autonomo.us:ネットワークサービスソフトウェアのライセンス問題を考えるシンクタンクを目指す

 ネットワークサービスはソフトウェア業界で最近もっとも急成長している分野の一つだが、ネットワークサービスではフリーソフトウェアが大いに活用されている一方で、フリーなライセンスの下で利用可能なサービスが少ないという議論があり、FSF(フリーソフトウェア財団)のネットワークサービス向けのGNU Affero GPL(GNU Affero一般公衆利用許諾契約書)の最新版もつい最近(昨年の11月に)リリースされたばかりだ。そのような状況を考えると、先週発表されたautonomo.usのような組織が設立される下地はすでに十二分に整っていたとも言えるだろう。autonomo.usは「ネットワークサービスにおけるソフトウェアの自由についての問題を重点的に取り扱う」ために新設された活動家グループだ。短期的な計画についてはまだ検討中だが、現在のところの長期的な目標は(と言っても、実のところ、現時点ではこれ以外にはまだ何も決まっていないのだが)ネットワークサービスと自由についての問題について議論し、人々に考えさせるグループになるということのようだ。

 GNOME Foundationでの業績でも有名なLuis Villa氏によればautonomo.usのルーツは昨年に遡り、同氏がGNOME Online Desktopとの関連でソフトウェアの自由とネットワークサービスに関するブログ記事を書いたことなのだという。Villa氏は「この問題を話し合うために数人の人々に声をかけた。特にMako(Hill氏)とは激しい議論になって、どちらからともなく同士を募って議論を続けるためのグループを作ろうという話になった」と振り返った。そしてそのグループは今年の3月16日にボストンで集まった。

 autonomo.usのメンバーには、活動家としてや法律関係の経歴を持つ人が多い。また様々なフリーソフトウェア関連の組織を代表する人々でもある。Villa氏以外のメンバーとしては、Gabriel Burt氏(Novell)、Jonathan Gray氏(Open Knowledge Foundation/Open Service Definition)、Benjamin Mako Hill氏(MIT/FSF)、Bradley Kuhn氏(Software Freedom Law Center/Software Freedom Conservancy)、Mike Linksvayer氏(CC)、Henry Poole氏(FSF/CivicActions)、Evan Prodromou氏、Kragen Sitaker氏、Brett Smith氏(FSF)、Aaron Swartz氏、James Vasile氏(Software Freedom Law Center)などが名を連ねている。

 Villa氏によればautonomo.usというグループ名ではあるものの、特に米国に限定したものではないという。Villa氏によれば「autonomousという言葉はfree(自由)の別の表現だと考えて欲しい」とのことだ。これまでのところのautonomo.usの主な活動は、グループのブログの作成と、グループの活動の根拠を示したマニフェストである「Franklin Street Statement on Freedom and Network Services(自由とネットワークサービスについてのフランクリン通り宣言)」の発表だ。

 フランクリン通りというややロマンチックな印象の名前はFSFの事務所の所在地のことだが、FSFとは直接的には関係はないのだという。また取材に対して複数のautonomo.usのメンバーが、autonomo.usの各メンバーは完全に個人として活動していると説明した。

 Villa氏は次のように述べた。「とは言え明らかにどのメンバーもそれぞれ何らかの組織と関係を持っている。そして、少なくとも複数のメンバーが長期的には各自の組織もわれわれの考え方を部分的にであれ全面的にであれ取り入れるようになることを望んでいる。またメンバー全員がすべてについて同じ意見を持っているわけではないという点も重要だ。例えば私自身は他の一部のメンバーに比べればビジネスに対して寛容な方かもしれない。一方で、中央集権的なウェブアプリケーションをすべてp2pベースのアプリケーションに置き換えなければダメだと考えているメンバーもいる」。

 なおautonomo.usは他の組織からの資金的な援助は受けていないという。ただし3月16日の会合のための場所はFSFが提供したとのことだ。

会話を始める

 autonomo.usの関心事についてVilla氏は次のように説明した。「ネットワーク上でホストされるソフトウェアという現在のトレンドは数多くの利点をもたらすものの、ユーザの自由は制限される。なぜなら多くの場合、ユーザは自らが使用するサービスのデータやハードウェアやソフトウェアを思い通りに管理することができないためだ。近いうちにこのトレンドがなくなりそうにはない(むしろ勢いを増しているようだ)ということを考えると、集まってこの問題を考えることが重要に思われた」。

 CivicActionsのHenry Poole氏は、ネットワークサービスの管理の自由については非営利組織において特に問題になりつつあると付け加えて、次のように説明した。「NGOでの私自身の実体験から言って、使命に基づいて活動する組織の価値観と、営利目的のSaaS(Software as a Service)プロバイダとは相容れないということに対する懸念が大きくなりつつある。CivicActionsではすでにAmnesty International、American Civil Liberties Union、WITNESS、FSF、Creative Commonsなどといった数多くの非営利組織クライアントが抱える、そのようなプロバイダから独立したいという必要性に応えてきた。これらの組織がソーシャルウェブへと成長していくにつれて、各組織の価値観に沿った開発者や、各組織がそのメンバーと交わしている社会契約を壊さないようなサービスに対する必要性が生まれている」。

 現時点でのautonomo.usについてVilla氏は次のように説明した。「サロンという性格がもっとも大きい――つまり、人々が集まって意見交換をする場所だ。そのため正式なメンバーではない人々がサロン/ブログに立ち寄ることもあるし、われわれも同じような関心を持つ人々を常に求めている。autonomo.usは、明確な定義のあるメンバーシップや主義を掲げた政党のようなものではなく、真摯な思想家や良心的な活動家がぶらりと立ち寄って話をすることを常に歓迎している、非常にくだけたシンクタンクのようなものだと考えてもらえれば良いと思う」。

 とは言え、自らを「ハッカー兼企業家」と称するEvan Prodromou氏は、autonomo.usの一般原則は自らのデータを自由に管理するユーザの権利だけではないとして、以下のような項目も挙げた。

  • 利用しているサービスのコードを見て調べる権利
  • 利用しているまさにそのコードをユーザ自身のサーバまたはレンタルサーバ上で実行する権利
  • コードを変更する権利
  • (特にソーシャルネットワーキング的な側面がある場合)利用しているサービスを他のサービスと連係させる権利
  • 利用しているサービスのデータを、他のサービス/システム/メディア上にコピー/変換する権利

 Villa氏は「われわれの考えに磨きをかけたり公表したりするために声明文を時折発表するかもしれないが、そのようなことは他の組織に任せることになるかもしれない」と述べた。

 とは言え役員や正式な代表者がいないということからも分かるように、autonomo.usは開放的で分散型のグループになろうとしている。Poole氏は次のように述べた。「autonomo.usのメンバーは各自の独立性を重視しているが、皆、自由とオープンであることを重視している。この分野におけるより活動家的な役割については、何らかのエンドユーザのグループが組織されて果たすようになるのではないだろうか。そのようなグループの方針が中央集権的に取り決められることはあまりないと思うが、われわれがコミュニティに関与することによって、最終的にはネットワークのエンドユーザ側に管理権限が移り、個人個人が脅威やチャンスに対してより迅速に対応できるようになるだろう」。

 Villa氏によれば現時点でのautonomo.usには、ソフトウェアの自由の促進と議論の奨励以外に具体的な計画はないという。「現時点での主な目標は教育と刺激だと考えている――少なくとも、時々あるように人々が考えることを途中でやめてしまうということがないように、これらの問題を考え続けるように人々を駆り立てたいと思っている」。

 これは曖昧な目標だが、おそらくあのFSFでさえも開始当初はこれ以上に明確な目標を掲げていたわけではないだろう。またおそらく今の段階では、ネットワークサービスとソフトウェアの自由について人々に考えさせることこそが、行うべき最重要の活動なのかもしれない。

Bruce Byfieldは、Linux.comに定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文