Vancouver Joomla!Dayを事例としたコミュニティ形成活動のケーススタディ

 多くのフリーソフトウェア系プロジェクトがその規模を拡大していく過程で遭遇する問題の1つは、“自分達のコミュニティ”という意識をいかにしてメンバー間で形成させるかであろう。こうしたコミュニティ形成活動を成功に導いた事例の1つとして挙げることができるのがJoomla!というコンテンツ管理システムであり、実際ここ数年で同プロジェクトを取り巻くコミュニティは、世界各地にてJoomla!Dayというイベントを開催するまでに成長しているのである。本稿では先週末に開かれたVancouver Joomla!Dayの運営手法を参考にして、ソーシャルネットワーキングを活用したイベントの展開法および、近代的なコミュニティ形成の手法を考察してみよう。

 実のところJoomla!Dayというイベントについては、これが最初にいつ組織されたかを正しく覚えている人間は皆無のようであり、Joomla!コアチームに属すBrad Baker氏は2006年のオランダあたりだろうと語っている。そうした訳で、このイベントの提唱者すらもはっきりしていないのだが、それと対照的に明確化しているのは今日における同イベントの人気の高さだ。例えば2008年半ばの現段階において既に、南アフリカ、オーストラリア、タイ、フィリピン、カナダなどにて7つのJoomla!Dayが開催されており、残り半年の間にも更なるイベントの開催が予定されているのである。

 いずれのJoomla!Dayも地元ボランティアが組織したものであり、参加者数的には100ないし200名程度の規模であるが、Joomla!および同コンファレンスの人気の高まりに比例する形で、最近のイベントでは参加者数が最大400名に達したケースもいくつかあったと報告されている。こうしたイベントがJoomla!の商標を使用するには同プロジェクトからの許諾が必要だが、Baker氏によると、イベント閉幕後に経費の一覧を提出すれば最大1,000ドルの支援金をプロジェクト側から提供する場合もあるとのことだ。またイベントによっては教育関連の機関がスポンサーに付くケースもあり、あるいは同時開催されるより大規模な他のコンファレンスからの金銭的な支援を得られる場合もあるとされている。

 とは言うものの、基本的に開催経費の大半を賄っているのは入場チケットの売り上げである。本稿で取り上げるVancouver Joomla!Dayもそうした典型例の1つで、今回は1人あたり25ドルの料金を支払った約110名の参加者が入場している。オーガナイザを務めたWendy Robinson氏によると、イベント開催の総経費は4,000ドル前後とのことだ。なお同氏はJoomla!フォーラムのメンバ兼、同プロジェクトの法務を担当するOpenSourceMattersの評議員でもある。

 同プロジェクトのコアチームはこうしたJoomla!Dayを支援する目的で、地理的に近い地区に所在する何名かのメンバを可能な限り参加させるようにしているとのことだ。特にバンクーバのイベントには同プロジェクトの主要メンバが多数参加しており、その内訳はコアチームから4名、OpenSourceMattersの評議員2名という構成になっている。Baker氏によると、ここまでの豪華メンバがそろうケースは例外だとしても、プロジェクトに積極的な参加をしている人員を常に何人か派遣して、コンファレンスにて何らかの講演をするようコアチームは努めているとのことだ。

 これはコアチーム側にとって結構な負担となっているようであって、例えばバンクーバのイベントに派遣された何名かは、本年前半だけで既に4件以上のJoomla!Dayに参加しており、また先週ドイツで開かれたCore Team Summitへの参加時には深刻な時差に悩まされた者が散見されたようである。

 こうした組織的な支援態勢が設けられている一方で、同プロジェクトに積極的な参加をしているメンバーの傾向として、この種のイベントには自発的な協力をしようとする姿勢が見受けられる。つまりこうした規模の小さいイベントは、大規模なコンファレンスや展示会のようなフォーマルな催しとは異なり参加時のストレスも小さいため、むしろイベント開催地に参集したプレゼンターどうしが人的ネットワークを形成する場として利用しやすいというのだ。

 「Joomla!チームのメンバーとは2年も前から知己を得てはいましたが、今回ようやく顔を合わすことができたのは大きな感激でしたね」とバンクーバのイベントが半ばを過ぎた当たりでRobinson氏は語っていた。「もう1つ驚いたのは、皆さん事前に聞かされていたとおりの方ばかりで、ある意味それも素晴らしいことです。こうして実際に対面した経験があると、オンラインでの付き合いもしやすくなるというものですよ」

人的ネットワークの形成を目的としたスケジュールの再編

 講演者にしろトピックにしろ、書面上の記載事項だけではVancouver Joomla!Dayと他のコンファレンスとの間に大きな相違点は見いだしにくいであろう。Joomla!Dayの最大の特徴は、そこで行われるプレゼンテーションが単なる情報提示を目的としていないという点であり、そうした催し物は人的なネットワーク形成の下地にされていたのである。

 「多くのオープンソース系プロジェクトにおいて、その参加メンバーが何かの機会に集まって意見の交換や人的な交流を行うのは不可欠な要素です」と語るのは、Joomla!のコンサルタントでバンクーバのイベントのオーガナイザの1人でもあるRastin Mehr氏だ。「イベントの参加者どうしは社交上の儀礼からも食事やお茶を同席したりするものですし、あるいは席を並べて同じプレゼンテーションを聴くことになるかもしれません。私どもの目的である共通のコミュニティに属すメンバーとしての意識は、そうした儀礼を経ることで育成されるものです」

 実のところVancouver Joomla!Dayの構成はこうした理念に基づいた再編成を経ているのだと、RobinsonおよびMehrの両氏は説明している。当初オーガナイザ側は伝統的なコンファレンスの在り方に従って、かなり厳密なスケジュールを組んでいたのだそうだ。ところがその後Joomla!コミュニティ側からの要望があったため、大幅な改訂を施し、個々のプレゼンテーション枠を切りつめて、これらの最後にディスカッション用の時間を割り当てたのである。

 その他にも当日のスケジュールのうち6つの時間枠は、当日参加した聴衆が各自のJoomla!プロジェクトおよび関連問題について語るためにリザーブされており、これは聴衆参加型のイベントという基本方針に従うだけでなく、Joomla!で可能な各種の運用法を互いに紹介し合う場を提供することを目指したものだ。例えば今回バンクーバで誕生した即席プレゼンターの1人は、Joomla!を用いた多言語対応型Webサイトの管理法を紹介し、また障害年金関係でJoomla!を比較的最近使い始めたばかりという人物は、タイプII糖尿病についての情報提供サイトを構築したという事例を報告していた。

 イベント当日のサポート的な催しとしては、今や恒例と化したJoomla!関連グッズやサービスの福引き大会を始め、1時間限定の立食ビュッフェおよび、最後に開催されたネットワーキングセッションなどが開催されていた。

 先に触れた改訂後のスケジュールにおける特色の1つは、プログラマー以外の参加者を取り込むための特殊なセッションをオーガナイザ側が各種設けておいたことだろう。例えば今回は、ページテンプレートやパフォーマンステストに関するプレゼンテーションだけでなく、ミュージシャンによるJoomla!の使用例および同プロジェクトへの参加法の紹介が行われているのである。「私の目標は、初心者ユーザー、テンプレートデザイナ、ソフトウェア開発者といった、あらゆるタイプの聴衆それぞれに有用な情報を提供したいということでした」と語るのはRobinson氏だ。「要は、聴衆1人1人にとって何か得られるものがあり、わざわざ参加した価値があったと感じてもらえればいいと思っています」

 「特に重要なのは、準備段階からあまりに個別的な要件のみに特化したイベントにしないことです」と語るのは、ローカルなネットワーキング系イベントのオーガナイザを何度も務めた経験を有すMehr氏である。「そもそも私の好みとしては、雑多な組み合わせというスタイルの方が性に合っています。開発者でない参加者にとって重要なのは何らかの基礎的なスキルを得ることでしょうし、開発者にとって重要なのはマーケティングやコミュニケーション関連の理解を深めることでしょう。物事を1つの側面でしか捉えていない人間は、ソフトウェア開発にせよマーケティング活動にせよ、たいていろくな成果を残せないものですよ」

コンファレンスの在り方とソーシャルネットワーキングの利用法

 Vancouver Joomla!Dayにおけるその他の特色の1つは、それだけで自己完結したイベントとするのではなく、Joomla!に対する関心を地元のハイテク系コミュニティにて呼び起こすことを目的とした一連のオンライン上での交流活動を組み合わせていたことである。

 Mehr氏は同イベントの開催告知をTwitterおよびブログを活用して広めると同時に、そうした場で付けるタグを共通化することでオンラインでの露出度を高めるよう、参加者に協力を呼びかけていた。そしてイベントの開催日にはMehr氏と最低もう1人のメンバが担当者となり、現在行われている内容をブログとTwitter上でライブレポートするようにしたのだ。またその後Mehr氏は、コンファレンス参加者それぞれの体験談を各自のブログにてレポートすることおよび、ローカルのネットワーキングフォーラムにて議題に取り上げることを奨励していた。つまり同氏の意識としては、「本イベントに対する話題を開催前後の期間を通じて盛り上げることは、イベントそのものよりも意味があるはずです」という構想が存在したのである。

 Mehr氏が説明するところによると、こうした試みの背景には、地元レベルでのJoomla!の知名度を高めることおよび、バンクーバ周辺で行われている各種のJoomla!関連活動を活性化することが意図されていたのだそうだ。また一方でRobinson氏としては、現在話題のソーシャルネットワーキングを有効活用する形でJoomla!のユーザグループが形成されることを目論んでいるそうだが、実際に同コンファレンスの終了時には、Joomla!に関連したその他のセッションを話題にしていた参加者が何人かいたとのことである。

 こうしたソーシャルネットワーキングの活用法はあらゆるフリーソフトウェアプロジェクトにとって有効な手法ではあるだろうが、特にJoomla!の場合については、このタイプの活動が適している独自の理由が存在しているのである。例えばJoomla!Day以外のイベントとして同プロジェクトは本年Joomla! Doc Campを開催しているだけでなく、来週には第2回Pizzas, Bugs and Funが予定されているのだ。特に後者は、Joomla!コミュニティのメンバが各自の所属地域別ないしオンライン上に集合して、バグフィックス、各種試験、ドキュメント整備という活動に従事してもらおうというイベントなのである。つまりJoomla!Dayと同様、こうしたイベントについては各ローカルコミュニティ内部での連帯心を高めると同時に、世界各地で活動するJoomla!ユーザ間の連携を図るという効果を期待できるのだ。

 これはソーシャルネットワーキングというツールをコミュニティ形成という具体的な用途に活用することを試みた画期的な発想なのであり、あるいはソーシャルネットワーキングの最も有益な使用法を実証した初の事例としてもいいのではなかろうか。いずれにせよここで評価すべきは、共通の目的を有す雑多な人々が協力して活動するための機会を用意してみせたというただ1点に尽きることになるだろう。

 コミュニティ形成を目的とした独自のコンファレンスを開催しようとする人々へのアドバイスとしてMehr氏は「これからイベントを組織しようとするのであれば、参加者間のネットワーク形成を促進する場を設けることです」と語っている。「活動のプロセス中に参加者を積極的に取り込むようにし、こうした人々をプレーヤの1人とするようにしなければなりません。講演者やプレゼンタのみをメインに据えたイベントは過去の遺物なのであり、そうした構成に陥らないよう心がける必要もあります」

Bruce Byfieldは、コンピュータジャーナリストとして活躍しており、Linux.comに定期的に寄稿している。

Linux.com 原文