レビュー:小さな筐体に豊富な機能を収めたAsus Eee PC
読者諸兄も最初にEee PCのサイズは9×6インチ程度で重量も2ポンドしかないというリリースを聞いたとき、我が耳を疑ったのではなかろうか。その外見からしても、この程度のサイズのデバイスはオモチャのコンピュータに毛の生えたものに違いないといった感想が関の山だろうが(Eeeという名前の響き具合もそうした印象に貢献している)、実際にフタを開けてみると、その小柄な外見に似つかわしくない機能と処理力を備えているデバイスだと実感させられることになる。
ハードウェア
Eee PCは、豊富な機能を小さなパッケージに収めるという難事にAsusが成功したことで誕生したマシンである。搭載プロセッサは空冷ファン式900MHz Intel Celeronで統一されているが、メモリ構成については各ユニット(モデル)ごとに異なっている。今回のレビューで私が使ったのは512MBソケットRAM(2GBにアップグレード可)モデルで、メインのストレージデバイスとして装備されているのは4GBのフラッシュメモリドライブ(SSD)である。ハードドライブよりも衝撃に強くデータを損失する危険性が少ないSSDを使うというのが、Eee PCにおけるAsusの設計思想なのであろう。またどのユニットも802.11b/gワイヤレスLANに接続できるようになっている。
グラフィックプロセッサはIntel GMA 900が搭載されており、私が試した限りのゲームおよびビデオで再生に問題が出ることはなかった。画面はLEDバックライト式800×480ドットの7インチ液晶が装備されており、どのような照明下でも鮮明な画像を映し出すことができる。特に私が気に入ったのは(オプションの)内蔵Webカメラ、マイクロフォン、ステレオスピーカで、エントリレベルのコンピュータとしては非常に魅力的な構成となっている。
注目に値するのはEee PC本体のハードウェア構成だけではなく、接続可能な周辺機器の対応ぶりについても同様である。筐体の左右側面には、2.0 USBポート3基、VGA出力、Ethernetポート、モデムポート、マイク入力、ヘッドフォン出力、ロック用スロットといったコネクタ類が多数配置されており、あまつさえMMC/SDカードリーダまで装備されているという充実ぶりだ。
ソフトウェア
Eee PCには、Xandros LinuxとKDEをベースにした完成度の高いオペレーティングシステムがプリインストールされている。起動に要する時間は数秒程度で、ブート直後に表示されるのはバンドルアプリケーションをセクション分けしたタブ型画面となっており、例えばInternetセクションでは、Wikipedia、Skype、iGoogle、Firefoxにアクセスできる他、Workセクションでは、OpenOffice.org、メモ帳、PDFリーダの起動、Playセクションでは、ゲーム、フォトマネージャ、メディアプレーヤの利用ができる。こうしたアプリケーションセクションは計6つ用意されており、コマンドラインからのタブ名変更にも対応している。
プリインストールされたソフトウェア群は子供向けのものが多いが(TuxMath、インタラクティブな周期表、辞書)、情報マネージャのKontact、メールクライアントのMozilla Thunderbird、先に触れたOpenOffice.orgスィートなど、大人の使用に耐えるアプリケーションも多数用意されている。またDebianリポジトリから追加ソフトウェアをダウンロードすることも可能だ。
私の個人的なEee PC使用体験
今回のレビューでは、コンピュータを中心とした私のライフスタイルにEee PCを組み込むことができるのかを検証するため、1週間のまるまる大半を費やして、仕事と遊びの両方で使っているコンピュータの代わりに使ってみることにした。その結果は非常に残念なことに、私とEee PCは生活を共にする運命にはなかったことが判明した。
つまずきの第一歩は、タッチパッドの使い勝手の悪さであった。その横幅は2インチしかなく(周囲にスペース的な余裕がない訳でもない)、しかもボタンのクリック感がネッチリとして非常に押しづらいのである。タッチパッドの感度設定も色々と変更してみたが、どれも功を奏さず、最終的にはUSBマウスを接続することにした。
決定的な破局に至った最大の理由は、ワイヤレスインターネット接続の不安定さである。箱から取り出した段階でワイヤレス接続は直ぐ使える状態になっていたのだが、その数日後には原因不明のまま接続不可能となり、オフィスへのワイヤレス環境につなげなくなってしまったのだ。オフィスにある他のコンピュータは正常に接続できていたことからルータ関連の原因は考えられなかったため、長々と理由をあれこれ探っていたのだが、ネットワークで検索したところ同様の問題に遭遇したのは私1人でないことが判明した。結局のところ私自身はこのワイヤレス接続の問題を解決できておらず、また多くのEee PCユーザはAsusのテクニカルサポートから“正規のルータ”との組み合わせで使用する必要があると告げられたとしているのだが、それを示すドキュメントも見つけられないままでいる。
Eee PCのキーボードは非常にコンパクトにまとめられているが、私の場合は慣れるまでにそれほど長い時間もかからず、程なくいつもの速度でタイピングできるようになった。もっとも手の大きな人間にとっては、小さいキーボードに合わせきれない場合もあるのではなかろうか。
アプリケーションその他のソフトウェア構成については特に不満を憶えることはなかった。最初にEee PCを起動した段階で、OpenOffice.org、Skype、Firefox、Pidginなどの古くから慣れ親しんだ顔ぶれを目にすることができたからである。もっとも少しマンガっぽくデザインされたアイコンは最後までしっくりこなかったが、こうしたものは各ユーザの好みの問題だろう。
オンライン接続機能がもう少しまともであったら、私のコンピュータライフにおけるEee PCの相性もここまで悪くはなかったかもしれない。実際、ハードウェア的な設計やソフトウェアのパッケージは非常にいい線に達しており、そのサイズは私が外出時に持ち歩くバッグにすっぽり収まる小ささであるし、非常に堅牢な作りになっているため取り扱いにそれほど神経質になる必要もないからである。
私の子供達のEee PC使用体験
自分自身でEee PCを一通り試した後、この製品本来のターゲット層である、私の子供達に手渡してみた。昔からこの手の装置で遊んできたうちの子供達にとってコンピュータなどは家の中で見慣れた存在であるはずなのだが、Eee PCはこの子達を虜にしてしまったのである。
7歳から10歳になる3人の息子達にとって、このユニットの何処が気に入ったかはそれぞれに異なっていた。長男の場合は速攻で理科と算数の学習アプリケーションに魅入られてしまい、我が家のルールで1日に許されていたGameboyでの遊び時間をEee PCに割り当てるようにまでなってしまったのである。お気に入りはプラネタリウムアプリケーションらしく、オリオンの三つ星といった夜空に浮かぶ天体を画面上に呼び出そうとあれこれ操作する姿を夜な夜な見かけるようになった。
9歳の次男が気に入ったのはマルチメディア系のアプリケーション群である。この子は自分独自の“ニュース番組”を収録すると、それを家族宛のメールで送信するようになった。画像とビデオを個別のマネージャで整理するのはもとより、サウンドレコーダを駆使していろいろと試した上でサウンドエフェクトまで付けてくるのだ。そして7歳になる末っ子は、新進気鋭のアーティストとしてTux Paintを使いこなすだけでなく、Letter Gameを使った単語の勉強に励んでいる。
これら3人の息子達は母親の手を煩わすことなく、いずれも自分で興味のあるアプリケーションの使い方をマスターしてしまった。作成したデータの保存法にしろ、必要な機能を持つアプリケーションの探し方にしろ、難なく使いこなしてしまったのである。確かにうちの子供達が以前よりコンピュータの操作に慣れていたのも事実だが、Eee PCの場合は初心者であってもトラブルフリーで必要なソフトウェアを見つけられるよう、かなり考えられた構成になっている点も無視できないだろう。
Eee PCのコンパクトすぎるキーボードサイズは、子供達にとっての最適な大きさになっている。実際にうちの子供達も、標準サイズのキーボードよりタイピングしやすいと言っていた。
将来への期待
Eee PCが適しているのは、席を温める暇なく外回りをメインに活動する人間や、携帯電話程度の機能では満足できないといったユーザであろう。機能的な位置付けとしては、電子メールを送受信できる程度のスマートフォンと、モバイルするには装備過剰なラップトップとの間を埋めるポジションといったところである。実際に私自身も、このタイプのポータブルコンピュータにEVDOカードを組み合わせて好きな場所で仕事ができるようになったら、早々にBlackBerryを手放すに違いない。それが現行のEee PCの後継者となる可能性も充分にあり得ることなのだ。
仮に私が自分の子供に買い与えるコンピュータを今から選ぶとすれば、疑問の余地なくEee PCを選択することになるだろう。