新規に公開されたCNR.comは中途半端な完成度

 昨年LinspireはソフトウェアディストリビューションサービスのCNR(Click‘n’Run)を、Debian、Fedora、openSUSE、Ubuntuディストリビューションのユーザに対して開放していくとのアナウンスを行った。そして先月出されたのが、Ubuntu 7.04および7.10(現行の最新2バージョン)をサポートしたCNRのベータ版の公開および他のシステム用バージョンも準備中であるというアナウンスである。ところが私が手元のUbuntuシステムでこれを実際に試したところ、残念ながら最終的な完成はまだまだ先の話であることが判明したのだ。

 私のUbuntuシステムは基本的にデフォルト構成のままであるが、そこにCNR Clientをインストールすると(Linspireリポジトリ経由あるいは通常の.debパッケージとして取得可)、合わせて13個の依存パッケージも取り込まれた。またこのインストール時にcnrグループへのユーザ登録も行われるので(どうやらcnrグループのユーザ以外はCNRを利用できないようである)、私は念のためにコンピュータを再起動させることにした。

 システムの再起動後ブラウザを立ち上げてCNR.comにアクセスしたが、ここのサイトでは、各アプリケーションの入手先をCNRクライアントに通知するためのXMLファイルである.cnrファイルのダウンロードが行えるようになっている。個々のCNRプログラムは専用のページに分かれており、そこには機能説明および使用ユーザによるレーティング評価とスクリーンショットが掲載されている(現状でユーザによるコメントが実際に寄せられているプログラムは、ほとんどない)。

 今回は試しにWineの.cnrファイルをダウンロードし、ダブルクリックで起動させてみた。これによりプログレスウィンドウが表示され、CNRクライアントによる同アプリケーションの.debパッケージがダウンロードされる。その後はWineのインストール完了まで特に行う操作はない。こうしてインストールされたWineのバージョンをチェックしたところ、LinspireおよびUbuntuのリポジトリにおけるバージョンは0.9.46とされているが、これは9月にリリースされたものである。ところが最新バージョンは0.9.52のはずなのだ。

 次にGlestというリアルタイム型の戦略ゲームを試したところ、今回はまた別の結果が得られた。CanonicalリポジトリにあるUbuntuバージョンには、正式リリース前であるUbuntu 8.04用のものしか収録されていないのだ。つまりCNR.comによるGlestのインストールは、LinspireとFreespire(何故かLinspireリポジトリに置かれている)ではできるが、Ubuntuでは行えないのである。ユーザとしては特定プラットフォームで使用可能なソフトウェアのみを一覧したいこともあるはずなのに、Linspireは何故そうしたソフトウェアのフィルタリングオプションを用意していないのだろう?

 またフリーソフトウェアをインストールする際のCNRは基本的にAPTのフロントエンドとして機能するのだが、これはSynapticやAdeptと同様の仕様ではあるものの完成度的には遥かに劣っている。それというのもこの操作は、最初に.cnrファイルをダウンロードしてから次にこれをダブルクリックしてインストールするという2ステップのプロセスで進行するのだ。実際Webバージョンでの操作は、ネイティブクライアントよりも扱いにくく処理速度も遅くなるものである。そもそも現行のcnrプログラムが行うのは.cnrファイルについての処理だけであって、この種の操作にWebページを介する必要性は無いはずなのに、何故Linspireはそうした専用クライアントを用意していないのだろう?

商用ソフトウェアのインストール

 CNRを介した商用ソフトウェアのインストールについては、それほど悪いものでもない。品揃えとしても、Crossover LinuxやCedegaなどの有名どころが含まれていなかったのは少し意外であったが、StarOffice 8を始めTuxRacer Deluxeなどの商用ソフトウェアがそこそこ豊富に揃っている。今回私はSoftware Tycoonが何故か気に入ったので(ユーザによるレーティングは1.5止まりである)、試しにこれをクリックしてみた。するとCNRサイトに設けられているSoftware Tycoonの購入ページに移動したのである。実際にソフトウェアを購入するには事前にCNRへのアカウント登録が必要で、支払いにはMastercard、American Express、Discover、Visaが使える(また意外なことにPayPalなどのオンライン決済システムには未対応である)。特にLinspireからは50ドルのプレミアムアカウントが提供されており、これを使用すると30%相当の割引を受けられるので、多数のソフトウェア購入を予定しているユーザにとっては朗報と言えるだろう。

 CNRでインストールしたソフトウェアのアンインストールは、APT、Synaptic、Adeptを用いて該当するパッケージを探すしかなかった。どうやらCNRにはCNR.comのソフトウェアをアンインストールする機能が用意されていないようなのである。なおインターネットを検索したところ、Freespireのwikiにてアンインストール手順の説明を見つけることもできたのだが、実際に試してみると上手く行かなかった。ソフトウェアのインストールはできるがアンインストールはできませんというクライアントは片手落ちだと思えるのだが。

 総合的に評価しても、CNRは中途半端な完成度という感がぬぐえない。なるほど商用ソフトウェアのインストールについてはいい線に達しているが、このシステムは商用ソフトウェアだけに特化した専用インストールクライアントではないはずだ。つまるところLinspireが提供開始した新規のサイトおよびソフトウェアについては、まだまだ改善の余地があるということである。

Linux.com 原文