMである。このエディタの場合、関連する地図データのダウンロードによるオフライン操作が可能で、必要な編集をしたデータについては最後にアップロードすればいい。

 オンライン型エディタであるPotlatchによる長時間のリアルタイム編集作業では、アップデートが何度も行われる分だけサーバ時間を無駄に消費することになるが、オフライン操作の場合はそうした点を気にすることなく、より本格的な地図編集をすることができる。同じくオフライン操作であれば、道路のカーブ区画を表現するポイント数をどこまで削減しても大丈夫かといった実験や、立体交差や地下道などの込み入った表示部を整理するといった試みを行う際に、偶然そのタイミングで該当する地図にアクセスした他のユーザに迷惑をかけないかを気に病む必要はないはずだ。

ためらう事なかれ、汝をマップ編集の世界に誘わん

 OSMというプロジェクトの成否は、各自の貴重な時間を割いてボランティア参加する一般ユーザの手に委ねられている。確かに同プロジェクトのコアメンバは非常に積極的な活動をしているが、だからと言ってすべての参加者が余暇を何時間も犠牲にしたり、高価なGPSデバイスを購入する必要がある訳ではない。最初は小さな貢献でよく、例えば近所のOSMデータをチェックして1つや2つの間違いを訂正したり、あるいは適当なPOIを登録してみればいいだろう。

 ソフトウェア開発者であればOSMに貢献する窓口は多数存在するが、それ以外の人間であっても、自分で手軽に入手できる範囲内のデータを提供することは充分な貢献であり、この場合はむしろそうした情報こそが最良のデータソースとなるのだ。

Linux.com 原文(2008年8月16日)