ネットワーク分散型ソフトウェアを想定したFSFライセンスのリリース

 GPLv3(GNU General Public License version 3)がリリースされてから約5カ月の間を経て、今回Free Software Foundation(FSF)からはGNU Affero General Public License(GAGPL)が公開された。これによりFSFの定める主要ライセンスの改訂作業はすべて完了したことになる。このGAGPLの適用対象としては、Webアプリケーションやサービス型ソフトウェアなどのネットワーク分散型ソフトウェアが想定されている。

 GAGPLという略称にその名を残すAfferoとは、その前身となったライセンスを定めた団体名であり、この種の理念に対してWeb上での寄付を募ることを目的としてFSFの取締役を務めるHenri Pool氏等により設立された組織のことである。

 このAfferoがFSFの支援下で2002年に構築していたのが、ソフトウェアの改変行為に対処することを目的としたAffero General Public License(AGPL)である。同団体がこうした規定が必要だと判断した理由は、当時の最新版ライセンスであったGPLバージョン2(GPLv2)には、1つのシステムという形態でソフトウェアを頒布する行為に関する文言が定められていなかったためであった。同ライセンスに定められている内容は基本的にGPLv2と同じものだが、異なるのはセクション2dに定められているコードの再頒布者に対する規定で、送信するソースコードにはすべての既存機能を保持するか、あるいは「それに相当する機会」として「全ソースコードをHTTP経由で随時送信」できるようにしておくことが義務付けられていた。

新たなライセンスとして作成された背景

 FSFでコンプライアンスエンジニアを務めるBrett Smith氏によると、AGPLを改訂する必要が生じた理由は、現行バージョンとは異なりGPLv2では例外事項や追加的許可に関する規定がなかったため、AGPLそのままでは整合性が取れなかったことにあるそうだ。

 FSFとしてもネットワーク分散型ソフトウェアの増加に対処する必要上、GPLの改訂を行う際にはSmith氏が呼ぶところのAGPLの“精神的な後継者”を随伴させることを決定していたが、そのライセンスで扱う内容に変化はなかったものの、GPLの新規バージョンとの整合性を持たせる必要が生じたのである。

 これまでにもネットワーク分散型ソフトウェアについては様々なフリーライセンスが作られているが、Smith氏によると、こうしたものの大半は「コピーレフト(copyleft)ライセンスとして弱すぎます」ということであり、保護対象のプロプライエタリ化を比較的簡単に容認してしまうとされている。FSFが求めたのはこれと対照的な強力なライセンスであり、それと同時に、GPLと同様の自由な任意の改変を許可するものでならねばならなかった。

 FSFがこうした選択をした最大の動機は、ネットワーク分散型ソフトウェアを扱う強靱なフリーソフトウェアコミュニティを育成することにあった。「GPLが大きな成功を収められた理由の1つは、強力なコピーレフトライセンスを定めておくことで、コミュニティ形成を促進できたからです」とSmith氏は語る。「全員が守るべき共通化された規則が定められていることは、そうしたコミュニティに参加しようという意欲を向上させることになりますからね。私どもとしてはGAGPLも同様の役割を果たして、コミュニティの育成に貢献することを希望する次第です」

 これはSmith氏の口から聞かされた話ではないが、おそらく最大の動機となったのは、ネットワーク分散型ソフトウェアが普及しつつある比較的早期の段階にて有力なフリーライセンスを利用可能としておくことで、この分野の成長と共にフリーソフトウェアの占める役割を広げられるという目論見があったのではなかろうか。

 これに先立つGPLの改訂時においてFSFは、標準化しない例外規定を新規に設けておくことでGAGPLの位置付けをGPLの特殊例とするというアイデアを却下したことがあったが、それはLesser GNU General Public License(LGPL)がバージョン3に改訂された際のことを想起させる提案であった。結果的にGAGPLは1つの独立したライセンスとして定められることになったが、それは特定の個別的な状況をカバーさせる必要性および、Smith氏の言葉を借りれば「混乱を避ける」ための措置が求められたからである。

ライセンスを特徴付ける規定

 このように一応は独立したライセンスとされてはいるものの、GAGPLの規定はGPLの最新バージョンとその多くが重なっている。ライセンス名が異なるのは当然として、双方のライセンスにおける大きな相違点は、その前文およびセクション13に見て取れる。

 GAGPLの前文は、同ライセンスが「ネットワークサーバ(型ソフトウェア)に関係するコミュニティとの協力を念頭において」作成されたものであり、また同ライセンスでは「ネットワークサーバの運用側は、そこで使用するソースコードの改変バージョンを、サーバを利用するユーザに提供することが要求される」という文章で始まっている。そして前文の最後に記されているのは、GAGPLはAGPLの後継バージョンではないことおよび、「AfferoによりリリースされたAffero GPLの新規バージョンでは、同ライセンスへの変更を認めている」という注意の喚起である。

 次にGPLとの大きな相違点が現れるのがセクション13である。GPLのセクション13は、GPLライセンスの適用物がGAGPLの最新バージョンの適用物と合わせて使われる可能性についての記述に割かれている。その際にGPLは「適用対象に対する当該部への効力を有し続ける」とされる一方で、結合著作物(combined work)全体に関してはGAGPLのセクション13に定めた特別要件が適用されることになるのである。

 この特別要件で課せられているのは改変版コードの頒布者に対する規定であり、そうしたものを「コンピュータネットワークを介して遠隔的に利用するすべてのユーザ」には、無償の行為としてソースコードを「目立つ場所にて提供する」必要があり、その対象にはGPL適用下でリリースされたものすべてが含まれるという旨の内容である。そして同セクションの第2パラグラフでは、GPL側のセクション13に定められた要件がそのまま記載されている。

今後の展望

 今回行われたGAGPLのリリースをもって、FSFの主要ライセンスの改訂作業は一通り終わったことになる。もっともGNU Free Documentation Licenseの改訂についてはまだ検討段階に止まっているが、Smith氏の語るところでは、ソフトウェアと通常の文章とではその扱いが大きく異なるため、この議論の行方がGPL、LGPL、GAGPLに影響する可能性は限りなく低いとのことである。

 なおSmith氏が強調していたのは、今回のGAGPLをしてFSFによるネットワーク分散型ソフトウェアの問題に対する最終回答であると見なすのは、必ずしも正しくないということだ。「これは変化の激しい分野であるため、フリーソフトウェアコミュニティの内部でも自分達がどう対応するべきかの子細を決めかねている段階です。ライセンスが重要な要件であるのは間違いありませんが、それも全体を構成する一部に過ぎないということですね」

 こうしたSmith氏の発言の背景にあるのは、この分野が成長するにつれて関連する問題も変容していくものであり、それに伴い当該分野におけるフリーソフトウェアのベストプラクティスも新たな対応が迫られるだろうという予測である。

 「GAGPLがすべての問題を解決してくれる訳ではありません」とSmith氏は語る。「私どもも、その辺はわきまえております。とは言うものの、この種の問題に関心を持つ人々に1つの有用な選択肢を提供する存在のはずであり、よい方向に貢献してくれるであろうとの自負は持っていますが」

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.com、IT Manager’s Journalに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文