Spicebird――ThunderbirdとLightningをベースに誕生した統合クライアント

  Spicebird は、電子メールソフトのMozilla Thunderbirdをベースに作成されたクロスプラットフォーム対応の多機能型コラボレーションクライアントである。これまではThunderbirdを愛用してきたが、標準ビルドにプラスアルファの機能を求めているというユーザならば、これを機に新種のメーラを試してみてもいいのではないだろうか。

 最新バージョンに当たるBeta 0.4がリリースされたのは本年1月のことであり、現状ではIntel版Linux用のtarボールおよびWindows用バイナリのインストーラをダウンロードすることができる。Linuxバージョンのインストールに必要な作業は、tarボールを展開して、同梱されている./spicebirdスクリプトをコマンドラインから実行するだけである。

Spicebirdの概要

 Spicebirdの初回起動時にはアカウントのセットアップ用ウィザードが表示されるが、これはThunderbirdユーザであればお馴染みのものである。このようにSpicebirdは基本的にThunderbirdをベースとしているが、各ユーザのプロファイルは独自のディレクトリ(~/.spicebird)に格納するよう改められているため、既存のThunderbird設定を上書きしたり破損させる心配はない。

 セットアップ用ウィザードでの登録作業が完了すると、両アプリケーションの具体的な相違点が確認できるようになる。Thunderbirdのコアを成しているのはメール/ニュース関連機能であるが、それに対してSpicebirdでは、カレンダ、インスタントメッセージ、RSSフィードリーダという3種類の機能が追加されているのである。更にSpicebirdではタブ型インタフェースが採用されており、メール、コンタクト、カレンダ、タスク管理がタブ分けされているほか、こうしたカレンダとタスク関連のイベントおよび新着のメールやRSSフィードの概要を一括表示するための“Home”タブが用意されている。

 カレンダ機能のベースとなっているのは、定評のあるMozilla製SunbirdおよびLightning機能拡張である。またこのアプリケーションでは、CalDAVないしiCalendarを用いたリモートカレンダおよびローカルカレンダを複数サポートできるようになっている。その他Mozilla製カレンダアプリケーションと同様に、イベントの繰り返し設定や招待状の送信といった機能も利用できる。

 タスクリストのサポート用に専用タブを用意したのは、優れた変更だと評していいだろう。現状のMozilla版タスク管理では、カテゴリ分け、GTD準拠のステータスアップデート、簡易的な優先順位付けと進捗管理(高中低の優先順位および25%単位の進捗管理)機能をサポートしているが、これらのタスクはカレンダシステムの一部として実装されている関係上、個々のタスクはカレンダとの関連付けをしておく必要があるのだ。

 SpicebirdのContactsタブにはJabber(XMPP)のみをサポートしたインスタントメッセージ(IM)クライアントが統合されており、IMでのチャットを開始するには、ユーザが各自のプレゼンスステータスをツールバーにて設定し、アドレス帳にてコンタクトエントリをクリックするだけである。またSpicebirdでは、既存のXMPPサービス(Google Talkなど)に接続し、そこに登録してあるバディリスト(友人リスト)を新規のアドレス帳としてContactsタブにインポートする機能も用意されている。デフォルト設定下でのIMプレゼンスの表示はContactsタブでのみ行われるが、View → Toolbars → Customize Toolbarを選択することで他のタブのツールバーに表示ボタンを追加させることもできる。

 Homeタブの構成は、最近のWebポータルでよく見られるカスタマイズ可能なウィジェット形式のスタートページに似ており、カレンダや電子メールなどの各種コンテンツを移動可能な独立型ブロックとして扱えるようになっている。これらブロック内の表示についても、特定のメールフォルダ群(Inboxその他)だけをピックアップしたり、カレンダのビューをカスタマイズすること(カレンダや日付の表示範囲の変更など)ができる。またここには各種ロケールにおける時刻表示をするための“Date & Time”アプレットも用意されている。

 HomeタブにはRSSフィード用のブロックも配置できるが、各フィードは1つずつ手作業で追加しなければならない(OPMLインポートには非対応)。その代わり新規アイテムの表示数および更新頻度についてはフィード単位で設定できる。

Spicebirdの開発背景

 Spicebirdを作成したのはインドのハイデラーバードに所在するSynovelという企業である。同社による開発作業は完全なオープンソース形態で進められているが、その背景においては、Spicebirdをクライアントサイドコンポーネントとして使用するクライアントサーバ型コラボレーション製品の商用販売を計画しているとのことだ。同社による外部向けのバグ管理にはBugzillaサーバ、コードの公開はSubversionリポジトリにて行われている。

 Synovelの共同設立者であるPrasad Sunkari氏によると、同社からアップストリーム側のThunderbirdコードに対する貢献も行ってはいるが、Spicebirdでの変更は主としてフロントエンドの単純化に関係しているため、アップストリームでのパッチに反映されるケースはほとんど無いそうだ。ただし同氏は「バックエンドに関してはほぼ共通しているので、当方で求める変更点や対処したバグについてはアップストリーム側に報告するつもりです」としている。

 Sunkari氏の語るThunderbirdとSpicebirdとの間の最大の相違点は、Spicebirdでは単純化を目指しているということになる。つまりThunderbirdには高度なメール機能が装備されているが、Spicebirdではそれらの多くをそぎ落とす見返りとして、インタフェースに過大な負荷をかけることなくIMなどの諸機能を追加できるようにしてあるのだ。「Spicebirdは汎用プラットフォームとしての色合いが強く、インタフェースデザインも多数のアプリケーションを取り込めるようにしてあります」

 また同氏は、将来的にその他のコミュニケーションメソッドを追加サポートしていく可能性にも言及している。「現在進めているのはXMPPベースの各種アプリケーションですが、その他にもTelepathy(IM、ビデオ、VoIPをカバーする統合型接続マネージャ)やlibpurple(マルチプロトコル型IMクライアントのPidginで使われているライブラリ)についての可能性も検討しています」

機能拡張への対応状況

 SpicebirdのBeta 0.4における最大の不備の1つは、Thunderbird用の標準的な機能拡張が未だサポートされていない点だ。AddonsマネージャはSpicebirdの機能拡張サイトにリンクされているものの、このサイトは現状で立ち上げられていない。Sunkari氏によると、次のマイルストーンとなるリリース0.7の公開前には機能拡張サイトの運用開始にこぎつけたいとのことだ。

 MozillaのサイトからThunderbird用機能拡張をダウンロードして現行のSpicebirdにインストールできないかを試してみることは可能だが、その場合は当然ながら自己責任にて行う必要がある。Sunkari氏は、XPIを自分で編集する技能を有するユーザを前提とした話として、最新版のThunderbird機能拡張であれば、そのXPIにおけるアプリケーションIDなど“ごく一部”を変更するだけで利用可能にできるだろうとしている。「私自身もGmailUI機能拡張をSpicebird用に改造してみましたが、その際に行ったのはコード中のIDを3つ変更しただけです」

 Thunderbirdと機能拡張という使用法に愛着のあるユーザであれば、Thunderbirdに適切な機能拡張を追加するだけでは利用できないSpicebirdの独自機能が何かあるのか、という疑問が浮かぶことだろう。実際Thunderbirdユーザの立場からすると、カレンダ表示であればLightning機能拡張、XMPPプロトコルへの対応であればSamePlace機能拡張、RSSリーダに関しても各種の選択肢が存在しているのである。

 私個人の見解としては、機能拡張を介してこれらの機能をThunderbirdに追加可能なのは確かだが、Spicebirdで評価すべきはその統合度の高さであり、機能拡張どうしのコンフリクトを心配したり余分な作業に手間取らせられる必要のない点だと考えている。

 Thunderbirdのメンテナンスについては最近設立されたMozilla Messagingに移管されたところだが、同組織は将来のトランクリリースに向けて電子メール以外の機能を積極的に統合していくと声明している。しかしながらそうした将来の話ではなく、電子メール、カレンダ、IM、RSSを包含した統合クライアントが今すぐ必要というユーザであれば、Spicebirdの導入を真剣に検討してみるべきだろう。

Linux.com 原文