Microsoft Officeとの互換性を重視したSoftMaker Office 2008

 フリーでオープンソースのオフィススイートOpenOffice.orgを利用する人は多いが、Microsoft Officeのプロプライエタリなファイル形式で作成されたドキュメントを正しく表示できないことがあるため、旧来の.docおよび.xlsファイルを数多く抱えたマルチOSのビジネス環境にはあまり受け入れられていない。もしOpenDocument Format(ODF)への移行を考えていないなら、 SoftMaker Office を試すとよいだろう。OpenOffice.orgキラーとまではいかないが、Microsoft Officeとの高い互換性を誇るフル機能のオフィススイートだ。フリーではなく80ドルする点が引っ掛かるが、Linuxで使えるのだからまあ善しとしよう。

 Linux用SoftMaker Officeのリリースは今回が初めてではない。以前、SoftMaker Office 2006のベータ版をレビューしたが、そのときはプレゼンテーションソフトがなく、表計算ソフトも不完全で、実際に使えそうなコンポーネントはワープロだけだった。先月アナウンスされたSoftMaker Office 2008 for Linuxは、ベータ版以外としては初めてのLinux版となる。なお、今回のバージョンにはWindows、Pocket PC、Windows CE版もある。SoftMaker Office 2008は、ワープロ(TextMaker)、表計算(PlanMaker)、プレゼンテーション(SoftMaker Presentations)の各アプリケーションで構成されている。OpenOffice.orgにあるような、データベース作成や図形描画の機能も備えているが、アプリケーションとしては独立しておらず、上記の各アプリケーション内部から利用する形となっている。

その他のオフィススイート
 Linuxユーザが使えるオフィススイートは、SoftMaker OfficeやOpenOffice.orgだけではない。しかし、KDEのKOfficeやGNOMEのGnome Officeは、コンポーネント間の連携が不十分だったり、一部のコンポーネントの機能がごく基本的なものに限られていたりする。

 どのアプリケーションを使っても、まず気付くのがその起動の速さだ。SoftMaker Office 2008のアプリケーションはすべて、かなり旧式のハードウェアでもほとんど瞬時に起動する。たとえば、CPUがCeleron 1.3GHzでメモリが1GBのノートPCであれば、TextMakerの起動に1秒とかからない。一方、OpenOffice.org Writerだと8~10秒かかる。

 Microsoft Officeで作成したドキュメントを問題なく開くことができる点は、SoftMaker Office 2008の大きな強みの1つだ。画像だけでなく変更履歴やコメントが含まれたもの、さらにはテンプレートを利用したものなど、サイズや複雑さの異なる多くのワープロドキュメントで試してみた。OpenOffice.orgにはドキュメント内のコメント表示に問題があったのだが、SoftMakerにはそうしたドキュメントの読み取り上の問題はなく、表示はもちろん、変更やコメントがどのユーザによるものかという情報もすべて正しく再現された。

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PlanMakerでExcelシートを開いた様子

 ただし、Excelシートの読み込みはそうはいかなかった。主としてMicrosoft Officeが使われている職場にいる友人の1人から、多くの関数や図表を含む370ページ分もの複雑なExcelシートを手に入れた。PlanMakerでは、このファイルを開くことはできたが「完全には読み取れませんでした。マクロやその他のコンテンツの読み込みはスキップされました」という意味のメッセージが出た。このファイルの場合、「その他のコンテンツ」とはVBAスクリプトのことだった。マニュアルによると、PlanMakerはまだExcel文書のマクロやVBAスクリプトを実行することはできず、それらを無視するが、削除するわけではないので、ファイルの保存時には元のマクロやスクリプトがそのまま保存されるという。一方のOpenOffice.org Calcでは、セキュリティ設定をオフにすると、マクロの実行に関するエラーこそ出ないものの、やはりVBAスクリプトは実行できない。

 TextMakerは、ODFのテキスト形式(.odt)で作成されたドキュメントのインポートとエクスポートに対応している。ただし、OpenOffice.orgとは違って、SoftMaker OfficeのアプリケーションではODFのスプレッドシート(.ods)を開いたり、ODFのプレゼンテーション(.odp)を扱ったりはできない。ドキュメントをPDFファイルとしてエクスポートすることは可能だが、SoftMaker OfficeのPDFエクスポートオプションはOpenOffice.orgほど充実しておらず、エクスポート範囲の選択やファイルの暗号化といったごく一般的なオプションしかない。

 また、SoftMaker Officeは埋め込みオブジェクトへの対応が不十分である。ほかのプログラムで作成したオブジェクトを埋め込めないのは仕方ないにしても、同じSoftMaker Officeのアプリケーションで作成したファイルやスプレッドシート、プレゼンテーションを埋め込むことさえできない。つまり、PlanMakerのスプレッドシートにTextMakerドキュメントを埋め込んだり、そのドキュメントへのリンクを張ることはできないのだ。これに対し、OpenOffice.orgはOLEを完全にサポートしているため、あらゆる種類のファイルやオブジェクトを埋め込むことができる。

注目すべき部分と残念な部分

 職業柄、私はワープロソフトを前にすると、最初にスペルおよび文法関連のツールをチェックする。SoftMaker Officeには、スペルチェッカーはもちろん、OpenOffice.orgのものよりずっと優れたシソーラス(同義語辞書)も付属する。単語の手動入力に対応していて使いやすく、記載されている意味や同義語もこちらのほうが適切といえる。

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コメントや変更履歴を含むMS WordファイルをTextMakerで開いた様子

 多言語コンテンツを扱う場合には、英語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ドイツ語の間での翻訳機能が使える。また、DUDENドイツ語辞書も付属しており、ドイツ語の意味や発音を調べるのに役立つ。

 マルチユーザ環境でワープロソフトを使う場合、複数のユーザがコメントの追加や変更箇所の記録を行うことになる。TextMakerも例外ではない。実際、TextMakerのコメント機能はかなりよくできている。コメント内で箇条書きの形式が使えたり、段落スタイルの利用や背景の灰色化による書式化が行えたりする。すべてのコメントは、画面右側の別領域に表示され、引き出し線によって左側の本文における該当箇所がわかるようになっている。

 PlanMakerは、前回のレビュー時から大きな進化を遂げている。OpenOffice.org Calcでできるようなスプレッドシート上の一般的な作業は、すべて可能になっている。使える機能は同じようなものだが、PlanMakerのほうが使いやすいと思える機能もいくつかある。たとえばセルの検証は、洗練されたダイアログボックス上で行うことができる。ただ、PlanMakerの最大の欠点は、マクロ機能によるタスクの自動化に対応できていないことだ。

 また、PlanMakerの印刷設定では、印刷範囲、ページ区切り、セルの選択範囲、ワークシートの指定によって、複数のページにわたる長大なスプレッドシートを扱いやすいチャンクに分割できるが、ページの大きさに合わせてデータのスケーリングを行う機能がない。

 どれくらいの関数がPlanMakerでサポートされているかはマニュアルに記述されていないが、一般的な関数はサポートされているようで、テストに用いた前述のExcelシートにあった250の関数はすべて問題なく読み込むことができた。

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SoftMaker Presentationsの画面

 新たに導入されたSoftMaker Presentationsには、図表を追加できないという大きな問題がある。ただし、それ以外には、よく使われる機能で足りないと思えるものは見当たらなかった。Microsoft Officeとの互換性という点でも、多数のオブジェクトを含むスライド54枚分のプレゼンテーションを正しくインポートすることができた。ただし、プレゼンテーション内のOLEオブジェクトは編集できず、プレビューとして表示されるのみだった。

 SoftMaker Office 2008 for Linuxには、3つのコンポーネントすべてにWindows版とLinux版の双方を対象としたわかりやすいPDFマニュアルが付属する。スキャンした画像を直接ドキュメントに取り込んでOLEオブジェクトとして埋め込む、といったWindows版専用の機能もあるが、それらについてはLinux版では使えないことが明記されている。

まとめ

 SoftMaker Office 2008は、Microsoft Officeユーザをターゲットとした優れたオフィススイートといえる。前のバージョンに比べ、機能の改良および拡充が行われている。従来のワープロ、表計算、データベース、図形描画に加え、新たにプレゼンテーションが追加されたが、やはり最強のコンポーネントはワープロソフトのTextMakerだろう。

 Softmaker Office 2008 for Linuxは、Microsoft Officeのプロプライエタリなファイル形式との互換性が高いが、OpenOffice.orgとは違って、マクロ機能やOLEに対応しておらず、OpenDocument Formatはワープロでしかサポートされていない。それでも、30日間の無料トライアル版を試す価値はあるだろう。

 80ドルという価格は、似たようなアプリケーション構成で149~399ドルするMicrosoft Officeから電子メールクライアントのOutlook Expressの分を差し引いても、安いといえる。さらに、Microsoft Officeを動かすためのWindows OSのライセンス料を考慮すると、職場でSoftMaker Office 2008 for LinuxとMicrosoft Officeのどちらを利用するかでコストに大きな違いが出る。

 ただし、GUIの見た目がOpenOffice.orgよりも良く、前回のLinux版から大幅な進化を遂げたからといって、このプロプライエタリなオフィススイートにOpenOffice.orgからユーザを奪えるほどの何かがあるとは思えない。

Linux.com 原文(2008年11月20日)