NPX-9000 UMPC、安価だが力不足

 安価なノートパソコン、つまりミニノート、あるいは超軽量ノートが人気を集めている。現在の安さの極みは7月にCarapelliが65ポンド(およそ1万1000円)という価格で華々しく発表したNPX-9000だろう。同社のWebサイトにはまだ掲載されていないが、このほど製造工場から最初のロットを入手し、仕様や性能を確認した。それは「値段に見合った製品」を超えるものではなかった。

 NPX-9000は低価格だが、その表示には若干のからくりがある。あの価格は、実際には、中国で航空機や船に積み込まれた100台についての価格なのだ。輸入となれば輸送費と関税がかかり、EUではさらに付加価値税も課され、店頭では今夏発表された価格のほぼ2倍になるだろう。なお、Carapelliによると、欧州や北米ではまだ販売されておらず、Windows XP搭載のTNX-9500を待って両機種が同時販売されるという。

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NPX-9000

 英国や米国では、Maplin(英国)やImpluse(米国)などから、NPX-9000によく似たミニノートがすでに発売されている。外観が似ているのは同じ筐体を使っているからだが、似ているのはそこまでだ。NPX-9000はそれらに比べ、プロセッサーが遅く(400MHzのMarvel Xscale)、RAMは少なく(128MB)、ストレージは小さく(1GBのフラッシュ・メモリー)、画面も狭い(7型、480×324ピクセル)。80キーのキーボードの大きさはフルサイズの8割ほどだ。ネットワーク機能もWi-Fiも内蔵されていない(同社によると将来のモデルではワイヤレス・アダプターが使えるようになるという)。ただし、試用したモデルにはUSBイーサーネット・アダプターが付属していた。なお、ほかのメーカーのワイヤレス・アダプターを試してみたが、設定画面が現れず使うことはできなかった。

 そのほか、マイクとスピーカー、VGAポート、USBポート4基(通常サイズ3、ミニ1)、マイクとヘッドフォンとラインのジャック、SDカード・スロットが装備されている。

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NPX-9000のデスクトップ

 Carapelliは、ARMプロセッサー向けLinux 2.4カーネルと種々のフリーソフトウェア・プロジェクトを基にしてLinux OSとソフトウェアを独自開発した。スプラッシュ画面にはHighne 2008と表示されるが、詳細は不明。同社はソフトウェアのソースを公開する予定はないという。もしGPL下のコードを変更せずにそのまま使っているのであれば、公開の義務はない。

 システムはブラックボックス化されており、Webブラウザーでファイル・システム周りを見ることはできるが、コマンドを実行するターミナル・エミュレーターも「Run Command」GUIもない。アップデートをダウンロードしインストールするソフトウェア・アップデート・システムはあるが、新しいアプリケーションをインストールすることはできない。GUI以外でログインすることもBIOSを設定して起動処理を変更することもできず、ROMチップを書き換えることもできないのでOSを変更したりソフトウェアを追加したりする方法はない。

 OSは、Windows XPの縮小版のような形にカスタマイズされている。たとえば、My ComputerでC:ドライブのMy Documentsに移動し、USBスティックを差すとD:ドライブになる。単純な目的に使うのであればこの方がよいのだろうが、Linux愛好家には好かれまい。試行に使ったモデルではXPに似せてMicrosoftのアイコンやXP起動時のチャイムまで使われているが、リリースまでに変更されるはずだ。

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NPX-9000のファイルマネージャー

 画面については少々問題がある。フォントのレンダリングがよくないし、ブラウザーはほとんどのWebサイトに適さない。ほかにも、使えることは使えるが、いらいらさせられるような点がある。たとえば、My Computerを2つ開いて、両者間でファイルをドラッグ&ドロップすることができない(2つ開けたとしても、両方を見えるようにする余地はないが)。ファイルをコピーするには、まずそのファイルを(クリップボードに)コピーし、次いでコピー先のディレクトリーに移動してからペーストするしかない。

 試用したモデルに付属していたオプションのUSBイーサーネット・アダプターはデフォルトではDHCPを使用する。固定したアドレスを指定することもできる。ルーターに接続するとシステムはオンラインになりWebを閲覧することができるが、ローカル・ネットワークは見えなくなる。

 この種の機器はWebブラウザーが命であり、NPX-9000も力を入れているはずだ。NPX-9000のブラウザーは高機能ブラウザーKonquerorを基にしているようだが、動きがぎごちない。それがソースコードの変更を意味しているのか、したがってGPLに抵触しているのかは、筆者には判断できない。ひょっとしたら、標準的なOESFバージョンかもしれないし、筆者の知らないプロジェクトのものかもしれない。このブラウザーは通常の閲覧はできるが、ページを保存したりテキストをワードプロセッサーにコピー&ペーストしたりすることはできず、ブックマークもできないため、調査には不向きだ。

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メディアプレーヤー

 NPX-9000は娯楽にも向いていない。Flashはバージョン6までで、YouTubeには使えない。MP3とAVIファイルに対応した簡単なメディアプレーヤーはある。画面にはワイドスクリーンのビデオも一応表示される(解像度は低いが)。スピーカーは小さく耳障りだが、ヘッドフォンの音質は驚くほどよい。

 オフィス用アプリケーションは、簡単なワードプロセッサーと表計算が同梱されている。ソフトウェアそれ自体に問題はないが、一般的なオフィス・スイートとの互換性はきわめて低い。ワードプロセッサーは.rtfで、表計算は.csvで保存し、OpenOffice.orgやMicrosoft Office形式のほとんどのファイルは開けない。本格的に作成する前のちょっとしたメモや作業の取っかかりとして作る文書であれば十分だろうが。ほかに、KDEのKateを基にした組み込み型Linuxのためのテキスト・エディターであるTinyKateもインストールされている。

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ワードプロセッサー

 このパソコンは、一体、どのような利用者をターゲットにしているのだろうか。確かに、きわめて廉価でOSとソフトウェアには触れられないため壊れることがなく、誰にでも使える。しかし、その反面、使い方は制限される。英国にはすでに性能がよく、さほど高くもないMaplin Minibookがあり、他の国でも同クラスの製品が登場し始めている。NPX-9000は簡略化しすぎである。

Phil Thane デザインと技術の教員を経て、現在は英国の教育用ソフトウェア企業のサポート担当マネージャー。長年、さまざまな教育雑誌、技術雑誌に執筆していた。2005年から完全なフリーランス。

Linux.com 原文(2008年10月7日)