Diggのゆくえ

ソーシャルニュースサイトとして急速に成長を遂げたDiggだが、最近では問題が目立ってきた。Diggのみならず、他のいわゆるWeb 2.0なコミュニティサイトにも共通する問題かもしれない。

あるサイトにどれくらいトラフィックがあるのか知りたいとき、まず名が挙がるサービスはAlexaだろう。しかし、Alexaはデータ取得のやり方に問題があって、正直ほとんどあてにはならない。これは、すでにその筋の間ではコンセンサスになっていると思う(たとえばTechCrunchの記事)。ちなみに本家SlashdotのボスCmdrTacoもAlexaのいい加減さにキレていた。今年に入って少しは手法を改善したらしいが、それはそれで副作用が出ているようである。やはり、サイトごとに直接JavaScriptを埋め込んで集計するようなタイプのサービスでないと、まともな結果は出ないのだろう。

そう言った意味で私がこのところ参考にしているのは、埋め込み集計型でそこそこ多くのサイトから協力を得ているQuantcastだが、このサービスでソーシャルニュースサイトの雄Diggのデータを見るとなかなかおもしろい。DiggはQuantcastに協力し、サイトにJavaScriptを埋め込んでいるのでそれなりにちゃんとした結果が出ているはずなのだが、それを見るとトラフィック(Monthly People)が、特にアメリカ国内では明らかに横ばい、頭打ちになってきているのだ(Diggの場合、アメリカ国内からのアクセスが約7割を占める)。このところDiggは技術系のネタだけではなく政治やスポーツなど他の分野も大いにカバーするようになっていた(ReadWriteWebの記事に出ているグラフを見るとある意味衝撃的である)ので、増えたのかと思ったらそうでもないらしい。

私自身が気づいていたのはここまでだったが、GigaOMのOm Malikはもう少し突っ込んだことを書いている。彼が注目したのはQuantcastのデータのTraffic Frequencyだ。これを見ると、わずか1%のユーザ(Addicts)が、なんとサイト全体のPVの33%、3割以上を叩き出しているということが分かる。また、最近Diggの運営側は100人以上のユーザを出入り禁止にし、数日後にはさらに58人が同様の運命をたどったのだが、その理由は「スクリプトの使用による規約違反」だそうだ。これは、自動的に投票するスクリプトを使って記事の順位を不正に上げ下げしていたということだろう(Diggでは、ユーザによる投票の結果次第で記事が目立つトップページに出たり、出なかったりする)。この200人弱が、先ほど出てきた「1%のユーザ」の、少なくとも一部は構成していたのではないかと私は思う。こうした傾向は今に始まったことではなく、すでに2006年の時点で、トップページに出る記事のうち過半数の56%は100人の特定ユーザから投稿されていること、さらにそのうち25%はわずか20人のユーザから投稿されていることが指摘されていた(SEOmozの記事)。

これらの事実から言えそうなことは2点ある。まず一つは、Diggのネット上でのプレゼンスというのは、もともとだいぶ水増しされていたのではないか、ということだ。見た目上のPVの数%にしか現実にはリーチしていない(しかもそれはbotかもしれない)となれば、ビジネスモデルとして広告モデルを考えているところには致命傷となろう。Googleが最後の最後で買収に尻込みしたのも、チームの性格が合わないだのなんだのではなく、実はこのへんの事情に気づいたのが原因になっていたのではないかと想像する。

それよりも重要だと思われるのは、Diggのコンテンツが、一般的なイメージと異なり、実際にはごく少数のユーザによって半ば恣意的にコントロールされていたのではないか、ということだ。Diggは2004年の登場以来、記事の投稿から評価まですべてユーザに委ねられた真に「民主的な」メディアを自任し、それゆえにWeb 2.0の旗手としてもてはやされてきた。それだけに、これは重大な問題なのではないかと思う。

実のところ私は、メディアが民主的であればあるほど、ある種の情報操作に脆弱なのではないかと考えている。「群衆の叡智」と言ったところで、実情はごく少数の意見がストレートに大きく投影された影絵のようなものでしかない可能性があるわけだ。むしろ、なまじ「『みんなの意見』は案外正しい」などと素直に思い込んでいると、誰かの仕込みに容易にひっかかってしまいそうである。こうした陥穽を、どこまで技術的な工夫で避けられるかが、今後ソーシャルニュースサイトを設計運営する上で大きな課題となると考えられる。